CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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(1)「カオス」(chaos)とは(2)「アトラクタ」(attracter)とは図:ローレンツ63モデルを可視化したものの一例。アトラクタは青い線で表されています。規則的に見える軌道を描いているところもあれば、規則的には見えない軌道を描いているところもあります。元々は、古代ギリシア人が考えた、宇宙発生以前のすべてが混沌としている状態のことを指します。しかし、ここでは、一見無秩序で複雑不規則な挙動を示しながら、純然たる不規則現象とは異なる現象のことを意味しています。力学の分野における自然法則や数理モデルは、いわゆる微分方程式によって記述されることが多く、すべては、初期条件によって決定されている、あるいは、少なくともその事象の確率は決定されると考えられています。カオスは、こうした状況において、初期条件のわずかな違いが瞬く間に増幅され、予測困難な挙動を示す現象のことを指します。自然における散逸系(エネルギーの出入りがある系で、エネルギーが保存されない)の運動は十分な時間が経つと特定の軌道や点に落ち着きます。この運動の過渡状態後の安定した状態をアトラクタと呼びます。アトラクタは、運動の複雑さや種類によってさまざまな形をとりますが、基本的には平衡点アトラクタ、周期アトラクタ、準周期アトラクタ、ストレンジ・アトラクタの4つに分類されます。4つ目のストレンジ・アトラクタは、非周期的、初期値鋭敏性、フラクタル構造(規模の尺度を変えても同じ形が現れる自己相似の構造)といった特徴をもっており、カオス・アトラクタと呼ばれていました。ダヴィッド・ルエール(David Pierre Ruelle, 1935 - )とフローリス・タケンス(Floris Takens, 1940 – 2010)は、このアトラクタが気体や液体などの乱流において生じることを解明し、ストレンジ・アトラクタという用語を提唱しました。ストレンジ・アトラクタは、決して同じ軌跡を通らないのに、何ものかに引き寄せられる(attracted)ような運動を繰り返します。そして、その軌道のどこを通るかによって、結果が収束する場合も、そうでない場合もあるということになります(図を参照)。コラム「カオス」と「アトラクタ」インタビューの中に出てくる2つの言葉についてまとめました。

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