CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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※2 Shiogama H., S. Emori, N. Hanasaki, M. Abe, Y. Masutomi, K. Takahashi, T. Nozawa (2011) Observational constraints indicate risk of drying in the Amazon basin, Nature Communications,2, Article number: 253 doi:10.1038/ncomms1252.プレスリリース資料(https://www.nies.go.jp/whatsnew/2011/20110330/201 10330.html)ら100km程度の水平解像度で計算しないといけないといった技術的な限界(たとえば100km解像度だと一つ一つの雲は計算できず、100km平均の統計的性質しか評価できない)も、気候モデルの不確実性の要因になります。このモデル不確実性を低減していくことは、重要な問題です。 モデル間の不確実性による幅は、物理変数によっては非常に大きい場合があります。たとえば、ある地域の 将来の降水量が、一つのモデルでは減少し、別のモデルでは増加するといったように変化の正負も異なる場合、どちらの予測の方が信頼できるのでしょうか?10年ほど前までは、それぞれの気候モデルが同程度の信頼性をもつと仮定して、1モデル1票の多数決で、多数派になった方の予測が信頼できると考えられていました。これをモデル民主主義といいます。 しかし多数派が信頼できるという考え方に論理的根拠がないことが認識されるようになり、各モデルの予測の信頼性を評価する手法の研究が現在活発に行われています。そのような信頼性評価研究では一般的に、観測された現在の気候状態や過去の気候変化傾向をよく再現できるモデルは、将来予測も信頼できると考えられます。ただし、現在や過去の気候のどの部分(たとえばどこどこの雨の分布)を正しくシミュレーションできれば、将来予測のどの部分(たとえば将来の日本の梅雨の変化)が正しいかを明らかにすることは簡単ではなく、大きな研究テーマになっています。 図3に、そのような信頼性研究の例を示します(Shiogamaほか(2011)※2)。南米大陸の水資源量の変化予測は大きなモデル不確実性があり、多くのモデルでは水資源量が増えます(図3a)が、少数のモデルではアマゾン川流域で水資源量が減ります(図3b)。モデル民主主義の考えに基づくと図3aの方が信頼できると評価されますが、様々な分析の結果、実は図3bの方が信頼性が高いということが示唆されました。(詳しくはShiogamaほか(2011)のプレスリリース参照)。

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