CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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の将来の影響評価に用いられています。 これまでの研究例では、排出削減による対策をあまり行わないケースだと、今後の数十年間に温度上昇が進み、植物の生産力や土壌の炭素量に大きな変化(増加する地域が多いが場所によっては減少もあり得る)が生じる可能性が示されています(図2(右))。どのような影響が起きそうかを前もって知っておくことは、生態系の管理や保全に役立ちますし、ひいては自然の恵み(生態系サービス)を受ける人間社会にも貢献することができます。 地球温暖化を想定した実験は、室内や野外の生態系でも行われた例がありますが、どうしても期間は短く、限られた範囲でしか行うことができません。その点、生態系モデルはコンピュータさえあれば、日本全体や世界全体のシミュレーションを、21世紀末までといった長い期間にわたり行うことができます。生態系モデルの用途は、ここで紹介したものに限りません。人工衛星(「いぶき」など)で観測した大気中のCO2データを解釈する際、気候モデルと組み合わせて温暖化の予測を行う際、さらに将来の社会シナリオを作成し温暖化対策を検討する際、など様々な課題の解決に必要となっています。 生態系モデルによる地球スケールのシミュレーションは、実は温暖化問題より前に、人口増加や食糧の問題が注目された時期(1960年頃)から行われていました。もちろん、その当時はコンピュータの計算能力が低く、モデルを作るための情報も不足していましたので、驚くほど簡単なモデルが使われていました。 現在では、コンピュータの性能は劇的に高まり、地上や人工衛星の観測から膨大なデータが時々刻々と集まって研究に利用することができます。そして多くの分野(例えば気象モデル)で、シミュレーションの精度や分解能は大きく向上してきました。例えば生態系についても、日本やアジアのような広い地域を対象に、空間分解能1km程度と非常に細かいメッシュで計算を行うことが可能です。狭い領域ならパソコンやもう少し性能が高いコンピュータ(ワークステーション)で計算できますが、アジアや全世界を扱う場合にはスーパーコンピュータによる計算が必要となります。03生態系モデルの本当のところ

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