CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
35/140

 なお、大気汚染物質はシミュレーションの対象領域外からも流入するので、対象領域外は先に計算をしておき、これを境界データとして与えることで、領域シミュレーションを行います。地域環境保全領域で運用している大気汚染予測システムVENUS(https://venus.nies.go.jp/)は、このような方法によって大気汚染のシミュレーションを行っています。 一方、「地球の気候変動」の大気汚染シミュレーションには、地球全体を計算対象とする「全球シミュレーション」を行います(図1a)。領域シミュレーションに比べて、計算する範囲が広いので、コンピュータの計算能力に限界がある状況下では、粗い解像度(50kmから300km)のシミュレーションしかできません。しかし、地球全体の影響を推定する場合には、粗い解像度であっても、大気汚染が気候への影響を与えるメカニズムを評価することが可能です。 具体的にいうと、大気汚染物質であるエアロゾルは、太陽光を吸収する成分と吸収しない成分があると同時に、吸湿性のあるものは凝結核となって雲を生成しています(図2)。これにより、放射フラックスを変化させ、気候に影響を及ぼします。これまでのシミュレーション研究によって、エアロゾルの存在は、全体としては地球を冷やす効果があることがわかっています。エアロゾルが地球の気温にどれほどの影響を与えるのか、というようなエアロゾルの気候への具体的な見積もりは、その不確実性が年々減少しています。 しかし、雲に関するシミュレーションには課題が多く残されており、大気汚染と雲の関係性に関しては不確実な部分が多いのが現状です。図2:大気汚染物質であるエアロゾルは、光を吸収する成分(黒色の丸)と吸収しない成分(白色の丸)があり、太陽からの光を散乱・吸収することで、太陽からの放射フラックスを変化させます。また右図で示したように、吸湿性のあるエアロゾルは雲凝結核となることができ、雲の微物理特性も変化させています。このように、エアロゾルは放射・雲を介して、気候変動にも影響を及ぼす物質です。

元のページ  ../index.html#35

このブックを見る