CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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計算が必要です。そこで、本文のタイトルに “シームレスに” と書いた通り、NICAMの特異なグリッドシステムが威力を発揮します。 図1aにあるように、NICAMは全球シミュレーション可能な数値モデルですが、図1bの左に示したように、ストレッチ格子法(Tomita, 2008)※1を用いることで、特定領域のみ解像度を細かくして、部分的に高解像度シミュレーションができる可変的なグリッドを採用しています。この可変的なグリッドの採用により、超大型のスーパーコンピュータによる全球高解像度シミュレーションではなく、通常のスーパーコンピュータによる領域シミュレーションでも、モデル改良のための試行錯誤を行うことができます。 もう少し具体的に述べます。図1bにおける領域シミュレーションで試行錯誤をして、大気汚染シミュレーションの改良を目指し、大気汚染物質を取り扱うプログラムの修正をしたとします。NICAM-Chemの場合、全球高解像度シミュレーションも領域シミュレーションも、大気汚染物質の計算を担うプログラムは共通なので、領域シミュレーションで修正した式をそのまま全球高解像度シミュレーションに適用できます。同時に、全球高解像度シミュレーションを行うことで、領域シミュレーションだけでは発見できなかった問題点を見出すこともできます。 例えば、領域によって主要なエアロゾルの種類が異なるため、ある領域においてシミュレーション結果が改良できても、他の領域では改良されたかはわからないからです。モデルを更に改良して、その後、領域シミュレーションを再度行い、より高度なレベルで大気汚染シミュレーションの改良を行うことが可能となります。 NICAM-Chemを用いれば、日本国内といった領域から全球まで、異なる空間スケールをスムーズに(“シームレスに”)扱うことができます。そして、このような開発サイクルを回し続けることで、モデルの継続的な改良を効率的に行うことが可能となります。このようなモデルシステムは世界でも稀なもので、私たちのチームではこのシステムを活かし、モデル改良を続けていきたいと思います。

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