CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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※2 Eagleson, P.S. (2002) Ecohydrology. Cambridge University Press, Cambridge, UK.※3 Nakayama, T., Watanabe, M. (2006) Development of process-based NICE model and simulation of ecosystem dynamics in the catchment of East Asia (Part I). CGER’s Supercomputer Monograph Report, 11, NIES, 100p., https://cger.nies.go.jp/publications/report/i063/I063※4 Nakayama, T. (2008) Development of process-based NICE model and simulation of ecosystem dynamics in the catchment of East Asia (Part II). CGER’s Supercomputer Monograph Report, 14, NIES, 91p.,https://cger.nies.go.jp/publications/report/i083/i083 生態系モデルは人間活動が地球システム全体に及ぼす影響を把握するために発展してきました。そして、生態系を複雑な非平衡システム(解体や自己組織化を繰り返す動的なシステム)とみなし、個別総和を超えて相互作用するネットワークとして内在する複雑性をモデル化します。 水循環研究での生態系モデルの対象領域は、河川・湖沼・湿原・氾濫原等の表面流のほかに、降水・積雪・氷河・表面貯留・土壌水分・蒸発散・地下水等も含まれます。水域生態系においては、水文生態学や環境流量・水質評価、河川生態系の構造や機能、汚染物質移動、流域評価などが重要になります。このような水循環を媒体とする生態系機能の評価のためのモデルには多種多様な型が存在しますが、モデルの各要素間、あるいは全体としての保存則が成立する(= 収支がとれている)ことが不可欠です(Eagleson, 2002)※2。この保存則の成立は、私が特に重視している地表水-地下水間及び陸水-陸域間での水・熱・物質移動のシミュレーションにおいて、観測値と比較・検証する上での前提条件となっています。 私が開発してきた統合型水文生態系モデルNICE(National Integrated Catchment-based Eco-hydrology)は、3次元グリッド型のプロセスモデルであり、さまざまな植生を含む自然地モデル・主要作物や灌漑を含む農業生産モデル・管路網や都市構造物を含む都市モデル・ダム操作や水輸送モデル等、いくつものサブモデルから構成されます(Nakayama and Watanabe, 2006)※3。 また、自然現象に加えて人間活動にともなう影響を評価し、環境と共存し、調和した経済発展を目指すためのツールとして技術・政策インベントリやシナリオとも結合しています(Nakayama, 2008)※4。02生態系シミュレーションは問題解決の糸口になるのか?

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