CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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NICEを地域スケールから全球・大陸スケールに拡張し、これまでグローバル炭素循環評価ではほとんど考慮されなかった陸水が炭素循環に及ぼす影響について、水文生態学と生物地球化学的循環の統合モデルNICE-BGCを用いて解析しています(Nakayama, 2019)※5(図1)。 地域スケールから拡張した地球システムでの気候変化、温室効果ガス挙動、土地利用変化、水・炭素・窒素・リン循環、生物多様性を評価する際には、植物・土壌・大気間での相互作用を理解するためにも、モデルとデータ統合、長期観測、マルチスケール、ネットワーク、システム理論などがさらに重要になります。陸域・海域と気候システムとの相互作用に加え、陸水が地球レベルの炭素循環に果たす役割を無視できないことが近年の研究により明らかになりつつあります。このような水・炭素循環は互いに制約条件となるので、不確実性を減少させ、モデル性能を向上させるためには、エネルギー・水・炭素・栄養塩間でのリモートセンシング・現地観測・モデル間での同化が、よりいっそう大きな意義をもつことになります。 生態系にはまだまだ明らかでないメカニズムが多くあり、内在する複雑性をどのように取り扱うかが重要になってきます。モデルは極力単純であるべきと主張する研究者がいる一方で、複雑なモデルは非線形相互作用(複数のサブシステムが複雑に関連しあっていること)を表現するのに重要と指摘する研究者もいます。今後の生態系モデルに必要なのは、近年いちじるしいグローバル環境変化に対する問題を解決し、処理する能力だと思います。地球規模での気温や二酸化炭素濃度の上昇はさまざまな時空間スケールで影響を及ぼしますので、熱力生態学(熱力学の観点から生態学のメカニズムをとらえようとする新たなアプローチの例)のように生態系モデルの既存概念を脱却することも必要です。 もう一つは、個別学問領域での水・物質・エネルギー循環のモデル化を越えて学際的なモデルを発展させ、生態系の概念を、異なる水資源、熱環境、物質循環、動植物を含むようにエクセルギー(使用によって失われるエネルギーを表す概念)などの適用・拡張によって捉えなおすことです。領域横断的03水循環を媒体とする生態系モデルはどこに向かうべきか?

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