CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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※6 Nakayama, T. (2014) Development of process-based NICE model and simulation of ecosystem dynamics in the catchment of East Asia (Part IV). CGER’s Supercomputer Monograph Report, 20, NIES, 102p.,https://cger.nies.go.jp/publications/report/i114/ja/な包括的システムを構築し多次元評価を可能にするとともに、win-win型解決(現実的には、複数の要素間でのベストな代替案)を目指すことも必要です。 また、グローバルネットワーク化は、生態系モデルを持続可能な生態系管理のための意思決定ツールとして共有化するのに重要な役割を果たします。オープンシステムなどのプラットフォーム普及にともなう生態系モデルの汎用化に加え、観測機器の進歩による生態系のオンラインモニタリングと同化しつつ現場で適用できるオペレーショナルモデルも必要になってきます。 最近では、生態系モデルのグローバルスケールへの適用に関する研究が増えています。生態学の代謝理論、個体ベースモデル、エージェントベースモデル、物理環境生息場評価モデル、水質生態系モデルなどの旧来のモデルの適用に加えて、動的エネルギー収支、人間-社会結合システム、都市システムモデル、最先端の計測・画像解析技術との統合、持続可能性評価などの社会的なニーズが高くなっています。 同時に、地球科学分野におけるモデルの相互比較は今後ますます増えていきます。このようなモデルの相互比較は、オープンソースでのネットワーク化やキャパシティービルディングにとどまらず、さまざまな教育や知識の創出に向けた取り組みとして、これからの生態系モデルのあるべき姿なのかもしれません。生態系モデルの流れを踏まえつつ、より大きな枠組みの中での地球科学コミュニティへの貢献は、これからの生態系モデルが向かうべき一つの方向だと思われます。 特に、NICEを用いて中国の長江・黄河流域を対象に洪水や渇水の極値現象の検出可能性をシミュレーションした際、衛星データとの融合による相乗効果を最大限発揮できるモデルの柔軟性が上記で述べた目標達成のために重要であると痛感しました(Nakayama, 2014)※6。今後新たに始まるさまざまな衛星ミッションにより、いっそうクリアな水圏の映像が得られると予想され、モデルとの統合によって早期警報・危機診断システムの枠組みを構築する必要が生じます。

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