CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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内海が代表的な閉鎖性海域です。これらの海域では、高度経済成長期に産業排水が原因で著しく水質が悪化したことは皆さんご存知かと思います。 その後、排水基準の設定・強化や総量削減など長年にわたる取り組みが進められた結果、水質は改善傾向が見られるものの、依然として赤潮・貧酸素水塊が毎年のように発生し、生物生産性や生物多様性に回復の兆しが見られないなど、「豊かさ」の確保に向けた課題や取組みは現在も続いています。 陸域からの流出に対して海域の環境や生態系はどのような影響を受けるのか?私は2006年に国立環境研究所に採用されて以降、一貫してそれを評価し、予測するための海域流動・水質・底質シミュレーションモデルの開発に取り組んできました。正確な評価と予測ができれば、「豊かな海の確保に向けてどのような対策をすればよいのか?」「陸域からの流出をどれだけ抑制・管理すればよいのか?」などについて、シミュレーションで具体的な施策や数値目標を検討することが可能になるからです。 これまで私が中心的に取り組んできた海の環境問題は、上記の国内三大閉鎖性海域で長年テーマになっている富栄養化です。閉鎖性海域の富栄養化問題は、陸域の人間活動で排出された栄養塩(窒素・リンなど)が海域に過剰に流入することで生じます。海域に流入した栄養塩は植物プランクトンに取り込まれ、光合成や増殖に利用されます。栄養塩の過剰な流入は、植物プランクトンの異常増殖、すなわち赤潮の発生に繋がります。 植物プランクトンの異常増殖は光合成によって有機物が大量に生産されたことを意味しますが、その一部は高次生物の餌として捕食・蓄積されるものの、大半は海底に沈降・堆積して、やがて微生物に分解されます。その分解過程において海水中の酸素が使用されるため、それが大量となると、生物の生息に必要な酸素が著しく欠乏した水、すなわち貧酸素水塊が発生することになります。この貧酸素水塊が生物の大量死、生態系の破壊を招く主要な原因となっています。 閉鎖性海域の水質や底質を対象としたモデルの開発およびシミュレーションは、上記のプロセス一つひとつに数式を与えて連立方程式を構築し、その02閉鎖性海域の環境予測が難しいわけ

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