CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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解法をプログラミングしてコンピュータで計算することになります。上記のプロセスだけでも、生物が絡んでいるために的確なモデル化は結構複雑なのですが、最も大事な点は、これらすべてのプロセスが海水の流れに則した輸送や拡散を伴っているということです。 したがって、閉鎖性海域の水質や底質を予測するためには3次元の流れの情報が必要ということになりますが、閉鎖性海域全体をカバーした密な時空間観測データという理想的なものは当然なく、現状では海水の流れもモデルシミュレーションに頼らざるを得ない状況です。 では、閉鎖性海域の流動シミュレーションはどうなのか?水質や底質の予測では基本的に長期間、短くても数ヶ月を対象とすることが多いため、こちらもそう簡単にはいきません。閉鎖性海域は、大気、陸、海洋すべての境界に位置し、それぞれの影響が重なる複雑な場となっています(図1(a))。川のように水の流れる方向が常に同じということはなく、潮汐や海上の気象、河川からの出水、時期と場所によっては黒潮の蛇行などの地球規模の気候にも流動は左右されます。 瀬戸内海はまだしも、東京湾や伊勢・三河湾は日本スケールで見てもとても狭い空間なのですが、流動シミュレーションは地球規模の環境変動の影響も考慮しなければなりません。そのため、モデルに与える外力データについても、海上の気象場(風、気温、湿度、熱放射量、気圧、降水量)、河川の流量、湾口・外洋の海象場(潮位、潮流・海流、水温、塩分)と多岐にわたり、これらを計算期間分だけ揃える必要があります。 さらに水質や底質の予測に必要な汚濁負荷物質の流出・流入量も加わってきます。これだけ膨大な入力データを必要とする点は閉鎖性海域シミュレーションの大きな特徴といえますが、モデルのみならず入力データの誤差や不確実性も相当含まれてしまうことは避けられず、閉鎖性海域の環境の正確な予測を難しくしている主な理由の一つになっています。

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