CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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て雨の降り方が変わるということなので、陸域からの淡水や汚濁負荷流出を予測するモデルも新たに作りました。現在のスパコンでも一つの気候シナリオの計算に20日間ほどの時間を要しますが、10年前ではとてもできなかったことなので、最終的な結果がどうなるかを大変楽しみにしています。ひょっとしたら閉鎖性海域の水質改善や環境再生がなかなか進まなかった理由が見えてくるかもしれません。 私の研究は流動モデルから始まりましたが、研究に着手した頃にはすでに気象や気候予測の分野を中心に多数の流動モデルが世の中に存在しました。関連する多くの論文やモデルのマニュアルを読み漁り、大変勉強になりましたが、これから開発する水質や底質モデルを組み込むには流動モデルのプログラムを細部まで理解する必要があったため、効率性を考えた末に流動モデルを自作することにしました。もちろんスパコンを使うためのプログラムの並列化も含めてです。 また、モデル構築のアイデアやモデルの確からしさを検証するデータを取るために、何回も船舶を使った現地調査に行きました(国立環境研究所ニュース33巻5号)。モデルの自作は、それなりの形にするだけでもかなりの時間と労力を要し、研究成果が出るのも遅くなるため、近年は避けられがちですが、自作の良いところはモデルの理解の深化、長所・短所の完全把握に加え、「新しくこれがしたい」と思ったときにすぐに応用が利くことです。 とくに最後の点は、冒頭で述べた「海では次々と新たな環境問題が浮上」への対応に活かされ、私の研究生活においても福島第一原子力発電所事故で海洋に漏出した放射性物質の動態予測(図2)(Higashiほか, 2015)や、深海の海底鉱物資源開発を想定した影響評価(東ほか, 2017)などの研究に役立っています。これから数値シミュレーション研究に取り組もうと考えられておられる方は是非一度自作にトライして頂きたいと思います。04シミュレーションモデルの自作

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