CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
61/140

かって列挙し、モデルを組み立てていきます。将来の気候変動をシミュレーションするには、大気のモデルだけでは足りなくて、海洋のモデル、陸上生態系のモデルなど、個々に開発されてきたモデル同士を結合して一つの大きな「地球システムモデル」を作る必要もありました。 必要な要素を揃えたら、今度はそれぞれの要素ごとの「確からしさ」が重要になってきます。モデルはあくまで「模型」で、コンピュータ上に地球のコピーをまるごと作れているわけではありません。たとえば、大気の流れを再現するために、およそ10の44乗個もある大気中の分子の一つひとつの動きを計算するわけではなく、大気を分子が集まった「流体」とみなす、という簡略化を行っています。 このように、物理現象をちゃんと表現できる程度に簡略化することがモデル化にとって重要です。そうしないと、コンピュータで現実的に計算できる計算量、データ量を超えてしまうからです。 コンピュータの性能がまだ十分でなかった頃は、かなり思い切った簡略化を行っていました。たとえば、二酸化炭素(CO2)による温室効果を世界で初めて数値シミュレーション結果で世に知らしめた、真鍋淑郎先生の1967年の論文の中で使われた大気モデルは、3次元ではなく1次元(高さ方向)だけしかありませんでした。それでも地球大気の気温の鉛直分布がCO2の濃度によって変わることを説明するのには十分だったわけです。 では今も簡略化されたモデルで十分かといえば、そうではありません。現代の私たちが明らかにしようとしていることには、50年前よりも時間・空間的により詳細で、高い精度が求められているからです。 コンピュータの性能向上と共に、再現精度を犠牲にした簡略化をやめて、より精緻化されたモデル(の部品)を使うようになってきました。中でも、大気や海洋のシミュレーションで一番重要だといっても過言ではないのが、空間解像度です。 図1に示したように、大気モデルは地球を覆う球殻上の大気を3次元の格子で分割して、それぞれの格子点での大気の状態を計算します。格子間隔が粗いと、起こっているはずの現象が見えなくなってしまいます。たとえば、100kmメッシュ間隔だと、首都圏と東京湾がまるまる入る領域に、計算する格子点が1点しかありません。これでは台風の形もわからないし、「晴れ

元のページ  ../index.html#61

このブックを見る