CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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ています。また、将来の二酸化炭素の増加によって、作物がより効率的に光合成を行うことができるようになる「施肥効果」も考慮されています。 この研究では図2(b)に示すように、将来の技術発展と施肥効果によって、どのシナリオでも将来の穀物収量は基本的に上昇する結果となりました。ただし気温上昇の最も大きい RCP8.5(赤)では、21世紀後半に穀物収量の低下が生じます。これは、特に昇温の大きい RCP8.5シナリオでは、気温上昇に伴い作物の生育期間が短くなることが原因と考えられます。 将来の食糧穀物のための農地面積の結果が図2(c)です。この研究では、食料需要の増加によって、21世紀の前半は食糧穀物農地面積が増加します。また穀物収量の増加(図2(b))のために、21世紀後半には、基本的に食糧穀物農地面積は低下します。しかし地表気温上昇の大きいRCP8.5 シナリオ(赤)では、21世紀後半に穀物収量が低下するために、食糧穀物農地面積が増加する結果となりました。 さらに、食糧穀物とバイオ燃料作物のための農地面積の変化を示した結果が図2(d)です。地表気温上昇を小さく保つためのシナリオ RCP2.6(青)では、バイオ燃料作物のための農地の拡大が必要です。RCP4.5(緑)でも、バイオ燃料作物のために広大な農地が必要なことがわかりました。 食糧穀物とバイオ燃料作物の農地面積変化の全球分布を図3に示します。2つのシナリオ(RCP2.6とRCP8.5)において、食糧穀物農地が南アメリカで、バイオ燃料作物がアフリカで増加しています。ここで利用した土地利用モデルでは、生物多様性の観点から、農地として利用すべきでない土地を保護するように計算を行っています。また、過去の農地データをもとに、農地として適した場所を穀物価格・穀物収量・GDP などの関数として表現することで、農地の分布を計算しています。 本研究の結果は、与える社会経済シナリオによっても大きく結果が異なってくることに注意が必要です。また、農地として利用しない場所をどのように設定するかによっても結果は変わってきます。現在、詳しい解析を進めています。

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