CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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 私たちの研究では、永久凍土融解による温室効果ガス放出が2100年までに及ぼす影響は、それほど大きなものではないという結果になりました。しかしながら、2100年においても、永久凍土はすべて融解してなくなるわけではなく、永久凍土融解による温室効果ガス放出は、21世紀末以降も気候変化に影響を与えうることがわかりました。 また、ある研究によると、たとえ人間による温室効果ガスの排出をゼロにしたとしても、海洋の温度がゆっくりと上がり続け、永久凍土の融解が進むことなどで大気中の温室効果ガス濃度が上昇し、今後数世紀にわたって地表気温が上昇し続ける可能性があることが報告されています※10。 永久凍土の挙動を含めた、今後数世紀にわたる地球システムと人間活動の挙動を分析することは、地球環境の将来を知り、私たちの社会をどう変えていくかにとって非常に重要です。100年を超える長期的な地球システムの挙動や、人間活動との相互作用を考慮した分析は、モデル開発の難しさや計算コストの問題などによって、これまでは簡易的なモデルが主に利用されてきました。 例えば前述の研究※10では、非常に簡単なモデルによって推定がなされているため、より複雑な数値モデルを用いた検証が必要であると、この研究を行った著者たちも述べています※9。より精度の高い分析のためには、MIROC-INTEG-LANDのような、複雑な地球ー人間システムの過程を考慮したモデルで検討を行うことが非常に重要だと私たちは考えています。 MIROC-INTEG-LANDのように複雑な数値モデルを利用して、長期的な計算を短時間に行うためには、スーパーコンピュータの利用が必要不可欠です。また、複雑な数値モデルには、様々な不確実要素があるため、モデルにおける不確実要素が結果に与える影響を調べるためにも、スーパーコンピュータを利用して数多くの実験を実行することが非常に重要です。 気候安定化を実現しうる方策を示すことに加えて、気候安定化がうまくいかない場合に起こりうる問題をはっきりと示す。これにより、気候変動の影響を避けるため、社会が脱炭素に向かうことに貢献する。これが私たちの研究における大きな目標です。

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