CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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※1 遠隔導水:計算格子を超えて水路や運河などを通じて導水される水を指します。水循環と水利用の計算は全て格子ごとに行われ、これまでは川の上流から下流への流下以外に格子間の水の行き来はありませんでした。導水は格子間の河川以外の人為的な水の流れを表現するものです。※2 その他の表流水:H08で扱う河川水、遠隔導水、貯水池の貯留水、海水淡水化以外に必要となる、表流水の水源を表します。これでは説明にならないので、以下でもう少し詳しく解説します。H08は取水源をまず、表流水と地下水に分けます。表流水の代表は河川水ですが、そのうち、遠隔導水されるものと、ダム湖やため池のようなところに貯めて使われる貯水池の貯留水は、区別して扱います。このほかに、サウジアラビアやアラブ首長国連邦などで盛んに使われるようになった海水淡水化も表流水に分類しています。これら以外に主要と言える表流水はありません。 国連機関の統計を見ると各国の年取水量が報告されています。H08はこうした統計を真実とみなし、コンピュータシミュレーションの中で取水しようとする水の量が統計と合致することを目指して開発されています。ところが、コンピュータシミュレーションを行うと、報告量に見合うだけの表流水がない地域や時期が多数見つかりました。そこで、いったん、「その他の表流水」という仮想的な表流水の水源があるとみなし、そこから水が取れたとしてコンピュータシミュレーションを続行し、完了しています。これにより、シミュレーション上「取水した」水の量は統計値と整合しますが、地域や時期によっては、「その他の表流水」に大きく依存している場合があります。「その他の表流水」の実態とは何か…これ以上の議論はここに書ききれないため、さらに詳しく知りたい方は原論文(Hanasaki et al. 2018)※3をご覧ください。取水量を正確に測定し、記録・報告するのは現時点の技術や制度では困難であり、統計値にも相当な不確実性があります。こうした点を克服していくことが、今後の重要な課題です。※3 Hanasaki, N., Yoshikawa, S., Pokhrel, Y., and Kanae, S. (2018) A global hydrological simulation to specify the sources of water used by humans, Hydrol. Earth Syst. Sci., 22, 789-817. https://doi.org/10.5194/hess-22-789-2018 人類はさまざまな水源から水を取り、生活や社会を維持しています。世界の複数の研究機関で地球の水循環と人間の水利用を扱うコンピュータプログラムの開発が行われてきましたが、時空間的に詳細に水源を特定することはできませんでした。 そこで、全球水資源モデルH08の水利用と水管理に関わるデータとコンピュータプログラムを大幅に改良することにより、取水が7つの主な水源、すなわち河川水(湖沼を含む)、遠隔導水※1、貯水池の貯留水、海水淡水化、その他の表流水※2、再生可能な地下水(雨水や雪解け水によって涵養される地下水で、使ってもまた回復するもの)および再生不可能な地下水(長い年月02研究1 人類の水利用の水源の推定

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