CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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逼迫と分類し、「一人当たりの水資源量指標」では1,700m3/人/年を下回る地域を中程度、500m3/人/年を下回る地域を非常に高い水逼迫地域と分類してきました。これらの指標と閾値に従った水逼迫地域は、専門家の実感によく合うのですが、なぜ20%なのか、なぜ1700m3/人/年なのかについては説明がないままでした。 そこで、改良されたH08を使ってこの謎を探ってみました。H08を使って、大規模な水管理である遠隔導水と貯水池、再生可能でない水資源である海水淡水化、その他の表流水ならびに再生可能でない地下水を使わない状態で、1年を通して必要な分だけ再生可能な水源(河川水と再生可能な地下水だけ)から取水できるかを世界の全格子にわたって計算しました。この計算結果を「水充足率」と呼ぶことにします。つまり、1年を通して必要な分だけ取水できたら100%、全くできなければ0%となります。 水充足率と「水ストレス指標」および「一人当たりの水資源量指標」を比べると、前者が20%を上回る、あるいは後者が1700m3/人/年を下回る格子の過半数で、水充足率が99%より小さくなりました。つまり、これらの指標と閾値は、取水が大規模な水管理なしに再生可能な水資源だけでは賄えなくなる転換点を指していたことがわかりました。同じく、それぞれ40%を上回る、あるいは500m3/人/年を下回る、(非常に)高い水逼迫の格子では、水充足率がそれぞれ80%未満、40%未満となり、大規模な水管理や再生可能でない水資源に頼らなければ、取水量が到底賄えないことを示しています。つまり、「水ストレス指標」および「一人当たりの水資源量指標」と閾値は、「大規模な水管理を行わず再生可能な水資源だけで、どれくらいの取水を賄えるか」を表していたということがわかりました。 さらに、「取水が大規模な水管理なしに、再生可能な水資源だけでどれくらい賄えるか」を代替するための最適な閾値は地域によって異なり、「水ストレス指標」は河川流量の季節変動と、「一人当たりの水資源量指標」は一人当たりの灌漑面積と強い関係があることもわかりました。H08によるこうした分析に基づいて、これらの二つの指標に対する新しい閾値も提案しました。

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