CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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※4 水リスク:企業活動の障害となりうる水に関するリスクの総称です。工場や店舗などが洪水で被害を受けること、渇水による取水制限で水道が止まり、生産や営業を停止しなければならないこと、などが想起されますが、水リスクの概念はもともと地球環境問題に敏感な海外で生み出されたもので、その影響は、必ずしも、工場や店舗の被害や生産や営業の停止による資産の減耗や利益の喪失だけに留まりません。むしろ、水リスクは、企業活動が将来にわたって持続可能か、さらには、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成への貢献など、世界をよくするのにつながっているかを問うもので、こうした観点からのリスクがより重視されます。こうした背景から、世界における水リスクは、平時の企業活動での水利用の持続可能性により焦点があてられています。 これまで見てきた通り、H08を使ってコンピュータシミュレーションを行うと、世界の自然の水循環と人間の水利用のさまざまな要素が計算でき、水利用の持続可能性などの評価につなげられます。ここで、将来の気候や水利用を想定することができれば、遠い将来についても水資源評価を行うことができます。 気候や水利用の将来を想定し、コンピュータシミュレーション用にデータを準備するのは大変な作業ですが、大勢で力を合わせてこれを行い、水資源に留まらず、農業や生態系といったさまざまな分野のコンピュータシミュレーションを行うことを目指しているのが Inter-Sectoral Impact Model Intercomparison Project(ISIMIP https://www.cger.nies.go.jp/ja/news/2014/140206.html) という国際プロジェクトです。H08は2012年以降ISIMIPに参加し、さまざまな気候や社会の想定に基づいた多数の将来水資源評価を実施してきました。 ISIMIPはほぼ全ての情報を公開しており、皆さんもH08の計算結果をダウンロード(https://www.isimip.org/outputdata/)できます。ただし、公開されているのは50km格子の月単位(場合によっては日単位)のコンピュータプログラムの出力で、専門家以外が解釈したり、利用したりするのは事実上不可能でした。 そこで、結果をわかりやすい指標に変換し、ウェブブラウザを使って見ていただけるようにしたいと考えました。この提案は環境研究総合推進費に採択され、2018年度から2020年度にかけて「企業の温暖化適応策検討支援を目的とした公開型世界水リスク評価ツールの開発(https://www.nies.go.jp/04研究3 H08水リスクツールの開発

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