CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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※2 山下陽介「春先の北極オゾン大規模破壊は事前に予測できるのか? ~成層圏準2年周期振動や太陽活動の11年周期といった長期変動に伴う北極オゾン量変化の解析~」地球環境研究センターニュース2021年7月号※3 赤道成層圏で西風と東風の風系が交互に現れて下降する現象。その一巡する周期はおおよそ2年程度。 なお、オゾン破壊量は南極に匹敵するものの、北極のオゾン量はもともと南極より多いため、南極ほどの低オゾン域にはなりません。しかしながら、このようにオゾン層が回復していく中で、北極域では春先のオゾン層が脆弱になる年があるため、大規模オゾン破壊の要因を明らかにすることは、高緯度にも居住者がいる北半球での健康影響を軽減する上で重要な課題と考えられます。そこでオゾン層のシミュレーションに用いられてきたCCMを用いた研究に取り組みました※2。 このように、成層圏の極渦は対流圏から成層圏に伝播してくる波活動の影響を受けています。さらに、こうした波活動や平均的な極渦のひと冬の変化傾向は、それよりもゆっくりとした太陽活動の11年周期や、準2年周期振動(quasi-biennial oscillation: QBO)※3の影響を受けていることが知られています。そこで、このようなひと冬の変化よりもゆっくりとした現象を指標とすれば、春先の大規模オゾン破壊を冬に入る前に予想できるのではないかと考えました。 赤道成層圏で西風の場合を西風相、東風の場合を東風相と呼び、太陽活動を極小期と極大期に分け、これらQBOと太陽活動の指標を用いて4種類の年に分類し、春先の大規模オゾン破壊の要因を調べました。例えば先にあげた2010~2011年や2019~2020年の冬季は、QBOが西風相、太陽活動が極小期の場合に該当します。衛星観測のオゾンデータが存在している1979年から現在までを毎年調べていくと、同様にQBOが西風相、太陽活動が極小期となる年には、必ず大規模オゾン破壊が発生するというほど明確ではないものの、ひと冬を通して極渦が強く春先のオゾン量が少ない傾向にあることがわかりました(図3)。

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