CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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になりました。これらの事例のうち、先にあげた大規模オゾン破壊が起こった2010~2011年を詳しく調べると、冬季を通じて極渦が安定し極域の気温が低下していたため、化学反応による変化が全体の2~3割程度と大きな割合を占めていたことがわかりました。このように、数値モデルの中の地球では、実際の地球では行うことのできない実験を行うことができ、観測などでは得られなかった知見を得ることができるというのがシミュレーションの強みです。 本記事では、オゾン層のシミュレーションを行うモデルを用いた研究について紹介しました。QBOや太陽11年周期のようなひと冬の変化よりもゆっくりとした現象を指標として冬季~春季のオゾン変化を調べると、QBOが西風相、太陽活動が極小期の際に、主に大気中の輸送により春先のオゾン量が少ない傾向にありました。数値モデルを用いることで、春先のオゾン量が少なくなる要因を化学反応と輸送に分離することができ、輸送による変化が化学反応による変化を大きく上回ることがわかりました。将来的に多くの事例計算を行うことができれば、モデルで再現されたオゾン変動や関連する気象場をより統計的に有意に解析できるようになりメカニズム解明につながると期待されます。 本記事で紹介してきたCCMでは、大気の運動を扱うための予報変数に大気微量成分の予報変数も加わるため、大規模なメモリが必要となります。また、これら大気微量成分の反応や輸送などの計算が元の数値気候モデルの計算に加わるため、計算コストは数倍になってきます。このため大容量のメモリや計算性能の高いCPUが搭載されたスーパーコンピュータ(スパコン)の利用は必須ですが、それでも元の気候モデルよりは空間分解能を粗くせざるを得ません。 CCM相互比較プロジェクトに参加したモデルは、気候予測のモデル間相互比較CMIPに用いている気候モデルよりも水平分解能を半分程度、鉛直格子点も半分程度に少なくしています。CCM相互比較プロジェクトでは20世紀後半から21世紀までのシミュレーションを行いましたが、10年以上前03まとめと今後の展望

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