最近の研究成果 東アジア起源のブラックカーボン排出量の検証
東アジアは人為起源のブラックカーボン(BC)*1排出量が最も多い地域であり、世界全体の排出量の約3割を占めます。BCによる気候や大気質への影響は、排出インベントリ*2による排出量を入力値として与えた気候モデルや大気質モデルによって評価されます。しかし、排出インベントリによるBC排出量の推計値には大きな不確実性が含まれていることが知られており、観測やモデルを用いた独立した手法による検証が重要となります。本研究では、国際的に幅広く利用されている6種類の排出インベントリを対象に、モデルと地上観測データを用いて中国からのBC排出量を検証しました。
まず、6種類の排出インベントリについて2010年の中国からのBC排出量を比較したところ、推計値には約2倍の差があり、インベントリ間で大きなばらつきが存在することがわかりました(図1の横軸)。次に、各インベントリのBC排出量を大気化学輸送モデルに入力したシミュレーションを行い、アジア大陸由来の大気汚染の観測に適した長崎県福江島でのBC観測値と比較しました。中国からのBC排出量を検証するために、観測とモデルの比較には、中国起源BCの影響が大きくかつ、輸送途中で降水による大気中からの除去が生じていないデータのみを使用しました。
解析の結果、4つのインベントリについては、モデルと観測のBC濃度比が50%以内で一致し、観測やモデルの誤差を考慮すると排出量推計値に大きな誤差は見られないことがわかりました。一方、残り2つのCEDSインベントリとECLIPSEv5aインベントリについては、BC排出量の過大評価が示唆されました(図1)。CEDSインベントリは、IPCC第6次評価報告書で参照された第6次結合モデル相互比較実験(CMIP6)に使用された排出インベントリであり、CMIP6のシミュレーション結果において中国起源BCの温暖化影響が過大に評価されている可能性が示唆されました。今回の成果は、IPCC第7次評価に向けたモデル実験の改善に役立てられることが期待されます。