丹羽洋介主任研究員が日本気象学会2022年度正野賞を受賞しました
2022年10月24日(月)~27日(木)に開催された日本気象学会2022年度秋季大会において、地球システム領域物質循環モデリング・解析研究室の丹羽洋介主任研究員が正野賞(気象学及び気象技術に関し優秀な研究をなした若手研究者に対する顕彰)を受賞しました。
【研究業績】
観測とモデルの融合による全球温室効果ガス収支に関する研究
【選定理由】
地球表層の炭素循環は地球温暖化に重要な影響を与える要素であり、温暖化予測の精度向上ならびに温暖化緩和策の策定に対して炭素循環メカニズムの解明は必要不可欠である。特に二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出・吸収を定量的に把握・監視することの重要性は近年さらに高まっている。丹羽洋介氏は、大気観測データから物質輸送モデルを用いて温室効果ガスの排出・吸収量推定を行う逆解析の手法について、関連する研究開発を一貫して実施しており、国際的に見ても先駆的な逆解析システムを構築した。さらに、開発したモデル・システムを用いて航空機観測を中心とした解析研究を進め、温室効果ガスの排出・吸収量推定における航空機観測の有用性を実証してきた。
まず、丹羽氏は、温室効果ガスなどの長寿命気体の計算に重要な質量保存を完全に満たすことのできるモデルとして、我が国で開発された全球大気モデル NICAM に一早く着目し、NICAM をもとにした物質輸送モデル NICAM-TM を東京大学大学院の修士課程在学時に独自に開発した。さらに、本モデルを用いて国内外の二酸化炭素の大気輸送や逆解析に関するモデル比較実験に参加し、開発したモデルが世界と比肩するものであることを実証した。逆解析のモデル比較実験の成果は IPCC 第 5 次評価報告書にも用いられ国際的な貢献を果たした。一方、広域の航空機観測データを用いた二酸化炭素収支に関する逆解析も実施し、地上観測が不足している熱帯の排出・吸収量推定などに対して新たな拘束条件を与えられることを世界で初めて示すとともに、南アジアにおける強い二酸化炭素吸収の存在など、アジア域での炭素循環に対して新たな知見をもたらした。
さらに丹羽氏は NICAM-TM をベースとして4次元変分法を用いた新たな逆解析システム NISMON (NICAM-based Inverse Simulation for Monitoring)の開発にも独自に取り組み、国際的に見ても最先端のシステムの開発に成功した。また、海洋データ同化分野で開発された最適化アルゴリズムを応用し、その導入によって逆解析の精度が向上することを実証した。一方で、通常の4次元変分法では導出困難な解析後の誤差情報について、一般的な最適化手法である準ニュートン法を発展させた新たな推定アルゴリズムを考案し、精度よく効率的に誤差情報を導出することを可能とした。この逆解析システムは、NICAM の応用からシステム全体の構築に至るまで丹羽氏のアイデアに基づいて構築された独創的なものであり、海外の研究機関では分業で行うところ、一連の開発を一人で成し遂げたことは特筆すべき点である。
このシステムを活かして丹羽氏は東南アジアにおける航空機や船舶などの移動体による観測に適した逆解析を行い、大規模な森林火災からの二酸化炭素の放出量を推定することに成功した。さらに国際的な炭素収支プロジェクト(Global Carbon Project: GCP)の二酸化炭素やメタンの統合解析に参加し、最新のグローバルな炭素収支推定に継続的に貢献した。これらの解析結果は IPCC 第6次評価報告書においても最も信頼性の高い温室効果ガス収支として重要な役割を果たした。
一方で、丹羽氏は世界的な温室効果ガス航空観測プロジェクト CONTRAIL に長年参画して、その観測データを活かした解析研究を進めると同時に、データ管理やデータ公開などに尽力し、2016 年以降は実施責任者の 1 人としてプロジェクトの推進を担ってきた。
これらの実績が示すとおり、丹羽氏は我が国を代表する研究者として今後の炭素循環研究を牽引し、気象学の発展と社会貢献に寄与していくことが期待できる。以上の理由により、日本気象学会は丹羽洋介氏に 2022 年度正野賞を贈呈するものである。
※選定理由に関する詳細は、日本気象学会ホームページ(https://www.metsoc.jp/default/wp-content/uploads/2022/09/6e696c0d5ebcfb68557093a8f78ea9c4.pdf)を参照してください。