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中核研究プロジェクト2 衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定

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〔平成22年度の成果の紹介〕

 当研究プロジェクトでは3つの研究グループにより研究を実施し、その成果は国環研GOSATプロジェクトオフィス事業に反映しています。それぞれの22年度の主要な成果は下記の通りです。

衛星観測データの処理アルゴリズム開発・改良研究

GOSATにより取得された実観測の短波長赤外波長域の晴天域の輝度スペクトルから導出された二酸化炭素・メタンカラム平均濃度(以下、XCO2, XCH4)を2010年2月に公開しました(図1左)。この導出結果には「ダスト等に起因する極端な高濃度バイアス」および「巻雲等に起因する極端な低濃度バイアス」が見られており、これらの影響を低減するためのアルゴリズム改訂を実施しました。水蒸気の飽和吸収帯を利用した、より精度の高い巻雲検知、および酸素の吸収帯を利用した実効的な光路長補正を取り入れることで上記の問題を概ね解決することができました(図1右)。この改訂版のアルゴリズムを適用して導出したXCO2, XCH4は2010年8月から公開されています。なお、改訂版の導出結果にも依然として数%の低濃度バイアスが残っており、バイアス要因の特定とその対処を進めています。

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図1 晴天域における二酸化炭素カラム平均濃度の2.5度メッシュ平均値分布(2009年4月の例)左:改訂前、右:改訂後
図1 晴天域における二酸化炭素カラム平均濃度の2.5度メッシュ平均値分布(2009年4月の例)左:改訂前、右:改訂後

地上観測・航空機等観測実験による温室効果ガス導出手法の実証的研究

衛星からのデータプロダクトを科学利用するためには、より不確かさの小さい独立の観測装置によって取得される検証データを用いて、そのバイアスやばらつきを評価することが必須です。地上設置の高分解能フーリエ変換分光器によるカラム量測定、航空機による濃度の鉛直分布の測定値から算出したカラム量を検証データとして使用します。
改訂版のアルゴリズムを適用して導出されたXCO2, XCH4の検証を行いました。GOSATのカラム量およびカラム平均濃度は検証データに比べて低めであり、XCO2の場合は2~3% 程度、XCH4は1% 程度低いことが明らかとなりました(図2)。帯状平均されたGOSATのXCO2とXCH4の緯度分布は、負のバイアスを除けば概ね検証データと一致しています。検証データからも、「ダスト等に起因する極端な高濃度バイアス」および「巻雲等に起因する極端な低濃度バイアス」の問題が概ね解決されたことが示されました。GOSATのバイアスの原因の解明とバイアスとばらつきの減少を目指し、さらに研究を進めていく予定です。

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図2 GOSATと地上設置の高分解能フーリエ変換分光器によるXCO2およびXCH4の比較 
図2 GOSATと地上設置の高分解能フーリエ変換分光器によるXCO2およびXCH4の比較

全球炭素収支推定モデルの開発・利用研究

GOSATの観測から得られたXCO2データを用いた地表面二酸化炭素収支の予備推定(インバースモデル解析)を実施しました。解析に必要となる地表面収支の先験情報のうち、陸域植生–大気間収支を与える生態系プロセスモデルVISITの各種植生の活動に関する主要なパラメータを最適化するスキームを構築しました。加えて、最新の夜間光衛星観測データや月ごとの排出量データから月変動を考慮した化石燃料燃焼由来の人為的排出量先験データを準備しました。これらの地表面収支先験データとGOSATのXCO2データおよび地上測定値の将来予測データを用いて、全球64の亜大陸領域における二酸化炭素収支の暫定値を求めました(図3)。検証結果に基づきGOSATのXCO2に一律的にバイアスを補正し、それらを5度×5度格子の月平均値に直して解析に使用しています。GOSATの観測によりデータ点数が増加したことで、南米やアフリカなどの地上測定点の乏しい地域における収支量の不確実性は、地上測定値のみで推定した場合に比べ最大で3割程度(暫定結果)低減することがわかりました。

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図3 GOSATのXCO2データおよび地上測定値の将来予測データを用いて推定された、全球64の亜大陸領域における二酸化炭素収支の暫定値(2009年8月の例) 
図3 GOSATのXCO2データおよび地上測定値の将来予測データを用いて推定された、全球64の亜大陸領域における二酸化炭素収支の暫定値(2009年8月の例)

国環研 GOSAT プロジェクトオフィス

国環研GOSATプロジェクトでは、所内に構築したGOSAT Data Handling Facility(GOSAT DHF)を使用して、GOSATから観測されたデータをJAXA経由で受信し、データの処理・保存・配布を行っています。解析に必要な参照データとともに膨大なデータの処理を、国環研内部および外部の計算機を利用して行っています。処理の結果として、二酸化炭素やメタンのカラム量、そしてそれらのガスの吸収・排出量がプロダクトになります。また、それらの処理に必要な雲やエアロゾルの情報も、GOSATプロダクトから計算されます。2009年1月23日のGOSAT 打ち上げ以降、JAXAと協力して処理されたGOSATプロダクトは、優先的に研究公募で採択された研究者に公開されました。その後、2009年10月末からスペクトルデータなどのレベル1プロダクトを、2010年2月から炭酸ガス・メタンのカラム量などのレベル2プロダクトを、2010年11月からレベル2プロダクトを元に作成されるレベル3プロダクトをそれぞれ一般に公開しました。GOSATプロダクトの検索・入手は下記のサイトから行うことができます。
http://data.gosat.nies.go.jp

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図4 GOSATデータ処理の流れ
図4 GOSATデータ処理の流れ
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