オンラインイベント「温室効果ガス研究の最前線 -パリ協定の目標達成に向けて-」

オンラインイベントのQ&A(参加者からの質問への回答)

公開日:2022年3月14日

※いただいた質問のうち、今回の登壇者が回答できたものを掲載しています。

Q1日本が近未来に推進すると言われる火力発電におけるアンモニアの混焼が今後のN2Oの排出や生成に影響を及ぼすことがありうるでしょうか?
By combustion, we do not produce N2O, and I suppose nitrogen in NH3 when used in a power plant will be producing NOX (NO, NO2), which are air pollutants. No N2O from NH3-fueled power plants - that’s my thinking.
Q2人間が生存するうえで生産活動プロセスにてインプット環境から市場での使用環境からアウトプット環境で、環境影響に著しいCO2・CH4・N2O等の時系列変化値で全て目標値に向いて進んでいますか?それと現段階にて発生抑制(リデュース)、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)、熱回収、埋立処分で層別すると環境側面でバランス均衡は良好でしょうか?
This is beyond my research expertise. But from what I read in the news papers, it doesn’t matter what stage we capture and remove CO2, CH4, N2O and other longlived gases. These gases lives in atmosphere for longer than 10 years up to 100 years once released from the source. See this news - how CCS technologies are being thought out : https://the-japan-news.com/news/article/0008240189
Q3アジアの温室効果ガスを減らすために、東南アジアの土地開発の点から、どのような点で開発を進めていけばよいと思われますか。
東南アジアでは木材の伐採だけでなく、焼畑の拡大やアブラヤシやゴムなどの栽培のため森林減少が進んで来ました。温室効果ガス削減の点では、このような森林減少や劣化を抑制することが考えられます。特に熱帯泥炭地のような炭素ストックが大きい場所での開発は大きな放出につながるため注目されています。
Q4Patraさんへ ロシアでのCO2フラックスが2016-2020年に急にプラス側に近づいているように見えましたが、これはどれだけ多くの観測データによって裏付けられている確からしそうな結果でしょうか? ロシアでの人為的な排出量が増えたのか、自然吸収量が減ったのかどちらの影響が大きいのでしょうか?
That’s a nice question. In that plot we show non-fossil CO2 fluxes, which mean that for a known fossil fuel emission our model estimate source/sink on the land biosphere. There was a very warm climate anomaly in the post-2016 period over Russia/Siberia. Those natural climate anomaly drives CO2 flux anomaly up and down. We independent measurements, such as the health of eecosystem (NDVI, Fire, etc) to support such results from inversion.
Finally, we do not use any observation from Russia in our inversion, but still the atmospheric transport carry the emission/sink signals to the sites located in the down-winds of Russisa and CO2 flux anomalies are estimated by the inversions.
Q5世界的に1.5℃を達成に向けて法律等で手段として温室効果ガス削減されていますが、世界各国は日本も自国の国益を守る為に軍事力の陸・空・海と軍事機器や戦闘機なども増加しています。日本政府の府省庁目標で、防衛省に温室効果ガスの目標を情報公開を申請しましたが機密として公開されません。公開しない事は裏を返せば戦闘力の低下になる次世代戦闘機等の軍事力は無理なので軍事機器は環境温室効果ガス削減には実際は何もしないという事がファクトでしょうか
現時点では、すべての業界またはセクターが開示しているわけではありません。 炭素の価格設定は、世界中の多くの国でまだ議論されています。 でも、利用できる科学的ツールはますます増えています。 リモートセンシングと推定を含み、これらのセクターの影響のアイデアを与えることができます。
Q6GHGsのうちCO2排出量の増加が最も顕著であり、削減すべきということでしたが、地球温暖化係数を考慮した際も、削減すべきはCO2になるのでしょうか。
Absolutely, YES. Reduction of CO2 emissions is must to meet any climate warming mitigation goals. The CO2 emissions and concentration are several order of magnitide greater than other species. Just to give you an example, CO2 concentration today is 410 ppm, CH4 is less 2 ppm, and N2O is 0.33 ppm. The emissions of CO2 to atmosphere is about 40 Pg-CO2/yr, 0.6 Pg-CH4/yr and 0.024 Pg-N2O/yr
※パネルディスカッション中の回答もご参照ください。
Q7Patraさんの発表に関連して、CO2のsinkとしての陸域生態系と海洋の吸収能力は衰えているあるいは飽和し始めているのでしょうか。モデルからは今後も陸と海の吸収量はバランスを維持するのでしょうか。

May be an incomplete question! We still believe the sink capacity of land and ocean have performed very well until now, but we are sure about the future. The IPCC AR6 WG1 analysis suggests we are heading towards lower sink capacity per emssion of CO2 if actions are not taken to reduce CO2 emissions. (as discussed by Hajima-san using SSPs)

海洋に限っていえば、吸収能力が衰えているという直接的な証拠は得られていません。しかし、海洋の温暖化が進むと、海水中のCO2(分子)とイオンのバランスが変化して、分子が増えるため吸収する能力が少なくなるのではと危惧されます。

Q8パリ協定の緩和策グローバルストックテイクは人為起源のGHG排出の世界合計と地域別寄与を明らかにするものだと思いますが,天然起源と人為起源の排出をどのように分け,その不確実性はどのように評価されるのでしょうか.可能な範囲でご教示下さい.
まずボトムアップ(積み上げ)法では始めから自然起源と人為起源を分けて評価しています。トップダウンで用いる観測データは自然と人為の両方を反映していますが、逆解析のモデルでは観測の分布や変動が最も良く再現されるような人為起源排出と自然起源の交換を推定しています。不確実性は、トップダウンとボトムアップの比較、データや研究間の比較で評価されます(データ同化を行う大気モデルではモデルの中で誤差を扱っています)。
Q9パリ協定の緩和策グローバルストックテイクは人為起源のGHG排出の世界合計と地域別寄与を明らかにするものだと思いますが,天然起源と人為起源の排出をどのように分け,その不確実性はどのように評価されるのでしょうか.可能な範囲でご教示下さい.
メタンやN2Oは相対的に不確実性が大きそうですね.機会があれば議論させて下さい.
Q10基本的な質問で恐縮ですが、アジアでの排出量が多いのはなぜでしょうか。先進国のサプライチェーンからの排出量ということでしょうか。
いくつかの情報源がありますが、1つの理由はエリアのサイズです。 人口の増加と急速な都市化により、農業(稲作など)などの産業活動が活発化しています。
Q11海洋ごとにCO2の吸収量が変わるのは、何が一番の要因でしょうか?海面水温、風速などでしょうか?
海面水温と風速どちらも主な要因です。(無機)炭素量の少ない赤道域の水塊が黒潮やメキシコ湾流などで高緯度へと輸送される間に冷やされ、溶解度が高まることでCO2を吸収しやすくなります。また高緯度は特に冬季に風速が強いので、大気から海洋へのCO2吸収が効率よく行われます。
Q12海洋へのCO2吸収が増えた場合に海水温への変化相関はありますか?
海洋がCO2を吸収することによる水温への変化はないのですが、温暖化で水温が上昇すると海水中のCO2と炭酸イオンのバランス(平衡)が変化し、結果として温暖化前よりも吸収しにくくなると考えられます。一方、温暖化は海洋の循環も変えますので、海洋から放出されるCO2が減少するという見方もあり、観測による監視とモデル精緻化による検証が必要です。
Q13中岡さんへ 熱帯域での海洋CO2吸収量には特に年々の変化が大きく見えたのですが、エルニーニョ・ラニーニャ現象による影響が大きいのでしょうか?
ご指摘の通りで、エルニーニョになると特にペルー沖で深いところにあるCO2(や栄養分)が豊富な水塊が表層へ輸送(湧昇)されにくくなる(ラニーニャはその逆な)ので、海洋からのCO2放出に大きな影響を与えています。
Q14COVIDの影響は良く分かりましたが、このままではリバウンドするように思われます。今更ですがGreen recoveryへの強いメッセージが必要では無いでしょうか。またエネルギー基本計画への注文も必要では無かったでしょうか。
パネルディスカッション中に回答しました。
Q15地球温暖化が原因としての温暖化ガスの排出(永久凍土や南極の氷など)もいろいろ発生すると思います。聞き逃したのかも知れませんが、その排出量はどの程度と予測されているのでしょうか?
まだ永久凍土からの放出量推定については取り組みがはじまったばかりですが、温暖化が激化するシナリオでは、合計数十PgCの放出がありえる、という研究報告などがあります。まさ今後、科学的に重要なポイントになると思います。
Q16海洋への二酸化炭素吸収が進むと海洋酸性化も同時に進むと思いますが、海洋生態系への影響はどこまでシリアスになるのでしょうか。以前、海洋の方が二酸化炭素の吸収が陸上よりも大きかったと記憶していますが、今回の発表では陸上植生の方が吸収が大きいと言うことでしょうか。
海洋酸性化については、炭酸カルシウムをもつサンゴやプランクトン、貝類やウニなど多様な生態系に影響を与えると考えられていますが、現状の濃度レベルでは海洋の温暖化の方がより深刻であると考えられます。
Q17先般科学者と金融関係者との会議がありましたが、科学者の方から政治家や財界人にもっと発信してほしいのですが、阻害要因があるのでしょうか?
パネルディスカッション中に回答しました。
Q18温室効果ガスの測定法を教えて下さい。
大気中の温室効果ガス濃度を正確に測定するために、これまでに様々な手法が開発されてきました。現在では衛星からも観測できるようになりましたが、目的とする成分の分光学的な性質(波長による吸収強度の違い)を利用した手法が主流となってきています。(例えば、CO2の代表的な測定手法については、長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介— [2] 透明人間!であるガスを測定する方法—NDIR:二酸化炭素の場合— その1 (nies.go.jp)等をご覧ください。)
Q19来年までに2030年までの目標を再検討しなければいけないが日本は現在どのような検討段階なのかを?分かれば教えて頂きたい。
2021年10月22日に新しい2030年までの目標(NDC)を設定しました。その深掘りは検討されているはずです。2023年のグローバル・ストックテイク(GST)の結果はその検討に有用でしょう。
Q20メタンガスに関するセミナーがあれば、と思います。

グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)は、2020年7月に世界のメタン収支に関する報告書を発表しました。
https://www.globalcarbonproject.org/methanebudget/index.htm

※GCPつくば国際オフィスによるプレスリリース(2020年8月):https://www.nies.go.jp/whatsnew/20200806/20200806.html

この発表に伴い、2020年8月6日に世界のメタン収支に関する一般の方向けの講演会(日本語)と科学フォーラム(英語)をオンラインで開催しました。
プログラム:https://www.cger.nies.go.jp/gcp/pdf/gmb2020.pdf

上記イベントの録画をYouTubeでご覧いただけます。
講演会(日本語):https://www.youtube.com/watch?v=tDgPKEDHbkk
科学フォーラム(英語):https://www.youtube.com/watch?v=6togfA7dmCM

ご参考になりますと幸いです。

Q21産業革命前との比較で2100年温暖化上昇1.5℃に抑えるには、人為CO2排出量などの削減目安の年間割合は、かつては1%と聞きました。今現在は年間何%位ずつ削減する必要があるのでしょうか?また、今の予想で2030年に何%位ずつが必要になっていくのでしょうか?
日本の単純計算は2013-2030年に46%削減とすると毎年–2.7%ほどになります。世界でも、2020−2050年に80%削減とすると毎年–2.7%ほどです。ただし想定する将来のシナリオ、国地域で状況は異なります。
Q22県内の推進員情報で、もみ殻や稲わらから土地改良に役立つ燻炭(機器)を造る企業を知りました。もみ殻の回収企業はあるそうですが、稲わらは田に戻す、すき込みをしてメタン発生しても、大網市では水害対策のため推奨しているとか。稲作生産現場を含めて具体的に理解を希望。
水田は多面的機能があるので、生産や防災なども考慮に入れる必要があります。場所によっては渡り鳥の渡来地にもなっています。それらの機能を損なわず、CH4放出を減らす方法の開発が進められていますので、その成果は普及するべきと考えます。
Q23日本国内の非エネルギー部門における脱炭素化、カーボンニュートラルに向けた取組で、削減努力に対するGHG削減効果の大きな部門はありますでしょうか。もしあるとすればその分野での取組の現状と課題についてお聞かせください。
CO2はエネルギー転換部門、産業部門、交通部門が大きいです。よく話題になる石炭火力はエネルギー転換部門に含まれます。CH4は農業起源排出や、廃棄物についても削減の技術開発の対象になります。N2Oは化学肥料などの農業起源が大きく、包括的な窒素管理が必要です。
Q24家庭の生ごみコンポストは、ごみ減量(燃焼や運搬エネの低減)に有効ですがGHG的に問題があるようです。土中炭素貯留や農業でのたい肥活用可能性などについて知りたいです。
土壌への炭素貯留は、パリ協定の際も4/1000イニシアティブとして提案されました。その手法の1つに農地への炭素隔離があります(不耕起、有機物の投入、バイオ炭の活用など)。方法が不味いと短期で分解されて大気に戻るので効果が少なくなります。
Q25JCCCAの資料によると(オリジナルは不知)温室効果ガス総量に占めるメタンの排出量について(CO2換算で)世界全体では約16%、日本においては2.3%となっているがこれで間違いないのでしょうか。この日本では牛が少ないからでしょうか。田んぼからの量は小さい?
日本は、現在では化石燃料採掘起源のメタン排出がほとんどありません。廃棄物も対策が進んでいる方であるでしょう。一方、排出の75%ほどは農業と家畜起源です。
Q26"海洋プラスチックゴミ由来の温暖化ガス発生については、今後どのような対策をとる必要があると思われますか?
世界的なゴミ回収等を含めて、具体的な策がお聞きできると嬉しいです。
海洋プラスチックゴミからはメタンやエチレンなどの温室効果ガスが発生すると言われていますが、どの程度定量的な評価がなされていないのが現状です。いずれにせよプラスチックゴミ削減の取り組みは世界的に進めていく必要があると考えています。
Q27Tomohiro Hazimaさんの最後から数えて三枚目の下方に書かれていたカーボンバジェットのことですが、表の見方で質問です。これは、例えば900GtCO2を排出した場合に、気温上昇を1.5度未満に抑えられる可能性が17%という解釈でよろしいでしょうか。無知で申し訳ないです
はい、その通りです。
Q28科学的な気候変動の原因究明などよく理解できました。原因についてはよく分かりましたが、「どう対処すべきなのか」「どう削減するのか」のHowの部分に着目すべきフェーズだと感じました。ビジネスドメインで活躍している人材とパネリストの皆様のような環境領域に詳しい方々が関わりながら解決に向けて取り組むべきと思いますが、そのような取り組みはございますか?
ご指摘ありがとうございます。排出削減は特効薬的な1つの対策で可能なわけではなく、様々な部門での対策を結集して達成すべきです。実際に排出削減のための技術開発は進んでおり、一部は実用化もされています。太陽光や風力などの再生可能エネルギー、省エネ家電、電気自動車や燃料電池自動車はわかりやすい例ですし、削減が難しいと考えられてきた農業起源の排出についても削減のための技術開発が行われています。
Q29成功例・実績が他人を信用させるのかなと思います。小さなコミュニティーで、エネルギーの供給と消費を解決できる成功例のモデルを一つ作ることが大事かと思います。大袈裟ですが、日本のエネルギー鎖国も一つの案かなと思います。
Yes, it is very important to share information on succesful energy transition cases (both in terms of production and consumption). There's numerous small projects being implemented around the world but they are to-date not bringing about the significant systemic changes needed to address the underlying issue.
Q30結局、コロナ禍も地球環境問題も、専門家と政策決定者と市民の間でのリスクコミュニケーションのあり方だと思います。
Agreed, these are very important triggers that raise the level of urgency for the discussion and they have taken form in various forms already. The 10 New Insights in Climate Science project has addressed issues like this for the past two years; however, the point of having early warning systems and scenarios is to avoid having catastrophic impacts by enabling us to make predictions about the future so that we can avoid the worst.
Q31"永久凍土や山火事などの影響はまだIPCCのデータに反映されていないとおっしゃっていたことが気になりました。
海洋の酸性化や海水温の上昇に伴いサンゴが99%死滅すると言われていますが、そうなったときのサンゴに蓄積されてきたCO2や、サンゴを生息地としていた生き物、そこに関わる生態系全体の変化に伴うCO₂の増減なども、モデルには反映していない、という認識で合っておりますでしょうか。
永久凍土の融解の影響や山火事の影響は、IPCCの報告書でも報告が増えてきています。ただ、まだ科学的理解度が十分でなく、多くの温暖化予測モデルにおいてきちんと考慮されていないという状態です。日本ではこれに注力した研究がまさにこれから開始されます。
プレゼンテーションでご紹介したような温暖化予測シミュレーションでは、通常サンゴそのものは扱われていませんが、全球規模での海洋炭素循環に強く影響する植物プランクトン、動物プランクトンがモデル化され、シミュレーション結果に反映されています。