2015年1月号 [Vol.25 No.10] 通巻第290号 201501_290005

未来の気候が変わる?!〜地球温暖化研究者からの警告〜 地球温暖化防止セミナー in 函館の報告

  • 地球環境研究センター 交流推進係

1. 経緯・はじめに

本セミナーは「平成26年度地域における地球温暖化防止活動促進事業(環境省補助事業)」の一環として、12月16日(火)18:30〜20:40に北海道函館市函館中央図書館視聴覚ホールで開催されました。主催者にうかがったところ、函館市内で地球温暖化をテーマとするこの規模(100人規模)のセミナー開催はあまりないとのことでした。あいにく北海道地方は開催日から「数年に一度の猛吹雪」になるとの天気予報が流れ、函館地方も夕方から雨になり、参加者が安全に集まれるかどうかが心配されました、しかし、函館はまだ荒天には至らず、会場には100人以上が集まりました。

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セミナーのポスター

国立環境研究所地球環境研究センター江守正多室長の講演に引き続き、皆様に地球環境研究センターの活動を紹介して良いとの許可をいただけましたので、講演後5分ほどセンターのホームページの紹介なども行いました。

2. 開催趣旨

冒頭、北海道地球温暖化防止活動推進委員のピーター・ハウレット氏から「人類が直面しているもっとも深刻な問題は地球温暖化です。残念ながら今月行われた総選挙では地球温暖化という言葉はほとんど聞こえてきませんでした。今日は真剣に考えていきたい。……」から始まる趣旨説明が行われました。同氏は地元函館ラ・サール高校の環境問題研究会の顧問も務めており、会場には同研究会の生徒が複数参加しているとのことでした。6月に奈良で開催された国立環境研究所公開シンポジウムでも高校生の参加がありましたが、このような場に若い方が参加いただけることは歓迎です。また、演台の上に掲げられたモザイク状の横断幕(写真2)は、過去約100年の「1950–1980年の地球平均気温からの偏差」を各年の月ごとに表したもの(青ければ平均より低く、赤ければ平均より高い)で、一般の方にも地球の温度変化がわかるように同研究会が制作したものとのことでした。これは、無料で誰にでも貸し出してくれるそうです。ハウレット氏の趣旨説明は情熱にあふれ、場内の聴衆に訴える素晴らしいものでした。

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写真1北海道地球温暖化防止活動推進委員のピーター・ハウレット氏による趣旨説明

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写真2スクリーン上に高校生が作成した地球の気温偏差の時系列マップが張り出されていました

3. 江守室長による講演

「未来の気候が変わる?!〜地球温暖化研究者からの警告〜」というタイトルの講演の冒頭、平成26年9月ニューヨークの国連本部で開催された「国連気候サミット」に合わせ、世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO )の呼びかけに応えてNHKが制作した「2050年の天気予報」という短いビデオが紹介されました。これは、日本の2050年の気候の天気予報形式になっていて、動画投稿サイト「YouTube」でも「2050 weather」で検索すれば視聴できます。この天気予報では、地球温暖化が進んだ2050年、猛暑日の数が以前より多くなることや京都の紅葉とクリスマスが同時期になることなどが予報されており、会場には「そういうことになっちゃうのか」というイメージが臨場感をもって伝わりました。

天気予報で地球温暖化の影響を真剣に考えるモードになった後、地球温暖化の基礎的な仕組みと先に公表されたIPCC-AR5の内容についての説明、異常気象とほぼ同義な「極端現象」の過去および将来の変化などについて江守室長から説明が行われました。

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写真3講演を行う江守正多室長

地球温暖化の緩和対策として、世界平均気温の上昇を産業革命前からの水準から2°C未満に抑えるには、省エネや再生可能エネルギーなどの普通の対策だけでは不十分で、大気からCO2を吸収する「バイオマスCCS」や、日射を人工的に減らして地表を冷却する技術を含む「気候工学」と呼ばれる考え方までもが検討されていること、ただしこれらには副作用などの心配があることが紹介されました。

そして、様々な困難を抱える地球温暖化問題の解決の鍵が、技術開発にあるのか、社会経済システムの変革にあるのかという2つの視点が紹介されました。この2つのうちどちらが好ましいかが議論される際には、それぞれのコスト、リスク、便益および実現可能性が意見の根拠としてよく持ち出されます。しかし、その根底には、社会経済システムや技術への信頼度、豊かさや正義、そして生きたい社会に対する個々人の考え方が大きく影響するだろうとの説明がありました。

4. 会場からの質問

函館地域に関連する様々な質問がありましたが、その1つに局地的な高温現象と地球温暖化の関係の有無についての質問がありました。具体的には、発電所が発電過程で排出する温排水は、その熱が地球温暖化に影響しないのか?というものでした。江守室長は、「発電所の温排水に限らず、人間活動による直接的な排熱は、地球全体では大きくなく、地球温暖化に与える影響は非常に小さい。但し、発電所周辺の局所的な影響については個別に判断が必要」と回答しました。

また、「IPCC-AR5にこれだけ地球温暖化防止の重要性が示されているのに今月の総選挙でもまったく話題にならなかったことに違和感がある」との質問がありました。江守室長は、安倍首相が前の政権時に「2050年に地球全体で温室効果ガスを半減する必要があり、日本はそのリーダーシップを取っていく」と訴えたことを紹介し、日本政府は地球温暖化について重要でないと思っているわけではないことを説明。しかしながら、どのようなやり方で地球温暖化に対応していくか、国民に意見を聞きつつ進めていくプロセスがもっとあって良いと思うと回答しました。

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写真4会場の様子

5. 最後に

これまで地球温暖化の科学的側面についての報告は、国立環境研究所の立地の制約上、つくばや東京周辺で行われることが多かったのですが、今回、北海道函館市でのセミナー開催により、日本各地でいろいろな環境の状況があり、その経験に基づいて、地球温暖化防止についての考え方も様々であることが感じられました。これからも地球環境問題に関するいろいろな考え方についてレポートし、全国で、皆様と一緒により深く考えていけたら良いと考えています。

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