2015年10月号 [Vol.26 No.7] 通巻第299号 201510_299009

【最近の研究成果】 気候変化に対する世界のコムギ生産の適応経路の分析

  • 社会環境システム研究センター 特別研究員 田中朱美

地球温暖化などの気候変化は作物の収量に影響を与えると予測されている。食料生産を維持するために、作物収量に対する将来の気候変化が及ぼす負の影響を軽減する方策(適応策)を実施することは重要である。適応策の時系列を示す「適応経路」を描くことは、気候変化が進む中でいつ・どのような適応策が求められるのかを検討する上で有効な手段となる。本研究では、世界の主要なコムギ(小麦)生産国9か国について、2010–2090年代の10年代毎に、現在からの収量減少を防ぐために必要な適応策を逐次的に導入していくと仮定して、21世紀にわたり現在のコムギ収量を維持するための適応経路を導出することを試みた。具体的には、(1) 灌漑面積の拡大と (2) 品種の変更および新規の高温耐性品種の開発導入の2つを考慮して適応経路を評価した結果、適応導入のタイミングや強度が各国で大きく異なることがわかった。また、適応策導入の適切なタイミングを逃した場合と比べて、将来必要な適応策を予測し、着実に導入を進めることで、気候変化が及ぼす負の影響(本研究ではコムギ収量の減少)を軽減できることが示された。本研究の適応経路は食料需要の増減や社会経済変化を考慮しないなど、様々な制約下の結果であるが、本研究で提示した手法は世界の食料生産の気候変化に対する適応の時間的側面を定量的に評価するための第一歩になると考える。

本研究の論文情報

Adaptation pathways of global wheat production: Importance of strategic adaptation to climate change
著者: Tanaka A., Takahashi K., Masutomi Y., Hanasaki N., Hijioka Y., Shiogama H., Yamanaka Y.
掲載誌: Scientific Reports, 5, 14312; doi: 10.1038/srep14312 (2015).

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