2016年6月号 [Vol.27 No.3] 通巻第306号 201606_306005

【最近の研究成果】 フラックスタワーにおける高精度分光観測のためのタワー遮蔽装置の開発

  • 地球環境研究センター 陸域モニタリング推進室 高度技能専門員 井手玲子
  • 国立環境研究所 廣瀬保雄小熊宏之三枝信子

人工衛星から植生の分光反射率を観測することにより、世界各地で測定されているCO2フラックス値からCO2吸収量を広域推定することが期待されている。そのため、CO2フラックス観測サイトでは、衛星と同じような分光放射計を観測タワーに設置し、フラックス観測と同時に植生の分光反射率を測定することで衛星観測手法の開発を行ってきた。しかしながら、このようなタワー観測の問題として、視野角の広い分光放射計を用いた場合、タワーなどの構造物や天空光の一部が分光計の視野内に混入することによって植生の反射率が正確に測定されないことが懸念されている(図1)。そこで、本研究では植生のみの分光反射光を正確に測定するため、視野内のタワーおよび天空を効率よく除外するタワー遮蔽装置を開発した。遮蔽板を分光放射計に装着し自動回転させることにより、遮蔽/非遮蔽の2モードでの測定を可能にした(図2)。この装置を山梨県富士北麓のフラックスタワーに設置して2014年4月から11月までカラマツ林の連続分光反射率を測定し、タワーなどの反射光混入の影響評価を行った。その結果、反射光混入による影響は波長、天候や時刻、季節により大きく変動することが明らかになった。混入の影響は近赤外域(約700–900nm)では小さいが、クロロフィルの主要な吸収帯である可視域(約400–700nm)で大きく、非遮蔽時の反射率は遮蔽時の最大約3倍になり、NDVI[注]が8–22%過小評価されるなど植生指数の値にも大きな影響が認められた。今後はこのようなタワー遮蔽装置の普及により、植生反射率の測定精度の向上が期待できる。

figure

図1A:富士北麓フラックス観測サイトの32mアルミ製観測タワー。最上階で上向きに設置した分光放射計により全天日射を測定し、タワー30m付近から張り出したポールに下向きに設置した分光放射計(図の赤丸部分)で植生(カラマツ林)からの反射光を測定し、両者の比から分光反射率を算出した。B:タワ―側から見た下向き分光放射計。C:植生からの反射光測定の模式図。分光放射計の視野内に混入するタワーや天空光の一部などの反射光を除外する必要がある

figure

図2下向き分光放射計に装着したタワー遮蔽装置。非遮蔽モード(左)と遮蔽モード(右)

脚注

  • NDVI: Normalized Difference Vegetation Index. 正規化差分植生指数。可視域の赤と近赤外域の反射率の差を正規化した指数で、植生の被覆率や活性度を示す指数として使われる。

本研究の論文情報

Development of a masking device to exclude contaminated reflection during tower-based measurements of spectral reflectance from a vegetation canopy.
著者: Ide R., Hirose Y., Oguma H., Saigusa N.
掲載誌: Agricultural and Forest Meteorology, 223 (2016), 141-150, DOI: 10.1016/j.agrformet.2016.03.010.

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP