2017年1月号 [Vol.27 No.10] 通巻第313号 201701_313006

雨にも負けず世界遺産で観測研究 科学コミュニケーターが見た地球温暖化研究の現場

  • 社会対話・協働推進オフィス 科学コミュニケーター 岩崎茜

地球温暖化研究の最前線とも言える現場を知るために、地球環境研究センターの寺本宗正特別研究員に同行して、世界遺産の白神山地にある温室効果ガス観測サイトでの研究の様子を見てきました。

CO2濃度の変化など地球温暖化に関するさまざまなデータがありますが、それらは日々どこで、どうやって得られているのでしょうか。

国立環境研究所ではいくつかの観測プロジェクトがあります。民間航空機や衛星などを使って、はるか上空や宇宙空間に飛び出して温室効果ガスを観測している例もあります。ここだけ見ると、地球温暖化の研究は何だかスケールが大きい印象をうけます。しかし、実際には、さまざまな種類や規模の観測方法があります。

今回は、研究者が自分の手や足を動かして観測を行っている現場をご紹介します。

10月31日、ブナの原生林にある観測サイトに車で向かいました(写真1)。ここでは、気温や湿度、日射量などの気象要素のほか、森林と大気間でやりとりされるCO2の収支などが測定されています。国立環境研究所は弘前大学と共同で観測を行っており、この日は石田祐宣助教(同大大学院理工学研究科)や学生ら調査チームも一緒でした。

現場入りの主な目的は、観測機器の「冬支度」です。この地は多い時で4メートルもの積雪があるため、観測タワーや樹木に取り付けた機器類をいったん撤去するなど、毎年、冬に備えたメンテナンスが必要なのです。

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写真1土砂降りの中、タワー目指して未舗装の悪路を車で進むこと1時間

この日はあいにくの悪天候で、容赦なく強い雨が打ち付け、震えるほどの寒さでした。そんな中、チームのメンバーは、観測機器を外すために木に梯子を掛けて登り、回収した機器を運搬するなど、森林の中で作業を黙々と続けます(写真2)。

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写真2木に登るのも研究のため。右で梯子を押さえているのが寺本特別研究員

驚いたのは、34メートルもの高さの観測タワーに研究者が身ひとつで登っていったことです。命綱があるとはいえ、荒天でタワーが左右にきしむ悪条件の中、石田助教は一気に頂上まで登っていきました。その場で、タワー上部に取り付けられた観測機器からデータを回収するのです(写真3)。

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写真3タワーの上でデータ回収。専門の作業員ではありません、研究者です

冬に向けたメンテナンスの後は、土壌から発生するCO2(土壌呼吸)の量を測る新型の測定器をサイトに設置して、試運転を行いました。土壌呼吸を調べることで、森林生態系における炭素収支を解析できます。今回試運転をした測定器は、青いバケツ型のチャンバー(CO2測定用の容器)が一定時間で自動的に開閉し、なかに閉じ込められた気体のCO2濃度を測ることができます(写真4)。

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写真4測定器のしくみやデータの読み方についてチームに説明する寺本特別研究員

この機器は、地球環境研究センターの梁乃申主任研究員が独自に開発したものです。目的のデータを得るために、適切な測定器を一から設計する。これも研究の一側面なのです。

観測機器の設置からメンテナンス、測定器の製作まで、研究者が自ら考え、試行錯誤しながら、ようやく貴重なデータが得られていることが分かりました。また、冒頭でスケールの大きな観測プロジェクトに触れましたが、衛星をコントロールするのも、航空機に積んだ観測装置をメンテナンスするのも、最終的にプロジェクトを動かすのは人間の力です。

無味乾燥に思える数値の羅列や、さまざまなグラフ、膨大な画像、目にする多種多様なデータの裏に、研究者の地道な努力の積み重ねがあることを、改めて認識することができました。

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