2017年7月号 [Vol.28 No.4] 通巻第319号 201707_319009

2050年までに温室効果ガスをどう減らす? —春の環境講座で環境サイエンスカフェを開催しました—

  • 社会対話・協働推進オフィス 科学コミュニケーター 岩崎茜

1. はじめに

「2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減。」国が掲げているこの目標、どうすれば達成できると思いますか? 目指すべき未来の低炭素社会について、研究者と参加者とが共に考え、語り合う環境サイエンスカフェ(以下、サイエンスカフェ)が国立環境研究所(以下、国環研)で開かれました(写真1)。

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写真1のべ約50人が参加し、お菓子や飲み物をとりながら意見を聞き合った

サイエンスカフェは毎年科学技術週間に国環研で開く春の環境講座の一企画で、社会対話・協働推進オフィス(以下、対話オフィス)が社会環境システム研究センター(以下、社会センター)と共同で実施しました。

カフェは2回開催し、1回目の講師を社会センターの高倉潤也特別研究員、2回目を同センターの亀山康子副センター長が務めました。

温室効果ガスを減らすために省エネの推進や再生可能エネルギーの導入など具体的な対策が取り組まれていますが、低炭素化を進めていくためには、技術的な解決だけではなく、社会全体がどのような未来を望むのか、その思いや覚悟も問われます。この課題に対して社会の様々な立場からの率直な反応を聞き合うことができれば。これがサイエンスカフェのねらいの一つでした。

各回の様子と、参加者から頂いた様々な意見をいくつかご紹介します。

2. 対策費用は負担? 投資?

1回目は約30人が参加しました。冒頭、2050年までに80%削減という国の目標をそもそも知っていたかという質問に対して、会場で手が挙がったのは1/4程度でした。あまり認識されていないことが分かったものの、小学生時代に「塾の学習」で知ったという中学生がいたことに周りの大人が感心していました。

議論に入る前に、講師の高倉さんから話題提供がありました(写真2)。

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写真2温暖化対策がもたらすプラスにも注目して話した高倉さん

80%削減のためにがむしゃらに対策するのではなく、家庭や運輸、エネルギーなどそれぞれの部門で細かく項目を選んで賢く対策を行うことで、費用を抑え効率的に削減することが可能だとデータを使って示しました(図1)。

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高倉さんの資料より。効率の良い項目を選んで対策することで、エネルギー費用を抑えて80%削減達成も可能に

また、温暖化対策のための費用は、本来なら払いたくない「負担」として捉えられがちだが、対策をすることで得られる利益もあると説明。たとえば車の自動運転は燃費の向上だけでなく、交通事故を減らす効果も期待できます。こう考えれば、対策の費用は、単に温室効果ガスを減らすのではなく、社会をより良くするための「投資」と評価することもできると話しました。

3. 楽で環境にやさしい対策のためには?

意見交換では、参加者から次のような声がありました。

「省エネをすれば温暖化を防げるというのは事実だろうが、魅力的に感じない。我慢しよう、コンセントをまめに抜こうとか、生きていく中で面倒なことが増えてくる。細かいことまで気にすると未来の人生が楽しくない。それよりも、たとえば燃料電池など新しい技術を導入するから苦労しなくて済みますよ、というような話の方に惹かれる。」

対策がガマンや負担にならないようにしたい、という人は多いだろうと高倉さんも認めていました。そして、例として家庭のエネルギー使用量を管理するHEMS(ホームエネルギーマネージメントシステム)を挙げ、センサーを使って自動的に電気を消すなどの技術を導入すれば、面倒なことをしなくても省エネになると、具体策を提示しました。

その後は家庭部門の話が続きました。その中で、断熱などに優れた高機能の家をつくることが大切で、そのための補助金を出してほしいという提案もありました。高倉さんも同意した上で、エネルギー効率の良い家をつくる技術だけでなく、補助金を出すという制度やルール作りも併せて考えていく必要があると、社会の仕組みを考える視点も示しました。

4. 長期的な社会づくりと、より短期的な具体策と

2回目は約20人の参加者があり、中には1回目に参加した人たちの姿もありました。講師の亀山さんは、高倉さんとは違う切り口から話題提供を行いました(写真3)。

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写真3未来の社会をつくる、という広い視野から低炭素化の話を始めた亀山さん

低炭素化のためには、2050年に向けてどのような社会を作っていくのか広い視野で考えていくことも必要です。たとえば、地域社会のスケールで考えると、公共交通機関をより便利に利用できるよう人々が集まって住み、徒歩圏内に学校や職場、店舗などを集中させる街づくりが挙げられます。地域全体でエネルギー消費量を抑えるとともに、隣近所で声を掛け合えるコミュニティーの形成も同時に行われます。「低炭素社会は高齢者に優しい社会」とも考えられ、寄り集まって住むことで、温暖化対策にもなり、人々のつながり合う安心できる社会の実現も果たされると考えられています。

そうした長期的な社会づくりを目指しつつ、より短期的な視野で今からできる対策を具体的に考えていくことも必要です。亀山さんは、CO2削減効果を数値で見ることのできるツールである「2050低炭素ナビ[注]」を紹介しつつ、どんな対策を考えるべきか参加者に聞きました(写真4)。

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写真4参加者からの質問や意見に応じる亀山さん

太陽光発電の効率がより良くなるなどイノベーションに期待を寄せる声がある一方で、森林を切ってまで太陽光パネルを設置する必要があるのか疑問も上がりました。森林がなくなることで、CO2吸収源が失われてしまうからです。亀山さんによれば、木は成長しきってしまうとそれ以上CO2を吸収しない為、切って新しい木を植えるのでなければ、太陽光パネルに置き換えることは温暖化対策としては意味があると説明。しかしながら、森林には土砂崩れを防ぐなどの役割もある為、さまざまな価値を考えたときに判断することが難しくなるとジレンマも示し、方向性はみんなで話し合って決めていく必要があると強調しました。

5. まとめ:どんな取り組みが大切?

終了後、参加者の皆さんに、2050年までに80%削減という目標を達成するためにどんなことが大切だと思うか、意見を書いてもらいました。その中からいくつかをご紹介します。

  • 太陽光や風力発電の効率化、低コスト化。
  • 温室効果ガスを固めて宇宙に捨てる技術。
  • 技術革新は必要であるが、人々の暮らし方に対する考え方を変えていくことも重要である。
  • 自動車を使わないことや地産地消を進めることは健康にも良い、という人々の意識の変化。
  • 便利で環境にやさしい技術の推進とそのための制度や価値観づくり。
  • 緩やかな規制、良いインセンティブ。

技術の発展のほか、人々の考えや価値観が変化することを求める声も多数あります。人々を動かすためには、ガマンや節約を強いるだけではなく、取り組むことで「良くなる」側面にも目を向けることが必要です。温暖化対策が、社会をより発展させ、人々の心を豊かに楽しくするものにもならないか。その視点が新しいイノベーションをもたらすのかもしれません。

また、太陽光パネルと森林の問題のように、温暖化対策がどっちをとるかのトレードオフに陥ることもあります。どの方向を選択していくかは専門家だけが決めるのではなく、社会で話し合って決めることが大切です。意見を聞き合う場として国環研のサイエンスカフェが有効に働くよう、対話オフィスは今後も継続してこうしたイベントを行っていきます。

脚注

  • 2050低炭素ナビ:どんな温暖化対策をどの程度行えば温室効果ガスをどのくらい減らすことが出来るのか、数値で効果を知ることのできるツール。以下から体験できる。
    http://www.2050-low-carbon-navi.jp/pathways/

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