2019年5月号 [Vol.30 No.2] 通巻第341号 201905_341005

帯広市で国立環境研究所地球環境セミナーを開催しました

  • 地球環境研究センター 交流推進係

2月16日(土)北海道帯広市のとかちプラザにおいて、地球環境研究センターは、北海道十勝総合振興局、北海道環境財団と共催で「変貌する十勝の気候と地球温暖化」と題するセミナーを行いました。本セミナーでは3人の講師が最前線の研究成果を踏まえた情報提供をしました。上記3機関は2018年3月10日にも帯広市で同様のセミナーを開催し(http://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201806/330004.htmlを参照)、今回は2回目となりますが、当日は70人もの方にお越しいただき、講演後のディスカッションでは、参加者と講演者との活発な意見交換が行われました。

3人の講演による講演概要とディスカッションについて報告します。

1. 増え続けているCO2—北海道では? 世界では?

【講師】町田敏暢(国立環境研究所地球環境研究センター 大気・海洋モニタリング推進室長)

本日は、(1) 地上で観測された二酸化炭素(CO2)濃度、(2) 過去のCO2濃度、(3) 上空のCO2濃度はどうなっているか、についてお話しします。

(1) 地上で観測されたCO2濃度

国立環境研究所は北海道の落石岬と沖縄県の波照間島の2カ所に大気を観測するステーションを設置しています。波照間島は1993年、落石岬は1995年に観測を開始しました。1993年から今週までに波照間ステーションで観測されたCO2濃度のデータを見ると、のこぎりの刃のようにギザギザしながら、だんだんと濃度が増えているのがわかります。このギザギザを詳しく見てみると、1年に一回下がっています。ここで問題です。

【問題1】1年のうちでCO2濃度が最も低くなるのは、夏でしょうか、冬でしょうか。

[答えは。反対に1年のうちで最も高いのは冬です。]

【問題2】CO2が1年のうちで低くなったり高くなったりする季節変化の原因は、石油や石炭などの化石燃料の燃焼によるものでしょうか、植物の活動によるものでしょうか。

[答えは植物。植物の葉は光を受けると光合成によりCO2を吸収します。夏には葉が開いて光合成を盛んに行いますから、大気中のCO2濃度が最も低くなります。植物も人間同様、呼吸をします。酸素を吸収しCO2を出しています。夏が過ぎると光合成活動が弱まり呼吸のほうが強くなります。]

波照間も落石岬も人の活動の影響を直接受けにくいきれいな空気を測ることができます。2地点のデータを比較すると、年々の上昇傾向は同じでも、落石岬のほうが夏の濃度が低く冬が高くなっています。これは、波照間島より落石岬の方が夏と冬の気温差が大きく、植物の光合成・呼吸活動の季節差が大きいからです。

十勝管内の陸別町にある銀河の森天文台の一室でも地上から上空までのCO2濃度を測っています。陸別町上空のCO2濃度も季節変動しながら少しずつ上昇しています。なぜ陸別で観測しているのかというと世界初のCO2濃度を測るための専用の人工衛星である「いぶき」の観測データの検証をするためです。陸別は世界25カ所にある同様の方法での観測ネットワーク(TCCONネットワーク)の一役を担っているのです。陸別は世界と連携してCO2データを蓄積している場所なのです。

(2) 過去のCO2濃度は?

CO2はいつから増え始めたのでしょうか? 増え始める前の濃度はどのくらいだったのでしょうか? これらの疑問に答えることができます。南極の氷の中に昔の空気が保存されているのです。それを取り出して過去のCO2濃度を測ることができます。これによれば1800年以前はほぼ280ppmでした。18世紀後半の産業革命により人間が石炭や石油を燃やすようになってからCO2が増え始め、現在は400ppmを超えてしまいました。この250年間で120ppm上昇したことになります。また、120ppmの増加の半分の60ppm増えるのに200年以上かかっているのに、残りの60ppmにはたったの30年しかかかっていません。最近のCO2増加がいかに急激かわかります。

(3) 上空のCO2濃度

2005年から民間航空機に2つの装置を搭載して観測を始めました。飛行中にCO2濃度を連続して測定できるCMEと自動大気採取装置ASEです。このおかげで、貴重な興味深いデータを得ました。高度8km以上の上空のCO2濃度分布をみると、4月は南半球より北半球のほうが高濃度ですが、7月になると北半球の植物がCO2を吸収するので逆に南半球のほうが高濃度になります。南半球には海が多く、陸地や森林が少ない一方、北半球はシベリアや北米などに大森林があり、その光合成の働きで夏に大きなCO2吸収が起きているためです。航空機による観測を通じて、地上だけではなく、上空でも違いがあることがわかってきました。この新しい観測で得られたデータを世界の研究者に提供し、世界のCO2循環に関する最先端の研究が進んでいます。

2. 十勝地方の気候の変化

【講師】小司晶子(気象庁札幌管区気象台 気候変動・海洋情報調整官)

十勝地方の気候の変化を、観測データを使ってお話します。さらに、今後の北海道の気候予測についても紹介します。

(1) 十勝地方のこれまでの気候変化

帯広測候所で観測された過去30年間のデータを見てみます。帯広の冬はとても寒いのですが(1月の最低気温の平均がマイナス14°C)、1月の日照時間は183時間と長く、日照には恵まれています。8月の最高気温の平均が25°C、最低気温の平均は16°Cくらいですから本州と比べると過ごしやすい夏です。過去の最高気温は大正13年に37.8°Cを記録し、真夏日は年10日くらい観測されています。帯広の気候の特徴は、夏と冬の寒暖差が大きいことと、年間降水量は887mmと少なめで、内陸の気候の特徴をもっていることです。

世界の年平均気温は100年で0.73°C上昇しています。北海道地方は、約1.6°Cの上昇で、世界平均より上昇量が大きくなっています。これは、温暖化に加えて、札幌などの都市化の影響が考えられます。帯広は、100年で約1.9°C上昇しています。最高気温より最低気温の上昇割合が大きく、これは地球温暖化に加えて都市化(ヒートアイランド)により夜の気温が下りにくくなっていることが原因と考えられます。帯広の気温の上昇を季節別にみると、冬季や春季は100年間で2°C以上上昇していますが、夏季は1°C程度です。

北海道では大雨や短時間強雨(1時間の降水量が30mm以上)に増加傾向が見られます。2016年は、台風第7号、第11号、第9号、第10号が北海道に相次いで上陸・接近し、記録的な大雨・災害が発生し、帯広では、2016年夏季の降水量は729.5mm(観測史上1位)を記録しました。8月29日〜31日は、台風第10号の接近や東海上の高気圧からの暖かく湿った空気の流入により、日高山脈周辺で300mmを超える大雨となり、十勝川水系札内川が氾濫し、「氾濫発生情報」が発表されました。

北海道の日本海側では最深積雪が10年あたり約3.9%の割合で減少していますが、帯広では単調な増減は確認できません。

さくらの開花日は10年で1.4日早まってきています。逆にかえでの紅葉は10年で1.9日遅くなっています。これは、地球温暖化の影響が考えられますが、年々変動も大きいです。

(2) 今後はどうなるのか

気象庁が2017年に発行した「地球温暖化予測情報第9巻」をもとに、今後の北海道の気候についてご説明します。「地球温暖化予測情報第9巻」は今後あまり温暖化対策をしないでCO2を排出し続けたらどうなるかというシナリオ(RCP8.5)をもとにしています。それによると、21世紀末の年平均気温は、現在気候に比べ、全国平均で4.5°Cの上昇、北海道地方は約5°C上昇すると予測しています。これまで十勝地方ではほとんどなかった猛暑日(最高気温が35°C以上)や熱帯夜(夜間(夕方から翌朝まで)の最低気温が25°C以上)も、21世紀末には1年に5日程度みられるという予測が出ています。

北海道では、現在気候で数年に1日(回)程度しか現れない大雨(日降水量100mm以上)や短時間強雨が、21世紀末にはほぼ毎年出現し、十勝地方でも同様に増える予測となっています。大雨や強雨が増え、降水量が増加すると災害発生のリスクが高まります。21世紀末の北海道地方の年降雪量と年最深積雪は、現在気候に比べ減少する予測となっており、今より過ごしやすくなるかと思います。しかしどちらも内陸部では減少率は小さくなっています。

3. 「脱炭素社会」構築に必要な「大転換(トランスフォーメーション)」

【講師】江守正多(国立環境研究所地球環境研究センター 副センター長)

このままCO2が増えると気温は上がり続けます。ではどうしたらいいでしょうか。

(1) パリ協定の長期目標は達成できるのか

2015年のCOP21で採択されたパリ協定では、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2°Cより十分低く保つとともに、1.5°Cに抑える努力を追求する」という長期目標が合意されました。この実現には、「今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡を達成する」ことが必要で、具体的には今世紀末には実質の温室効果ガスの排出をゼロにしなくてはなりません。

人間活動で出る温室効果ガスの大部分はCO2です。そのうちの大部分はエネルギーをつくるときに出てきます。世界のエネルギー源を見ると、8割くらいは化石燃料です。しかし近年石炭は減少傾向にあり、太陽光、風力等の再生可能エネルギーが加速度的に増えています。絶対量はまだ少しですが、パリ協定では、石炭、石油、天然ガスをすべて置き換えるほど再生可能エネルギーが増えることを目標にしています。ここで皆さんに質問です。

今世紀末には実質の温室効果ガスの排出をゼロにすることが実現できそうだと思う人は〇、無理そうだと思う人は×を挙げてください。

結果:〇が1〜2割でした。ちょっとできそうな気がしないという意見が多かったようです。

図1世界のエネルギー源の変化(2000–2017年)

再生可能エネルギーが大幅に増える可能性を、過去の技術を参考にしてみてみます。アメリカでは電話、電気、自動車、ラジオ、冷蔵庫などの技術はある程度まで導入が進むと、その後一気に社会に普及しました。特にスマホなどデジタル技術は10年経たないくらいの期間で、社会にほぼ100%普及しています。いま、太陽光も風力もどんどん安くなっていますので、あるところを超えると急激に普及するということは起こりえないことではなさそうです。

図2アメリカにおける諸技術の普及率の推移(出典: https://www.blackrockblog.com/2015/12/11/economic-trends-in-charts/)

(2) 1.5°C報告書をどう受け止めるか

パリ協定の努力目標である1.5°Cの温暖化を科学的に評価した報告書が2018年10月に公表されました。この報告書の内容について、私自身の考えを含めてお話します。

1.5°Cを超えると、豪雨災害や熱波による健康被害がさらに増加し、ほとんどCO2を出していない途上国の貧しい人たちや先住民族が生活の基盤を失うような被害に遭います。また、生態系の不可逆的な損失が進みます。グリーンランド氷床はすでに融け始めていますが、ある温度を超えると融解が止まらなくなります。「1.5°Cまでなら平気で、2°Cなら困る」のではなく、今すでに困っており、1.5°Cならもっと、2°Cならもっともっと困るのです。

今世紀末までに世界の排出量を正味でゼロにするということは実現可能なのでしょうか。報告書には「自然科学的、技術的、経済学的には不可能ではない」と書かれています。机上の計算では不可能ではないということですね。ではどうしたらよいのでしょうか。それには、投資の増加、適切な政策、イノベーションの加速、すべてのアクター(国家政府だけではなく、自治体や企業、市民など)の参加、国際協力等が不可欠です。「1.5°C未満」の実現には、持続可能な社会が必要です。つまり、リサイクル、シェアリングが進み、少ないエネルギーや資源で経済が回り、社会の格差が小さく国家間の仲がいい状態ですとCO2を減らしやすいのです。「1.5°C未満」は大変な目標ですが、これを目指すということは持続可能な社会への取り組みを加速する機会であると、前向きに考えればいいと思います。

実は前向きに取り組んでいる人たちが世界にはたくさんいます。アメリカでは州政府、大学、企業の人がWe are still inというグループをつくり、連邦政府がパリ協定から抜けると公表してもわれわれは残るという意思表示をしています。RE100(renewable energy 100)という、再生可能エネルギーだけを使ってビジネスを進めようという目標をたてた企業が世界中にたくさんあります。日本では気候変動イニシアティブがあり、自治体や企業が主体的に対策を進めています。さまざまな取り組みが始まっていますし、主体的に行動するという雰囲気が盛り上がってきているという気がします。

4. ディスカッション

ディスカッションでは、休憩時間中に参加者が付箋に書いた質問に講演者が答えました。

Q: 波照間ステーションのCO2データで年間のばらつきが近年になるにつれて大きくなっているように見えるのはなぜか。

町田: 波照間島では、冬になると北西の季節風が大陸から吹いてきます。冬に大陸から季節風か吹いてくるときにばらつきが大きくなっています。中国で大量のCO2を出すようになったので、その風が来るとき、来ないとき、でばらつきが出ています。CO2以外の成分も近年上昇しています。日本にありながらそういうことがわかる非常に興味深い観測地点です。

Q: 短期間強雨が増えているが、予測精度は上がっているのか。たとえばアンサンブル予測などで局所的な雨の予測は可能となるのか。

小司: 局所的な雨の予測は難しいです。予測精度はすぐには上がりませんが、観測データやモデルの改善など地道な努力で少しずつ向上しています。新しい気象衛星ひまわり8号は空間的にも時間的にも解像度が上がっており、細かい現象をとらえられるようになっています(補足情報:2019年6月、短期予報に利用されるメソアンサンブル予報の運用が開始される予定です。これにより予報の信頼度向上が見込まれます。詳細は数値予報研修テキスト[注]をご覧ください)。

Q: 自然エネルギーへの転換は大切。十勝では太陽光発電の設置が進んでいるが、大切なCO2吸収源の森林を皆伐し、その後に発電施設が設置されているのを見ると心が痛む。

江守: 今までは環境アセスメントなしで太陽光発電設備を作れたので、森林を破壊したり土砂崩れしやすい場所に設置してしまったり、景観が損なわれたりなど、日本中で苦情が出ています。今後はアセスメントが必要になりますし、さらに見直しも検討されています。

Q: 一番いいと思われる発電方法やエネルギー源は何か。

町田: 再生可能エネルギーで発電してバッテリーに蓄え使うというのは一つの方法です。もう一つは水素です。アメリカでは水素自動車がかなり普及していて、水素ガスステーションがたくさんあります。水素化社会に日本も向かっていくという可能性があります。

小司: 個人的な意見ですが、潮流発電や地熱発電など自然を利用したものが今後増えていくといいと思います。

江守: 今日本でも水素ステーションができ始めていますが、太陽光パネルで水を電気分解してできた水素で水素自動車が走れるといいです。再生可能エネルギーは変動しますから、安定化させるためにはバッテリーが重要です。そういったものをいろいろと組み合わせていくことがいいと思います。

最後に、江守副センター長が会場からの意見や質問をお聞きしたところ、参加者から以下のようなご提案をいただきました。

参加者: 温暖化によって食糧難や住む場所がなくなる人がたくさん出てきます。これは世界で進めなければならない対策ですから、世界中の人たちが少しずつでもいいからお金を出し合って取り組むべきです。たとえば、火力発電所をすべてゼロにすることを決断し、世界中の人たちから集められたお金でトップランナーの技術を採用して試してみるといいです。そういうことが話し合われているでしょうか。また、実現の可能性はありますか。

江守: ありがとうございます。とてもいいアイデアだと思います。私自身は聞いたことはありませんが、インターネットで呼びかけるとそういうムーブメントが起きそうな気がします。

参加者から貴重な意見をいただき、ディスカッションは大変有意義な時間となりました。

*写真提供:久保田学氏(北海道環境財団)

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