2019年6月号 [Vol.30 No.3] 通巻第342号 201906_342005
【最近の研究成果】 2つのアプローチによる温室効果ガス排出量の差異の原因を探る〜中国のメタン排出量の例〜
気候変動対策を検討するためには、温室効果ガスの排出量を正確に把握する必要があります。活動量[1]に排出係数[2]を乗じるボトムアップ・アプローチで推計された排出量に対し、観測された大気中の温室効果ガス濃度と数値モデルを用いて排出量を逆推計するトップダウン・アプローチによる検証が行われており、両者による排出量の差異が報告されています。しかしながら、その差異の原因までを明らかにした研究はほとんどありません。本研究では、中国のメタンの排出量に着目し、複数のボトムアップによる排出量推計例を基に不確実性を評価して、両アプローチによる排出量の差異が何によるものかについて検討を行いました。その結果、主要な発生源である炭鉱と稲作の排出係数の不確実性が大きいことがわかりました。炭鉱の排出係数は、採掘の深さや炭層ガスの影響を受けます。稲作の排出係数は、季節、灌漑の方式、有機肥料の使用などの影響を受けます。中国内でも地域によるこれらの要因の違いを表現できているかどうかが、差異の原因になっている可能性が示唆されました。本研究のように、温室効果ガスの排出量を検証し問題点を見出してその解決を図ることは、パリ協定で各国が設定した削減目標に対する進捗状況の報告が正確かどうかを評価し、温室効果ガス排出量の確実な削減につなげるために重要であると考えています。
本研究は(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費課題2-1701「温室効果ガスの吸排出量監視に向けた統合型観測解析システムの確立」(代表:三枝信子)の一環として行われました。
脚注
- 燃料の消費量や自動車の走行量など、温室効果ガスの排出を伴う活動の量
- 単位活動量あたりの温室効果ガスの排出量
本研究の論文情報
- Exploring Gaps between Bottom-Up and Top-Down Emission Estimates Based on Uncertainties in Multiple Emission Inventories: A Case Study on CH4 Emissions in China.
- 著者: Cheewaphongphan, P., Chatani, S., & Saigusa, N.
- 掲載誌: Sustainability, 11, 2054, doi:10.3390/su11072054.