2020年5月号 [Vol.31 No.2] 通巻第353号 202005_353003

スーパーコンピュータシステムを更新しました

  • 環境情報部
  • 地球環境研究センター

国立環境研究所では、大気汚染や水質汚濁などの地域的な環境問題から化学物質による環境影響、さらには地球温暖化の予測や影響評価など、幅広い環境研究に学際的かつ総合的に取り組んでいます。その中で、大気や海洋における複雑な自然現象の再現や予測を長期かつ全球的にシミュレーションし、また地球上の生物個体や環境の情報を過去から現在にわたり蓄積して解析する膨大な処理など、地球環境の中で起こるさまざまな現象・問題を扱う研究のためにスーパーコンピュータシステムが利用されています。

この度、国立環境研究所のスーパーコンピュータシステムを全面更新し、2020年3月2日より利用を開始しました。

1. 新スーパーコンピュータシステムの概要

(1)ベクトル処理用計算機

2017年10月に発売されたベクトル型スーパーコンピュータ「NEC製SX-Aurora TSUBASA A511-64」を、2019年11月末をもって運用を終了した「SX-ACE」の後継機として導入しました。理論演算性能は622.8TFLOPSと、前機種に比較して約6.3倍の性能向上を実現しており、気候システム、降水システム、陸面水文過程、流域環境、地球流体力学、エアロゾル、オゾン、衛星リモートセンシングなど多岐にわたる計算プログラムにおいて、高い演算性能が期待されます。

写真1 ベクトル処理用計算機

表1 新機種と前機種の性能比較(1)

新機種
NEC SX-Aurora TSUBASA
前機種
NEC SX-ACE
理論演算性能 622.8 TFLOPS 98.3 TFLOPS
ノード数 256ノード 384ノード
CPU数 2,048個 1,536 個

✴ノード数は新機種の方が少なくなっていますが、これは1ノード当たりの計算能力が向上しているためです。

(2)スカラー処理用計算機

今回導入した「HPE製Apollo2000」は、高い性能と高度な信頼性を備えたインテル® Xeon® Gold 6148プロセッサーを搭載したシステムで、28ノードで構成されています。汎用CPUにより多種多様なアプリケーションを実行できるため、大気汚染予測をはじめ、化学物質の量子化学計算、ゲノム情報の解析など、多様な計算用途での利用が予定されています。

写真2 スカラー処理用計算機

写真3 大容量ファイルシステム

表2 新機種と前機種の性能比較(2)

新機種
HPE Apollo2000
前機種
SGI UV-20、30
理論演算性能 86.0 TFLOPS 43.1 TFLOPS
ノード数 28ノード 48ノード
CPU数 1,120個 1,664 個

✴ノード数・CPU数について、新機種の方が少なくなっていますが、これは1ノード当たりの計算能力が向上しているためです。また、スカラー機の場合、ノード数に合わせてCPU数が増減するため、CPU数も減っています。

(3)大容量ファイルシステム

計算機の性能向上に伴い、出力される計算結果も増加することから、プログラムや計算結果の保存先であるファイルシステムの容量を22PBと大幅に増強し、前機種SFA12K-20に比べて約13倍の容量増を実現しました。

表3 新機種と前機種の容量の比較

新機種
DDN SS9012ほか
前機種
DDN SFA12K-20ほか
容量 22 PB 1.6 PB

2. スーパーコンピュータシステムを用いて行う研究内容

(1)ベクトル処理用計算機を用いた研究

異常気象の発生と地球温暖化の関係についての数値実験、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)に求められた気候変動将来予測、放射性物質の動態予測、オゾン全量最低値の経年変化シミュレーション、東京湾・瀬戸内海等の閉鎖性海域の環境予測など、スーパーコンピュータでしかできない様々な研究が行われています。

ベクトル処理用計算機を利用した研究成果の例

【福島第一原子力発電所事故で海洋に漏出した放射性物質の動態予測】

図1 2011年3月の福島第一原子力発電所事故で漏出した放射性セシウム137の海洋拡散・海底堆積のシミュレーション例(Higashi et al. (2015)) (a)海洋拡散(2011年4月)、(b)海底堆積(2011年12月)

【MIROC5海洋結合化学気候モデルによるオゾン全量最低値の経年変化予測】

図2 オゾン全量最低値の経年変化シミュレーション。青い○はTOMS、OMIによる観測値。黒の細実線は、海洋オフライン版MIROC3.2化学気候モデルの計算結果、赤の細実線は、海洋オフライン版MIROC5化学気候モデルの計算結果、燈の細実線は、海洋結合MIROC5化学気候モデルの計算結果。太実線は細実線の値を前後に平均して細かい変動を取り除いたもの(Akiyoshiほか NIES Supercomputer Annual Report2018より) (左)9–10月、60–90°Sの最低値、(右)3–4月、60–90°Nの最低値

(2)スカラー処理用計算機を用いた研究

大気汚染予測システム(VENUS)の定常運用をはじめ、大気汚染物質の化学輸送シミュレーション、温室効果ガス動態の長期シミュレーション、化学物質の反応メカニズム解析のための量子化学計算、ゲノム情報の解析、GOSATプロジェクトで利用する大気輸送モデルの開発など、様々な研究課題で利用されています。

スカラー機を利用した研究成果の一例

【大気汚染予測システム(VENUS)によるPM2.5濃度予測】

図3 大気汚染予測システム(VENUS)のトップページ。本日から明後日までのPM2.5及びオゾンの濃度予測図や全国各地の予測概況の顔マークによる表示などが見られる。(Sugataほか 環境展望台VENUSウェブサイトhttp://venus.nies.go.jpより)

※毎年のスーパーコンピュータ研究課題名とその概要については下記ウェブサイトから閲覧することができます。http://cger.nies.go.jp/ja/activities/supporting/supercomputer/

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