ARCHIVE2020年8月号 Vol. 31 No. 5(通巻356号)

地球環境研究センター30周年企画 地球環境研究センター30年の歴史(1)

  • 地球環境研究センターニュース編集局

地球環境研究センターは、2020年10月で発足30年を迎えます。今回から3回にわたり、地球環境研究センターニュースにこれまで掲載された記事をもとに、地球環境研究センターの30年間を紐解きます。

今号では、1990年10月号から2000年3月号に掲載された記事のなかから、地球環境研究センターの節目となるイベントについて紹介します。

1990.10.26「地球環境研究センター開所記念講演会」報告

(1990年11月号掲載)

環境庁国立環境研究所の中に、新しく地球環境研究センターが発足したのを記念して、去る10月26日、東京千代田区にある日本海運倶楽部内において、「地球環境研究センター開所記念講演会」が開催された。

講演者には、加藤三郎氏、樋口敬二氏、また外国からは米ロッキーマウンテン研究所長A. Lovins氏、独ミュンスター大学教授W. Bachをむかえて行われた。当日250名をこえる聴講者に対し、加藤氏は、最近策定されたばかりの「地球温暖化防止行動計画」についての最新の報告を中心に、今後の地球環境行政のあり方等について講演を行い、樋口氏は、地球環境に関して自身の研究をふまえた北極圏をめぐる状況等について、興味深い講演を行った。外国人の講演も、通訳がなかったにもかかわらず大変な盛況であった。

また会場前のロビーでは、当環境研究所社会環境システム部の協力で、地球環境データベースの一端を紹介するコーナーが設けられ、休憩時間を利用した説明で、好評を博した。

〈記念講演会プログラム〉

  • 開催にあたって—地球現境研究センターの役割— 地球環境研究センター長 市川惇信
  • 挨拶 日本学術会議会長 近藤次郎
  • 講演
    (1)地球環境に関する日本の政策 環境庁地球環境部長 加藤三郎
    (2)国際研究の中の日本 名古屋大学水圏科学研究所長 樋口敬二
    (3)環境と両立するエネルギーの道 ロッキーマウンテン研究所長 A. Lovins
    (4)ヨーロッパにおける地球環境研究と政策 ミュンスター大学教授 W. Bach

※編集局コメント
「2007年に旭硝子財団のブループラネット賞を受賞して来所したロッキーマウンテン研究所のエイモリロビンス氏や、現在も地球環境研究センターの活動を支援し、このニュースの愛読者でもある加藤三郎氏が講演されていて、感慨深いです」

波照間地球環境モニタリングステーション竣工記念式典報告

遠藤裕一 (地球環境研究センター)
(1992年6月号掲載)

沖縄地方に本州より1月程早く梅雨明け宣言がだされ、午後には早くも32度を記録しうだるような真夏日となった6月25日、環境庁国立環境研究所地球環境研究センターが沖縄県竹富町波照間島に建設した、波照間—地球環境モニタリングステーションの竣工記念式典が同ステーション前広場において挙行された。中村正三郎環境庁長官、宮平洋沖縄県出納長はじめ国、県、町、地元公民館代表等、関係者約70名にステーションの完成を祝っていただいた。

式典は、10時半の市川惇信国立環境研究所長の開式の挨拶で始まり、中村環境庁長官の式辞に引き続き、中村長官、宮平出納長、友利竹富町長によってテープカットが行われた。その後、西岡地球環境研究センター総括研究管理官から、施設設立の経緯及び概要説明、宮平出納長及び安里波照間公民館長による祝辞があった。閉会後、波照間農村集落センターに会場を移しての祝賀会では、伝統的な民族衣装を着けた島の方々による、地元の代表的な民謡 “波照問島節” で幕を開けた後祝宴に移り、盛会裡の内に閉会した。

波照間ステーションは、地球の温暖化やオゾン層の破壊など地球環境の変動を長期観測することを目的に建設したもので、島の東端の国有林野内に建っている。波照間島は、八重山群島に属しており、生きた化石と言われるイリオモテヤマネコの生息地として有名な西 表島の南方約20キロにあり、人の住んでいる島としては、日本最南端の島である。楕円形をした平坦な島の殆どをサトウキピ畑が占める。山羊の放牧も盛んで、島のいたるところに、親子連れでのんびりと草を食む姿が見られる。

この様に波照間ステーションは、植物の炭酸同化作用や呼吸活動並びに人為的な活動の影響を受け難く、大気中の温室効果ガスの濃度が大きな変化をおこさないため、太平洋や亜熱帯地方のベースライン大気を長期間モニタリングするのに、非常に適した場所に位置している。同ステーションは、完全自動化により温室効果ガスを継続的に測定できる世界で初めての施設であり、今年中に二酸化炭素、メタン等を測定するための自動連続測定装隧等を設置し、来年早々から試験運転を開始する予定である。

なお、波照間ステーションの建設に当たり一方ならず御協力、御支援を頂いた沖縄開発庁、農林水産省、沖縄県、竹富町及び波照間島をはじめとする地元の皆様方に、心から感謝申し上げる次第である。

※編集局コメント
「竣工記念式典では環境庁長官や竹富町長などに完成を祝っていただいた。波照間ステーションでの大気中の温室効果ガス濃度の長期モニタリングへの大きな期待がうかがえます」

スーパーコンピュータによる地球環境研究ワークショップ開催さる

和田篤也 (地球環境研究センター 観測第二係長)
(1993年3月号掲載)

地球環境研究センターは、去る3月23日、国立環境研究所—大山記念ホール—にて、スーパーコンピュータによる地球環境研究ワークショップ」を開催した。当日は、スーパーコンピュータと地球環境研究に関係する国立試験研究機関、大学、地方自治体等から約90名の参加があり、活発な議論や意見交換がなされた。

地球環境研究センターでは、地球環境研究の支援という役割を果たすための一つのツールとして、昨年3月にスーパーコンピュータを導入し、運用を行っている。運用開始から約1年が経過し、システムの利用者も順次研究の成果を上げつつあることから、利用者間の研究に関する情報交換や研究成果の対外的なPRを目的としてワークショップを開催したものである。

ワークショップ当日は、鈴木地球環境研究センター長の開会の挨拶に始まり、セッションIにおいてはGCM(General Circulation Model)等のモデル開発、セッションIIにおいては人工衛星等によるリモートセンシング、セッションIIIにおいては全球規模ほどではないが国のスケールを越えた規模で環境に影響を及ぼす現象にそれぞれ焦点が当てられ、研究内容が最先端の科学的課題に関するものであるにもかかわらず、その概念、目的、成果、スーパーコンピュータシステムの効率的利用方法などが極めてわかりやすく報告された。

また、セッションIVにおいては、システムの保守を担当する日本電気株式会社のスタッフと利用者との交流を目的として意見交換の場を設けた。

セッションIでは、気候モデルの開発・改良とそれを用いた気候力学解明、大気・海洋 結合モデルによる気候感度実験、対流圏と成層圏との間における物質輸送に関する研究等について報告があった。この研究分野では、モデルを用いて数十年から100年後の全球規模の気象現象を予測することから、超高速の演算処理を持ったスーパーコンピュータを有して計算しても半年程度かかるため、常に計算時間を短縮する計算プログラムを改良する必要性が指摘された。

セッションIIでは、各種衛星画像を用いた湿原植生のリモートセンシング、衛星からの大気遠隔計測高度化のための研究などについて報告があった。この研究分野は、膨大な量の衛星データを解析する必要があることから、大容量データを記憶できるスーパーコンピュータでさえ、外部記憶装置がすぐに満杯になるため、外部記憶装置の効率的な利用方法、及び他の解析システムの可能性について論じられた。

セッションIIIでは、成層流体中の内部重力波の励起と伝播、化学反応物質の乱流輸送機構と大気・海洋間での物質交換機構の解明等について報告があった。

いずれのセッションにおいても、研究報告者と出席者との間で熱のこもった意見交換や議論が展開され、参加した研究者のみならず地球環境研究センターにとってもスーパーコンピュータシステムを用いた研究の今後の方向を考える上で極めて参考になるものであった。最後は、西岡総括研究管理官の閉会挨拶により盛況のうちにワークショップを終えた。

地球環境研究センターでは、今後とも、研究者間の交流と研究成果のPRをより一層進めるとともに、モデル研究の方向性を示すことを目的として、このようなワークショップを定期的に開催していくことを考えている。

初代スーパーコンピュータシステムNEC SX-3
第7代スーパーコンピュータシステムNEC SX-Aurora TSUBASA

※編集局コメント
「2020年3月から利用が開始された第7代のスーパーコンピュータシステムは初期のものとは比較にならない性能を有しているが、当初から現在とほぼ同じ形(気候感度実験、計算時間短縮の工夫導入、物質輸送過程の改善等)で研究が進められていたのは先進的で、驚きといえます」

コラム1:決定 地球環境研究センターのトレードマークロゴマーク決まる

(1991年10月号掲載)

地球環境研究センターも発足1周年をむかえ、ロゴマーク」を作成いたしました。

〈ロゴマークの意味〉

地球環境研究センターの業務である
①「地球環境研究の総合化」
②「地球環境研究の支援」
③「地球環境のモニタリング」
の3本柱を、地球の輪郭に沿った3本のラインで表現し、更にその全体の形は “research” のrを表しています。

今後は、このロゴマークをセンターのトレードマークとして色々な形で使用していくこととしています。

コラム2:募集案内(南極大気環境観測隊員)

(1993年10月号掲載)

日本南極地域観測隊の大気現境観測隊員について、以下のような案内が届きましたので、案内発送者グループの了解の上、ここに掲載いたします。興味をお持ちの方は、1994年1月末までに、案内発送者グループ委員長岩坂泰信氏、もしくは、幹事山内恭氏(連絡先は下記案内参照、あるいは、当センターの神沢博まで御連絡下さい。

南極の大気科学研究観測の隊員について

南極大気科学を研究するグループは、南極観測の最近の6カ年では「南極大気化学観測計画」を実施しております。この計画は、現在世界的に深刻になっている地球環境の問題について南極域を対象に取り組む計画で、空気の清浄な南極域で全球的な環境を監視(モニタリング)すると共に、地球の気候・環境変化に敏感な場所、オゾンホールのような特有の現象のおこる場所で大気微量成分の挙動を調べようというものです。特に、海洋や生物圏から大気へ、成層圏から対流圏・雪氷圏へ、さらには低緯度から高緯度までの物質循環、即ち、輸送や生成・消滅過程に重点をおいています。

南極観測の33次隊(1992年に越冬)から38次隊(1997年に越冬)に、グループから1ないし2名の隊員が参加し、様々な観測を実施することになっています。既に33、34次隊では各1名が参加しており、35次隊でもまた1名が今秋出発し、レーザ・ヘテロダイン分光計によるオゾン等の観測を行います。

当グループでは、来年(1994年)の11月に出発する第36次隊で、往路の南極観測用砕氷船「しらせ」での船上観測、昭和基地での越冬1年間の観測を担当していただける隊員1人を募集しております。この場合、帰国は再々来年(1996年)の3月になります。観測のテーマとしては、まだ確定はしていませんが、温室効果気体の新しい成分の観測、オゾンやエアロゾル、その関連成分の観測、回収気球のテストなどがあげられます。その他は、以前から引き継ぎの大気中の二酸化炭素やメタン濃度の連続観測、天空光の分光測定による成層圏微量成分の観測、大気やエアロゾルのサンプリング等があります。

また、その年度独自の、行かれる方の専門に基づいた項目も取り上げられます。このような次第で、是非、我こそは参加してやろうというご希望、ご意志のある方、条件(興味、専門、職場、家族)の満たされる方、ふるってご連絡下さい。

とりあえず、今度の観測隊では無理だが、将来なら参加してみたい、という方でも、その旨ご連絡下さい。また、そのような方をご存じの方も、当方へご連絡下さい。なお、現状では、国家公務員の職についていることが条件になっていますので、残念ながら、そういう方が優先となります。将来的には、それ以外の方も可能となる方向に努力しています。

(追伸)人工衛星(MOS-1. ERS-1等)データの受信という別な隊員枠の仕事もあります。

※編集局コメント
「当時の南極観測隊は、国家公務員であることが要件であったので、地球環境研究センターが連携する多くの国立研究機関に隊員募集の発信が行われました。南極ではこの頃すでにオゾンホールの観測や氷床コアから過去の大気における温室効果ガスを測定する研究が進められていました。これらの研究成果がその後の衛星観測や地球温暖化研究に役立てられてきたのです。国立環境研究所の研究者にも多くの南極観測隊経験者がいます」

コラム3:WWW—ホームページ開設のお知らせ

(1996年2月号掲載)

国立環境研究所では、平成8年3月末にインターネットのWWW(World Wide Web)ホームページを開設しました。地球環境研究センター関連では、①地球環境研究センター、②ILASプロジェクト(人工衛星によるオゾン層観測、③UNEP/GRID—つくば、の各ページが開設されており、いずれも国立環境研究所のホームページから入って見ることができます。ぜひ一度アクセスして下さい。

【接続先】http://www.nies.go.jp