COLUMN2024年3月号 Vol. 34 No. 12(通巻400号)

観測現場発 季節のたより[29] シベリア観測の苦難の歴史

  • 笹川基樹(地球システム領域地球環境研究センター 大気・海洋モニタリング推進室 主幹研究員)

「ウクライナのあれ、笹川さんのシベリア観測大丈夫ですか?」

2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、会う人皆さんに心配されます。ただこれまでも、シベリアでの観測は様々な苦難に巻き込まれています。

シベリアでのタワー観測は、2008年に最多の9ヶ所まで展開していました(図1)。私はこの、シベリア観測としては最も景気の良い年に国立環境研究所に来ました。その勢いで、タワー観測網をJR-STATIONと名付けたのは私です(図2)。

図1 国立環境研究所がシベリアで実施しているタワー観測網(JR-STATION)。灰色は観測を終了したサイト。
図1 国立環境研究所がシベリアで実施しているタワー観測網(JR-STATION)。灰色は観測を終了したサイト。
図2 JR-STATIONのロゴ。
図2 JR-STATIONのロゴ。

しかしその後、2012年にはヤクーツク(図1のYAK)の共同研究機関の体制が変わり、観測を継続してもらえませんでした(後任者との一悶着は今では話のネタです)。2013年にはロシア国内での高圧ガス容器の取り扱いルールが変更になり、イグリム(図1のIGR)という最もアクセスの難しいサイトでは、高圧ガス容器の輸送が困難となり、観測が中止されました。2014年のクリミア危機では、なぜかその影響を受けて、クリミアから遥か遠いサビューシカ(図1のSVV)での観測が禁止されました。

そして2022年からシベリアでの観測を取り巻く状況はますます厳しくなっています(国立環境研究所ニュースVol.41, No.6(https://www.nies.go.jp/kanko/news/41/41-6/41-6-02.html)参照)。

その一方でJR-STATIONという名前は温室効果ガス研究の業界に認知されてきているように感じます。データ利用も広がり、新しい知見がますます得られています。「笹川が来てから景気の悪いことばかり」と言われないように日々奮闘しております。

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