RESULT2024年10月号 Vol. 35 No. 7(通巻407号)

最新の研究成果 つくばの大気中PM2.5濃度と酸化能への野焼きの寄与

  • 伏見暁洋(地球システム領域 地球環境研究センター 主幹研究員)

大気中の微小粒子状物質(PM2.5)は人の健康に悪影響を及ぼすため、優先的に管理すべき大気汚染物質です。大気PM2.5に対して効果的な対策を講じるためには、PM2.5濃度に対して関与が大きい発生源を特定することが重要です。本研究では、バイオマス燃焼(特に、稲わらなど農作物残渣の野焼き)に焦点を当て、各種発生源のPM2.5濃度と有機粒子(PM2.5有機物)濃度への寄与率、PM2.5酸化能*との関連を推定することを目的としました。

大気中のPM2.5試料を東京郊外(つくば市)で2012~2013年に1年間、毎週(週に1回)採取しました。このPM2.5試料を1ヶ月毎にまとめ、粒子質量、元素状炭素、有機炭素、水溶性有機炭素、無機イオン成分、元素、有機成分、生物学的酸化能を測定しました。

野焼きの有機マーカー(特定の発生源に特徴的な有機成分)として広く用いられているレボグルコサン(繊維質セルロースの熱分解物)の大気中濃度は、秋に顕著に高く、PM2.5濃度に対して野焼きの寄与が秋に高かったことが示唆されました。野焼きで排出される他の有機成分(βシトステロール)とレボグルコサンの濃度比を月別に比較したところ、レボグルコサンは野焼きのマーカーとして有用ではあるものの、夏場の分解が一定程度あり得ることが示唆されました。このことから,βシトステロールをレボグルコサンと一緒に(または補佐的に)発生源解析に用いることの有効性が示唆されます。

大気有機粒子の主な発生源と年平均濃度への寄与率は、二次有機粒子(Secondary Organic Aerosol:SOA、32%)、自動車排気(22%)、野焼き(8.4%)、調理(5.1%)と推定されました(図1)。有機粒子濃度に対する野焼きの寄与は11月が最も高く(20%)、6月が最も低い(3.3%)と推定されました。

大気PM2.5の酸化能は春と夏に高くなりました。相関解析と気象解析から、つくばの暖候期のPM2.5酸化能の増加には、首都圏の人為起源SOAと船舶(または他の重油燃焼)、植物起源SOAが関与していることが示唆されました。一方、野焼きと自動車排気はPM2.5酸化能との強い相関は見られませんでした。

図1. 本研究の概要と大気有機粒子の年平均濃度に対する発生源別寄与率(推定値).
図1 本研究の概要と大気有機粒子の年平均濃度に対する発生源別寄与率(推定値).

本研究では、有機粒子の主な発生源を解析に含めました。今後はPM2.5の酸化能に関与する可能性がある金属元素(鉄、ニッケル等)の主な発生源(タイヤ摩耗、ブレーキ粉塵、道路巻き上げ粉塵など)を含めた、より包括的な発生源解析への展開が期待されます。

Fushimi, A., Villalobos, A.M., Takami, A., Tanabe, K., Schauer, J.J. (2024). Contributions of Biomass Burning and Other Sources to Fine Particle Level and Oxidative Potential in Suburban Tokyo, Japan. Aerosol Air Qual. Res., 24, 230291.
https://doi.org/10.4209/aaqr.230291