最新の研究成果 つくばの大気中PM2.5濃度と酸化能への野焼きの寄与
大気中の微小粒子状物質(PM2.5)は人の健康に悪影響を及ぼすため、優先的に管理すべき大気汚染物質です。大気PM2.5に対して効果的な対策を講じるためには、PM2.5濃度に対して関与が大きい発生源を特定することが重要です。本研究では、バイオマス燃焼(特に、稲わらなど農作物残渣の野焼き)に焦点を当て、各種発生源のPM2.5濃度と有機粒子(PM2.5有機物)濃度への寄与率、PM2.5酸化能*との関連を推定することを目的としました。
大気中のPM2.5試料を東京郊外(つくば市)で2012~2013年に1年間、毎週(週に1回)採取しました。このPM2.5試料を1ヶ月毎にまとめ、粒子質量、元素状炭素、有機炭素、水溶性有機炭素、無機イオン成分、元素、有機成分、生物学的酸化能を測定しました。
野焼きの有機マーカー(特定の発生源に特徴的な有機成分)として広く用いられているレボグルコサン(繊維質セルロースの熱分解物)の大気中濃度は、秋に顕著に高く、PM2.5濃度に対して野焼きの寄与が秋に高かったことが示唆されました。野焼きで排出される他の有機成分(βシトステロール)とレボグルコサンの濃度比を月別に比較したところ、レボグルコサンは野焼きのマーカーとして有用ではあるものの、夏場の分解が一定程度あり得ることが示唆されました。このことから,βシトステロールをレボグルコサンと一緒に(または補佐的に)発生源解析に用いることの有効性が示唆されます。
大気有機粒子の主な発生源と年平均濃度への寄与率は、二次有機粒子(Secondary Organic Aerosol:SOA、32%)、自動車排気(22%)、野焼き(8.4%)、調理(5.1%)と推定されました(図1)。有機粒子濃度に対する野焼きの寄与は11月が最も高く(20%)、6月が最も低い(3.3%)と推定されました。
大気PM2.5の酸化能は春と夏に高くなりました。相関解析と気象解析から、つくばの暖候期のPM2.5酸化能の増加には、首都圏の人為起源SOAと船舶(または他の重油燃焼)、植物起源SOAが関与していることが示唆されました。一方、野焼きと自動車排気はPM2.5酸化能との強い相関は見られませんでした。
本研究では、有機粒子の主な発生源を解析に含めました。今後はPM2.5の酸化能に関与する可能性がある金属元素(鉄、ニッケル等)の主な発生源(タイヤ摩耗、ブレーキ粉塵、道路巻き上げ粉塵など)を含めた、より包括的な発生源解析への展開が期待されます。
Fushimi, A., Villalobos, A.M., Takami, A., Tanabe, K., Schauer, J.J. (2024). Contributions of Biomass Burning and Other Sources to Fine Particle Level and Oxidative Potential in Suburban Tokyo, Japan. Aerosol Air Qual. Res., 24, 230291.
https://doi.org/10.4209/aaqr.230291