CDM・吸収源プロジェクトの基礎知識
リモートセンシング技術の利用可能性

 広域な森林をモニタリングしようとした場合、個々の樹木に注目して観測する手法では多大な労力が必要となり、全ての樹木を観測することは現実的に困難です。そこで、上空から広域を客観的に観測する手法として、リモートセンシングの利用が期待されています。

 リモートセンシング概論
 森林モニタリングにおけるリモートセンシング
 参考文献


リモートセンシング概論

 リモートセンシング(Remote Sinsing)は日本語で「遠隔探査」と呼ばれる技術で、その定義は地上での観測も含めて、対象物に触れることなく探査する方法を指します。しかし、一般には航空機や人工衛星に搭載した各種センサで対象物の観測データを取得して、それをコンピュータ処理によって解析する技術をいいます。
  最近ではさまざまな観測要求に対応する形で多様なセンサが開発され、取得されたデータを用いた森林モニタリング手法に関しても、多くの研究が積み重ねられてきています。

(1)プラットフォーム技術

 プラットフォーム技術は、センサを搭載して地球観測を行う衛星自体またはその他の観測プラットフォームの運用方法に関する技術で、地球を周回する観測衛星の場合、観測頻度や観測精度に直結しています。ここでは、プラットフォーム技術の中でも衛星の軌道・高度およびポインティング機能について整理します。

(a)衛星の軌道

 衛星の軌道には様々な要素があり、軌道形状、軌道傾斜角、周期性、回帰日数などの組み合わせにより規定されます。地表面を隈無く観測できるように設計された地球観測衛星のほとんどは、太陽同期準回帰軌道と呼ばれる軌道上を周回しており、地球を周回する毎に少しずつ観測位置をずらして、数日後、元の位置に戻るまでに全球を観測する仕組みになっています。また、同一地点では衛星と太陽の位置関係が常に一定になるように設定されており、継続的に観測して時系列にデータを比較することができます。継続的に同一位置を同一条件(太陽位置)でモニタリングできることは、森林監視において重要なポイントであり、衛星を利用する最大の利点の一つと考えられます。

表 衛星の軌道要素

軌道要素 概 要
軌道形状 衛星軌道の形のこと。「円軌道」や「楕円軌道」などがあります。
軌道傾斜角 赤道に対する傾斜角のこと。傾斜角が0度で常に赤道上に位置する「赤道軌道」、傾斜角が90度で両極を通る「極軌道」、傾斜角が0度から90度の間にあり、中緯度付近を集中的に観測する場合などに用いられる「傾斜軌道」があります。
周期性 赤道上を地球の自転と同じ速度で周回する「静止軌道」、衛星の軌道面と太陽方向が常に一定になるような「太陽同期軌道」などがあります。
回帰日数 毎日、同じ場所の上空に衛星が戻る「回帰軌道」、少しずつ軌道をずらして数日後に同じ場所の上空に衛星が戻る「準回帰軌道」などがあります。

(b)衛星の高度

 衛星の高度は、地上分解能(地上の様子を空間的にどの程度細かく認識できるかを示す能力)と観測幅(一度に観測できる領域の広さ)に密接に関わっていて、高度を低くすれば、同一のセンサを用いても地上分解能を向上させることができます。しかし、観測幅が狭まり、衛星データ利用の特徴の一つである広域な観測が行えない可能性もあります。また、運用上、高度を低く保ち、安定した衛星姿勢で観測することが難しく、結果、燃料消費が早く、衛星の寿命を短くさせることも考えられます(ピンポイントで高分解能なデータ取得が要求される場合のみ高度を下げるといった運用方法もあります)。

(c)ポインティング機能

 衛星の姿勢を制御することにより、軌道直下だけでなく軌ケからかなり離れた地域を特定してデータを取得する技術を呼びます。衛星の回帰日数にくらべて、再帰観測日数(同一箇所を再び観測できるまでの間隔)を短縮することができ、ユーザーのリクエストに素早く対応できるなどの利点があります。地上分解能1mを商用衛星で初めて実現したIKONOSは、11日の回帰日数であるのに対し、設計上、最大で1日1回の観測が可能です(ただし、首振り角10度以内で1m精度のデータを取得する場合は、最大でも3日に1回の観測頻度となります)。森林火災や森林伐採の把握など、特定地域のデータを高頻度で得たい場合などに有効と考えられます。

表 主な衛星プラットフォーム

衛星名 高 度 首振り角 回帰日数 再帰観測日数
ADEOS II 803km 4日
ALOS 690km ±40度 46日 不明
IKONOS 680km ±45度 11日 1.6日
JERS-1 568km 44日
LANDSAT7 705km 16日
OrbView3 470km ±45度 16日 3日
OrbView4 470km ±45度 16日 3日
QuickBird 600km ±30度 20日 1.5~2.5日
SPOT4 832km ±26度 26日 2.5日

(d)衛星以外のプラットフォーム

 前述したとおり、観測高度は、センサの観測幅と地上分解能を決定する重要なパラメータです。近年では(空間的な要素だけで言えば)1m解像度の衛星なども運用されていますが、基本的には、ミクロな観測は低空から、マクロな観測は高々度からといったように、目的に応じて最適なプラットフォームを選択することが求められます。
  森林監視においては、対象が広域な場合が多いため、全ての領域を高分解能で解析することは難しいと考えられます。特定の地域について詳細に検討する場合や、広域に評価する場合など用途に合わせたデータの利用が求められます。
  なお、衛星以外にセンサを搭載して森林モニタリングを実施できるプラットフォームには、航空機、ヘリコプター、スペースシャトル、成層圏プラットフォームなどがあります。


(2)センサ技術

 衛星リモートセンシングにおけるセンサといえば、検出素子だけではなく、レンズやスキャナーなど観測機器ユニット全体を指します。ここでは、代表的な衛星センサである光学系センサと合成開口レーダー(SAR)に加えて、航空機搭載センサの動向についても紹介します。

(a)光学系センサ(可視・近赤外・短波長赤外・熱赤外)

  光学系センサとは、太陽光の地表面反射または地表からの放射による地表からの電磁波を捉えるセンサのうち、可視領域から赤外領域までの波長帯のデータを取得するものです。地球観測衛星に搭載されるセンサは、一定幅で地表をスキャンしながら地球の周りを周回しており、各波長帯毎にスペクトルの輝度値がデジタル化して記録されています。

 一般に光学系センサでは、雲が地表を覆っている場合、目的とする対象物を観測することができません。雲の無い画像が得られる割合は統計上10%未満と言われており、特に、雨の多い熱帯地域の森林監視に光学系センサを利用しようとした場合、思うようにデータが得られないことが考えられます。

表 主な光学系センサ

衛星/センサ名 観測波長帯(バンド数) 地上分解能
LANDSAT7/ETM+ 可視近赤 15m
可視近赤~短波長赤外(6バンド) 30m
熱赤外 60m
SPOT/HRVIR 可視近赤 10m
可視近赤(4バンド) 20m
SPOT/VEGETATION 可視近赤(5バンド) 1.15km
IKONOS 可視近赤(パンクロ) 1m
可視近赤(4バンド) 4m
ALOS/AVNIR-2
(2003年打ち上げ予定)
可視近赤(4バンド) 10m
ALOS/PRISM
(2003年打ち上げ予定)
可視近赤 2.5m
NOAA/AVHRR 可視近赤~熱赤外(5バンド) 1.1km
TERRA/ASTER 可視近赤(3バンド) 15m
短波長赤外(6バンド) 30m
熱赤外(5バンド) 90m
OrbView3
(2001年打ち上げ予定)
可視近赤 1m
可視近赤(4バンド) 4m
OrbView4
(2001年打ち上げ予定)
可視近赤 1m
可視近赤(4バンド) 4m
可視近赤~短波長赤外(200バンド) 8m

 光学系センサを搭載した衛星として長い歴史を持つ米国のLANDSATの場合、地球全体を16日周期で隈無く周回しており、そこに搭載されているTMと呼ばれるセンサは、185kmの幅で地表をスキャンし、地表で約30m平方を最小単位として可視域から熱赤外域まで7バンドのデータを取得しています。以下に光学系センサが取得するデータの特徴を、波長帯毎にとりまとめます。

表 光学系センサの波長帯とその特徴

波長帯 特 徴
可視領域 人間が目で見える波長帯のデータです。
近赤外領域 植生に対する感度が高く、その領域のデータを可視域のデータと組合せて算出されるNDVI(植生指標)は、植生の活性度を把握する指標として用いられています。
短波長赤外領域 地質などの判読に多く用いられるものであり、森林分野では土壌の把握などへの適用が期待されています。しかし、植生等で覆われている場合には土壌のデータを直接観測できないといった問題もあります。
熱赤外領域 地表の温度分布を把握するのに用いられ、森林火災で延焼中の箇所特定などでの利用が可能と考えられます。

 近年では、地上分解能が1mを越えるような超高分解能衛星や、観測波長帯を非常に細かく分割して詳細に対象物を観測することのできるハイパースペクトラルセンサが注目されています(ただし、ハイパースペクトラルセンサの場合、あまり高分解能での観測はできません)。

(b)合成開口レーダー(SAR)

 マイクロ波を地上に放射し、その反射波を受信して、観測対象に関するマイクロ波の散乱特性(特にセンサに戻ってくる方向の散乱を後方散乱といいます)や位相などの情報を記録するタイプのセンサです。地表に雲が覆っている場合や雨天時、夜間においても観測が可能なため、いわゆる「昼夜全天候型」のセンサと呼ばれています(ただし、水蒸気には影響を受けるといわれています)。定期的な森林監視を行おうとした場合には、スケジュール通りデータを得ることができます。

 地上分解能は、光学系センサ(可視近赤外域)に比べるとやや劣っており、2003年に打ち上げが予定されているRADARSAT2のUltra High Resolution Modeで約3mなど、高分解能化は進んではいるものの、現在運用されている衛星搭載SARの分解能は10~30m程度です。

 近年では、多バンド多偏波のSARデータを合成して新たな情報を抽出したり、SARインターフェロメトリ(InSAR)と呼ばれる2つのSAR画像の位相差を利用して地表面の形状情報を得る技術が注目されています。これらの最新技術を用いた、森林モニタリング手法に関する研究も進められています。

表 主な合成開口レーダー

衛星名/センサ名 波長帯/偏波 地上分解能
JERS1/SAR
(1998年運用終了)
Lバンド/HH偏波 18m
ERS1,2/SAR Cバンド/VV偏波 30m
RADARSAT1/SAR Cバンド/HH偏波 最大9m
RADARSAT2/SAR
(2003年打ち上げ予定)
Cバンド/HH・HV・VH・VV偏波 最大3m
ALOS/PALSAR
(2003年打ち上げ予定)
Lバンド/HH・VV偏波 最大10m
※RADARSAT2で地上分解能3mのUltra High Resolution Modeの場合はシングル偏波
※波長帯の種類
  マイクロ波には、波長の短い方から、Ka(7.5-11mm)、K(11-16.7mm)、Ku(16.7-24mm)、X(24-37.5mm)、C(37.5-75mm)、S(75-150mm)、L(150-300mm)、P(300-1000mm)等と呼ばれるバンド(波長帯)があります。地表の物体に対するマイクロ波の散乱特性は波長によって異なり、波長が長いほど物体の内部に進入しやすく、波長が短いほど樹木等に遮られてしまう傾向があります。
※偏波の種類
  HH偏波とは地表面に対して水平に偏波したマイクロ波を発信し、後方散乱波の水平偏波成分のみを受信することで、VV偏波とは垂直に偏波したマイクロ波を発信し、後方散乱波の垂直成分のみを受信することをいいます。また、HV偏波とは水平に偏波したマイクロ波を発射し、垂直偏波成分のみを受信することです(VH偏波はその逆です)。HHまたはVVをライク偏波(平行偏波)、HVまたはVHをクロス偏波(直行偏波)と呼びます。

(c)航空機搭載センサの動向

  航空機搭載センサにも、衛星と同様に光学系センサや合成開口レーダーなどがあります。観測高度が人工衛星よりも低いため、かなり詳細なデータを得ることが可能ですが、周期性や広域性といった点では難点があります。

 近年では、衛星よりも先行して、波長分解能が数百バンドにも及ぶハイパースペクトラルセンサのデータ取得が行われたり、レーザープロファイラ(航空機から地上にレーザを照射し、その反射波との時間差を解析することで、地上の三次元形状を把握する技術)が実用化されつつあり(概ね2m四方に1点の密度で、位置精度0.15mの高さ情報を得ることができる)、これらの最新技術を利用した森林モニタリング手法に関する研究が進められています。


(3)リモートセンシング関連HPリンク集


森林モニタリングにおけるリモートセンシング

  森林モニタリングにおけるリモートセンシングの利用は、広域な情報を定期的に得られるといった利点から、これまでも様々な角度から研究されてきました。ここでは、これまで検討されてきたリモートセンシングの利用方法を整理した上で、吸収源プロジェクトにおける現在の課題とリモートセンシングの関係についてとりまとめます。

(1)リモートセンシングによる森林モニタリング

 森林モニタリングは、観測対象の森林が広域であったり、進入が難しい場所であったりする可能性があるため、現地調査だけでは対応しきれないことが想定されます。また、森林の変動をモニタリングするためには、定期的なデータの取得や、データ取得の即時性が要求されます。そのため、広域のデータを周期的に取得できるリモートセンシングの利用が必然的に注目され、これまでも衛星や航空機から観測したデータの利用方法に関する研究が進められてきました。ここでは、これまで検討されてきた主なリモートセンシングの利用方法を整理します。

  • 森林伐採の発見
      植生は近赤外域の波長帯によく反応するといった特性を持っているため、光学系(可視近赤外)センサデータなどを時系列に整備することで、ある程度の規模の伐採であれば、容易に把握することができると考えられます。熱帯など年間を通して雲に覆われていることが多い場所については、合成開口レーダー(SAR)を用いても植生域と伐採域のマイクロ波の散乱特性の違いから伐採域を抽出することができます。また、SARインターフェロメトリ(InSAR)技術により、樹木そのものを抽出しようとする検討も行われています。
  • 森林火災の発見
      光学系センサにおける熱赤外データを用いてで熱放射量の大きい箇所を抽出するほか、森林火災による光(炎)に着目し、夜間画像(夜間にとられた可視近赤外センサの画像)で被災箇所を検知することができます。
  • バイオマスの推定
      バイオマス量の推定には、森林の形状から推定する方法と、SARデータとの相関関係を基に推定する方法とが考えられています。前者においては、レーザープロファイラで樹高を抽出したり、光学系センサで樹冠率を抽出するなどの検討が行われています。一方、後者は、様々なバンドと偏波の組み合わせのSARデータについて、バイオマス量との相関関係が検証されています。また、利用波長帯については、現在あまり用いられていないPバンドやXバンドにも期待が持たれています。
      なお、リモートセンシングによる計測は地上部分におけるバイオマス量に限定されるため、現地調査データとの連携が不可欠です。
  • その他の利用場面
      気象衛星からは光合成などの算定の基礎情報となる到達日射量が、降雨レーダーからは降雨情報がそれぞれ取得できます。また、土壌の有機化の状況や土壌水分量を知る手段としてもリモートセンシングの利用が検討されています。さらに、SARインターフェロメトリにより算出されるDEM(標高データ)は森林分野でも重要な基礎情報と考えられています。


(2)吸収源プロジェクトとリモートセンシング
 吸収源プロジェクトにおける現在の課題との関係でリモートセンシングの利用を考えた場合、その利用分野としては、以下のような項目が挙げられます。

  • 吸収源プロジェクト候補地の選定(造林適地選定)
      現況の土地被覆状況をリモートセンシングで概略把握し、気象条件、人口分布などのデータと組合せることで、ある程度の評価は可能と考えられます。ただし、厳密な吸収源プロジェクト適地選定となると、法規制や土地所有制度などに代表される社会的な条件や制約等が多く入ってくるため、リモートセンシングをベースにした客観的評価では難しくなります。
  • リーケージの把握
      経年的な良質のデータを入手することでリーケージの状況を把握することが可能と考えられます。ただし、光学センサでは雲の影響等で十分な頻度でデータ取得することが難しので、天候等に左右されずデータの取得が可能なSARによる観測で、どこまで伐採の様子が把握できるかがポイントとなります。なお、細かい伐採については、リモートセンシングでは把握しきれないと推測されます。
  • 吸収源プロジェクト実施機関による対象林のモニタリング
      リーケージの把握と同様に、経年的な良質のデータを入手することで伐採の状況や森林火災などの影響等を把握することが可能と考えられます。
  • ベースラインの設定に向けたモニタリング
      現地サンプリング調査データとリモートセンシングデータ(レーザプロファイラやSAR等のデータ)を組合せて、バイオマス量を推定する検討が進んでいます。広域な森林全体における現存炭素量を定量的に計測する技術は、面的に情報を得ることのできるリモートセンシング以外にはないため、実用化の期待が大きい分野といえます。

参考文献

  • Eric S. Kasischke, John M.Melack, M.Craig Dobson (1997): The Use of Imaging Radars for Ecological Applications - A Review, REMOTE SENS. ENVIRON., No.59, PP.141-156
    概 要
      航空機搭載型SARデータにより得られる生態情報の現状と将来展望に関するレビューが行なわれており、マルチチャンネルレーダーデータは、植生構造、植生、土壌層の湿度に対して高感度であり、土地被覆パターンを分類する主要な手段となりうることが示されています。さらに、森林生態系のバイオマス変化のモニタリング能力があること(ただし、異なる森林間では一貫性はない)が示され、クロス偏波(HVまたはVH)チャネルの低周波数(PまたはL)バンドの組み合わせのレーダシステムの精度がよいことが示されています。また、ライク偏波(HHまたはVV)レーダー画像は、植生キャノピー下の洪水検出に、高周波数(Cバンド)レーダー画像は、草地が優先している湿原の検出にそれぞれ適しており、時系列SARデータから湿原における洪水変化、植生の凍結・雪解けの変化、少量の植被領域の土壌湿度の相対変化を抽出できることが示されています。

  • P.A.Harrell, L.L.Bourgeau-Chavez, E.S.Kasischke, N.H.F.French, N.L.Christensen Jr. (1995): Sensitivity of ERS-1 and JERS-1 Radar Data to Biomass and Stand Structure in Alaskan Boreal Forest, REMOTE SENS. ENVIRON., No.54, PP.246-260
    概 要
      アラスカ内陸部の北方林のバイオマスと森林群落構造の変化をモニタリングするため、ERS-1/SARとJERS-1/SARの適応性を検証しています。
      検証の結果、Cバンド(ERS-1)とLバンド(JERS-1)の後方散乱は、バイオマス、密度、樹高に対する感度が顕著であることが示されています。また、全調査区で、地表面がほぼ乾燥している時(雪に覆われた晩冬および晩夏)のレーダーの後方散乱と森林バイオマスとの相関が強いことが示されています。

  • Kevin O. Pope, Eliska Rejmankova, Jack F. Paris, Robert Woodruff (1997): Detecting Seasonal Flooding Cycles in Marshes of the Yucatan Peninsula with SIR-C Polarimetric Radar Imagery, REMOTE SENS. ENVIRON., No.59, PP.157-166
    概 要
      メキシコ、ユカタン半島北西部の海岸平地におけるマングローブ林において、この地域唯一の主要な季節的変化である洪水の状況を、SARの偏光後方散乱係数(HH、VV、CS=(HV+VH)/2)とPD(H偏波とV偏波の位相差異情報)から抽出しています。
      検討の結果、CバンドのPDが、沼地洪水のモニタリングには最高のレーダパラメータであることが示唆されました。ERS-1,2/SAR(C-VV)とRADARSAT/SAR(C-HH)の組み合わせでは、ほとんどの植生の沼地で洪水の検出が可能である(ただし、貧弱な被覆の沼地における部分的な洪水の検出はできない)ことが示されました。

  • Sasan S. Saatchi, Eric Rignot (1997): Classification of Boreal Forest Cover Types Using SAR Image, REMOTE SENS. ENVIRON., No.60, PP.270-281
    概 要
      BOREAS(Boreal Ecosystem Atomospheric Study)プロジェクトにおいて、北方緯度地域における地表面と大気圏間のガス交換のモデリングに関する土地被覆毎の機能を把握するため、SAR画像を用いて、針葉樹と広葉樹または湿性か乾性かを分類しています(この分類は、光合成活性量、呼吸量、炭素同化量、窒素含有量の推定に非常に重要なパラメータとなると記述されています)。
      ・Jack Pine、・Black Spruce、・Trembling Aspen/mixed、・Mixed Jack Pine and Aspen、・Mixed Black Spruce and Jack Pine、・Mixed Strands、・非森林、・水域の8分類した結果、Jack PineとBlack Spruceのような単一種の立木に対しては98%の精度で分類されたのに対し、混交林(・から・)については、種構成や地表面水分量が要因で、よい精度が得られないことが示されました。分類タイプを8種類から5種類(湿性針葉樹、乾性針葉樹、混交広葉樹、非森林、水面)に減らした結果、全地域の分類精度が77%から92%に上がることが示されました。

  • Adrian Luckman, John Baker, Miroslav Honzak, Richard Lucas (1998): Tropical Forest Biomass Density Estimation Using JERS-1 SAR: Seasonal Variation, Confidence Limits, and Application to Image Mosaics, RMOTE SENS. ENVIRON., No.63, PP.126-139
    概 要
      南米中央アマゾンのタパジョス(Tapajos)における再生熱帯森林の地上バイオマス密度のフィールドデータとJERS-1/SARデータとの関係から、SARデータから地上バイオマス密度を導き出す「半経験的なモデル」を開発しています。このモデルを、タパジョスから西へ500km離れたマナウス(Manaus)に適用したところ、よく適合することが確認されています。
      JERS-1/SARデータとバイオマス密度の関係より、おおよそ31t/haまでバイオマス密度を導きだせることが示されました(また、後方散乱はバイオマス密度60t/ha程度で飽和することが示されました)。この解析では、再生熱帯林のバイオマス密度を、その再生段階(ステージ)により、3つに分類することを提案しています。

  • Peter A. Harrell, Eric S. Kasischke, Laura L. Bourgeau-Chavez, Eric M. Haney, Norman L. Christensen Jr. (1997): Evaluation of Approaches to Estimating Aboveground Biomass in Southern Pine Forests Using SIR-C Data, REMOTE SENS. ENVIRON., No.59, PP.223-233
    概 要
      4月と10月に収集されたSIR-C(Shuttle Imaging Radar-C)の多偏波レーダ画像(CバンドおよびLバンド)を用いて、以下の4つの手法によりマツ林の地上バイオマス予測を行なっています。
    • Simple Radar Cross Section Method:全SIR-Cデータより回帰方程式を用いて総バイオマス量を評価する手法。
    • Ranson Method:SIR-CのLHVとCHVチャンネルの比率をパラメータとした線形回帰式により総バイオマス量を評価する手法。
    • Dobson Method:全SIR-Cデータより回帰方程式を用いて平均樹高、平均胸高面積を推定し、その平均樹高および胸高面積をパラメータとする回帰式を用いて樹幹バイオマスを推定。さらに、推定した樹幹バイオマス量と、全SIR-Cデータより回帰式を用いて推定した樹冠バイオマスと足し合わせて、総バイオマス量を評価する手法。
    • Kasischeke Method:枝部分のバイオマス量をSIR-Cデータから回帰式を用いて推定し、その枝部分のバイオマス量をパラメータとする線形回帰式により総バイオマス量を評価する手法。

     検討の結果、多偏波レーダー画像がバイオマス推定に有効であることが示されました。また、評価精度には季節変化があり、乾燥土壌状態のデータを用いるのが最適であることが示されました。手法的には、DobsonやKasischekeのようにバイオマスの構成要素をモデル化して総バイオマスを推定する手法が有効であることが示されました。


  • K. Jon Ranson, Guoqing Sun (1997): An Evaluation of AIRSAR and SIR-C/X-SAR Images for Mapping Northern Forest Attributes in Maine, USA, REMOTE SENS. ENVIRON., No.59, PP.203-222
    概 要
      1994年4月と10月の数日間にSIR-Cミッションと同じ地点(アメリカメーン州)において多バンド多偏波のAIRSARデータを取得し、SIR-Cデータと「過渡期の北方広葉樹の特性(森林カテゴリー、バイオマス密度、森林パターン)抽出」に関しての性能を比較・評価しています。
      検討の結果、利用可能なバンド域(SIR-CがC,L,Xバンドに対して、AIRSARがC,L,Pバンド)および解像度(SIR-Cが25.0mに対して、AIRSARが8.3m)が異なるにもかかわらず、概して結果が類似しており、両者とも15kg/m2以上のバイオマス量であったことが示されました。また、AIRSARは広葉樹と混交林のマッピングにSIR-Cよりもよい結果を残し、逆に、SIR-Cは針葉樹の分類に対してAIRSARよりもよい結果を残したことが示されました。また、AIRSARが高分解能であることは、混交林の分類以外には特に優位な結果を示さなかったことが示されました。

  • 小熊宏之,山形与志樹 (2000): リモートセンシングデータを用いた森林樹冠率の推定(京都議定書対応のためのリモートセンシング技術の確立), 写真測量とリモートセンシング, Vol.39, No.2, PP.82-89
    概 要
      航空写真の図化作業により算出した樹冠率をトゥルースデータとし、光学系航空機センサCASIを用いてスペクトル情報から樹冠率を推定する可能性について検証しています。
      樹幹率は概ね可視域のバンド出力と負の相関関係にあり、近赤外域との相関は低いことが示されました。また、最も樹冠率の推定精度が高かったのは、465nmと700nmの比演算データであることが示されました。
      一方で、植生現存量と相関があるとされている植生指数NDVIと樹冠率の間には高い相関は見られないことが示されました。さらに、樹冠率推定に有効とされてきた波長や推定式についても、対象森林の樹種、林床植生種、データ取得時期、林床の土壌色や湿潤性などがスペクトル情報に大きな影響を与えることが予想され、状況に応じた有効な推定手法、係数等を求めていく必要があることが示されました。

  • 小熊宏之,山形与志樹 (2000):ハイパースペクトラルビデオシステムの開発, 写真測量とリモートセンシング, Vol.39, No.1, PP.55-58

    概 要
      簡便なシステム構成のハイパースペクトラルビデオシステム(HSV)を試作し、航空機観測により良好な分光画像を取得しています。
      安価で軽量なシステムでも相対的な分光パターンの変動を捉えることが可能であることが示されました。さらに、重量を4kg以下に抑えたことで、無人飛行機やカイトプレーンなどへの搭載も可能となり、データ取得機会を確保することが容易となることが示されました。

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