2011年9月号 [Vol.22 No.6] 通巻第250号 201109_250006

「第9回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」の開催報告

地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 玉井暁大

1. はじめに

アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA)は、日本の途上国支援活動の一つとして、環境省と国立環境研究所により2003年から毎年度開催されている[1]。その目的は、WGIA参加国の温室効果ガスインベントリ(以下、インベントリ)作成に携わる行政担当者と研究者が一堂に会し、各国のインベントリ作成を通じて得られた経験および情報を共有することにより、アジア諸国のインベントリの高精度化を図ることにある。2008年5月に神戸で開かれたG8環境大臣会合の結論を受けて同年7月に開催された第6回会合からは、「測定・報告・検証可能(MRV)[2]な温室効果ガス排出削減活動」に関する途上国の能力向上支援のためのワークショップと位置付けられている。日本国温室効果ガスインベントリを作成している地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)は、2003年の初回会合から、WGIAの事務局としてワークショップの企画および運営にあたっている。

現在、WGIA参加各国が気候変動枠組条約の下で作成する義務を負っている国別報告書については、13カ国中6カ国が第2回報告書を提出し終え、またその他の国も最新の報告書のためのインベントリの作成が概ね完了している。次回以降のインベントリ作成の取り組みをさらに効率的に発展させてゆくために、インベントリの分野特有の問題や、今後WGIAを含めた地域支援プログラムの果たすべき役割について議論を行うべく、日本国環境省、カンボジア環境省、国立環境研究所の共催の下、WGIAの第9回会合(WGIA9)が2011年7月13日(水)から15日(金)にかけてIntercontinental Hotel(カンボジア・プノンペン)において開催された。

WGIA9には、日本を含む全14カ国のWGIA参加国[3]および米国環境保護庁の政府関係者や研究者のほか、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等国際機関からの参加者も含め、総計75名が出席した。ワークショップの全体議長は、GIOの田辺清人高度技能専門員が務めた。

2. WGIA9の概要

WGIA9は、鈴木あや子環境省地球環境局総務課低炭素社会推進室室長補佐、H.E. Thuk Kroeun Vuthaカンボジア環境省長官の挨拶により開幕した。まずワークショップの主催国である日本およびカンボジアよりそれぞれの国における気候変動に関する政策が紹介された。次に専門家諮問グループ(CGE[4])のメンバーである田辺高度技能専門員から、CGEの活動報告やWGIA8以降の国際交渉等において進展の見られた参加各国に関連する情報の共有が行われた。またIPCCからは、2006年IPCCガイドラインの湿地に関する補遺の策定、および2006年ガイドラインに基づく算定を行うソフトウェア等に関する進捗状況の報告がなされた。

(1) WGIA参加国の最新のインベントリについて

昨年末から本会合までに国別報告書を提出したインドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムが、各国の国別報告書(いずれも第2回国別報告書)の概要についてインベントリを中心に報告した。第2回国別報告書で報告義務のある2000年のインベントリを報告し、前回から発展した点や現在抱える課題とその対策等を参加者と共有した。いずれの国においても、前回インベントリと比べて報告しているカテゴリーの増加等、内容が充実し、また作成体制が整っていることが確認された。

(2) インベントリと気候変動緩和策の関係性について

インベントリ整備の潜在的な有用性を顕在化させるための取り組みを進めるべきとの前回会合での指摘、およびインベントリと気候変動緩和のための行動に関する情報を隔年報告書で報告すべきとのカンクン合意を受け、インベントリと緩和策の関係性を整理した。中国、タイ、マレーシアがインベントリの緩和策への適用例を紹介し、緩和策検討の際の基礎データとして、また実施された緩和策の効果を評価する指標としてインベントリを用いることが可能であることを確認し、緩和の行動を持続的に実施するためにインベントリが有用であることを再認識した。さらに、フィリピンおよびインドがインベントリの改善および緩和策の評価に適用し得る排出係数の構築に関する研究について報告した。その後の議論において、インベントリと緩和策の関係性を保証するためにインベントリ作成者と緩和策を検討する専門家との連携を強化することが推奨された。

(3) WGIA参加国間のインベントリ相互学習

2〜3カ国のインベントリ作成者が互いのインベントリについて詳細に学習し、日本の仲介の下で意見交換を通じて自国のインベントリの改善に活かすことを目的として、相互学習を実施した。今回は、エネルギー分野(インドネシア–モンゴル間)、土地利用変化および林業分野(LUCF)(日本–ラオス間)、廃棄物分野(カンボジア–インドネシア–韓国の3カ国間)で行った。参加国は互いにパートナー国の排出量の算定に用いたワークシートおよび方法論を詳細に記した報告書を事前に読み込み、当日の会合ではその知識を前提に対面で意見交換を行った(写真)。会合では算定方法のみならず、各国の国内制度や排出源のもつ背景について多くの質疑応答がされ、参加各国は他国のインベントリに関する理解が深まるとともに自国のインベントリの特徴を再認識することができた。今回の取り組みを通じて、参加各国の相互学習が、算定方法の改善のみならず、インベントリの透明性の改善の手がかりとなるため、温室効果ガス排出量のMRVの質の向上に貢献し得ることが確認された。

photo. 相互学習(エネルギー分野)

相互学習(エネルギー分野)の様子

(4) インベントリの各分野に特有な問題について(セクター別分科会)

廃棄物分科会
活動量データの精緻化および排出係数と廃棄物管理実態との乖離について問題提議がなされた。廃棄物統計の整備が不十分な地域では、活動量の算出について多くの仮定と推測が含まれるため、廃棄物担当部署、地方自治体および廃棄物分野の専門家との連携による地域別統計や調査研究成果の掘り起こしの必要性が示された。また、排出係数の地域特性についてWGIAおよびIPCCのデータベースを活用した情報共有の推進が提案された。
CO2以外のガスについてのインベントリ分科会
二酸化炭素(CO2)以外の温室効果ガスであるメタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン(PFC)および六フッ化硫黄(SF6)ガスの排出について議論を行った。多くの国においては、農業分野から発生するCH4の排出量が最も多いため、この分野での算定方法の改善および削減策について引き続き議論していくことが重要であると確認された。また、現在、気候変動枠組条約の非附属書I国(主に途上国)にはFガス(HFC、PFC、SF6)の報告義務はないが、特に冷媒として使用されるHFCが重要であることを共通認識として、未算定の国は2006年IPCCガイドラインに示される簡易な方法に従って算定していくべきことが推奨された。
運輸分科会
参加国の運輸部門からのCO2の排出を中心に、算定方法の詳細や緩和策について情報共有を行い、各国の運輸部門に関する状況を確認した。また、緩和策の削減効果をより正確にかつ迅速に把握するためには、インベントリ作成に用いる活動量を詳細にし、かつ適時的に排出量を把握する必要があることが認識された。
品質保証/品質管理についてのインベントリ分科会
途上国のインベントリも今後は先進国と同様に品質の確保が条約上の課題となっていくことが想定される。本分科会での各国の発表において、現時点ではインベントリの品質保証・管理活動として位置づけられていないものの実質的には既にそのように機能している活動があることが確認された。また、これら活動の記録およびその保持の重要性が参加者間の議論の中で再認識され、これらの活動は、将来の正式な品質保証・管理計画策定の基礎となり得ることが確認された。

3. WGIAの今後

インベントリ相互学習はこれまでに日本–韓国間で3回実施されてきたが、今回は日本がファシリテーターとなる形式で初めてWGIA参加国間で実施した。これは見聞を広め問題意識を共有するような従来行われてきた分科会形式を補完し、自らが作成に携わっているインベントリの改善と、インベントリ編纂者の技術向上に有効であることが明らかになった。今後のWGIAにおいても重要な要素となっていくであろう。

WGIAは次回で第10回の節目を迎える。カンクン合意に基づく隔年報告書の提出など、途上国の報告についての国際情勢も進展しており、今後の取り組みについて検討する時期にきている。日本の国際貢献の一環として、より有意義な活動にしていきたい。

脚注

  1. これまでのWGIAの報告書はGIOのホームページにて閲覧可能。​(http://www-gio.nies.go.jp/wgia/wgiaindex-j.html
  2. Measurability, Reportability, and Verifiabilityの略
  3. カンボジア、中国、インド、インドネシア、日本、韓国、シンガポール、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム
  4. 専門家諮問グループ(CGE)は、非附属書I国(途上国)のNC作成を支援するために構築された。現在のCGEはCOP15により再構築されたグループで、2010〜2012年まで支援活動を行うこととなっている(決定5/CP.15)。

カンボジアと日本の電力事情

玉井暁大

夜に飛行機でプノンペンに入ったときに空から見た感想は「思っていたより街灯で明るい」というものであった。昨年のラオス、ヴィエンチャンはかなり暗かったらしく、自分もそのような光景を想像していた。さてプノンペン滞在中、1日にほぼ2回の停電を経験した。すぐに復旧されたものの、プロジェクターが再使用できるようになるまでの時間が掛かったり(写真)、資料の準備で使っているコピー機が止まってミスプリントになったりした。その一方で暑い(とはいえ日本の方が気温は高かったように思う)途上国の常、ホテルなどでは冷房をガンガンにかけるのがサービスといった風情であった。翻って日本では、東日本大震災による原発停止などの影響を受け、普段あまり気にしなかった人からすれば息苦しいであろう程の節電ムードであるが、そのおかげか輪番停電や大停電は4月以降発生していない。持続可能な社会のあるべき姿というのは、どちらにより近いのだろうか。

photo. 停電

発表中に停電し復旧直後、照明はついたがプロジェクターがまだ復旧していない

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP