2019年3月号 [Vol.29 No.12] 通巻第339号 201903_339001

国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)報告 政府代表団メンバーからの報告:パリ協定実施ルール、一部を除き採択される

  • 地球環境研究センター 地球環境データ統合解析推進室 主任研究員 畠中エルザ
    (地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス)
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小坂尚史

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

2018年12月2〜15日、ポーランド・カトヴィツェにおいて国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)第24回締約国会議(Conference of the Parties: COP24)、京都議定書第14回締約国会合(Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Kyoto Protocol: CMP14)およびパリ協定第1回締約国会合第3部(Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement: CMA1-3)が開催された。また、これと並行して、パリ協定特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Paris Agreement: APA)第1回会合(第7部)および第49回補助機関会合(科学上および技術上の助言に関する補助機関会合: Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice: SBSTA49、実施に関する補助機関会合:Subsidiary Body for Implementation: SBI49)が開催された。国立環境研究所からは、日本政府代表団(交渉)、サイドイベント(発表)、ブース(展示)という3つの立場で参加した。本稿では交渉内容について紹介する。なお、サイドイベントと展示ブースについては、国立環境研究所ニュース37巻6号(http://www.nies.go.jp/kanko/news/37/37-6/37-6-07.html)で報告する。

今回のCOP24では、議論が決着しなかった市場メカニズムの議題を除き、パリ協定を実施に移すための詳細ルールが採択された。これでパリ協定の本格運用に向けて大きな部分の準備が整ったことになる。他にもタラノア対話[注]の政治フェーズが実施され、気候資金等も2025年以降の長期資金目標の検討のあり方などの議論が注目されたが、本稿では筆者らが参加していたパリ協定実施ルール、とりわけ透明性関連議題に注力して政府代表団による交渉について概要を報告する。その他の事項に関する交渉概要は、環境省の報道発表(http://www.env.go.jp/press/106279.html)等に紹介されているので参照されたい。

COP24会場のスタジアムと前面のエントランス施設

1. パリ協定の下での行動と支援のための透明性フレームワークに関する決定

パリ協定には京都議定書のように決められた削減目標はない。各国が自主的に決定する貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)を深掘りしていくことは求められているものの、各国がそれぞれに表明してそれぞれに達成を目指す仕組みである。そして排出量や目標達成の進捗状況を、透明性を担保させた形で報告させる。目標を自己決定→表明→達成状況報告→世界全体での進捗確認が繰り返されれば徐々に取り組みが深まり排出を削減できるという考え方だ。京都議定書の際には、国際交渉の綱引きの中で削減目標が議定書本文採択と同時に合意されたが、パリ協定の下では他国や非政府アクターの声を受け事後的に改善していくことになる。そのような意味では、透明性確保の重要性は以前より高まっていると言える。

透明性フレームワークの詳細ルールに関係するCOP24決定の概要だが、まず、新たに透明性報告書(biennial transparency report)という隔年の報告書の作成が求められることになった。各国がこの報告書を提出し、技術的専門家審査を受け、促進的多国間検討を受けることになる。(詳細は後述)

透明性報告書の内容は表1に示すとおりである。義務と推奨とで、要求に強弱がついている。先進国には目標と資金支援の透明性を、途上国には排出報告と目標の透明性を強く求めている。

表1透明性報告書の構成、義務の程度

(a) 国家インベントリ報告書 すべての国の義務
(b) NDCの進捗・達成状況の確認に必要な情報 すべての国の義務
(c) 気候変動による影響および適応に関する情報 すべての国に推奨
(d) 途上国に提供された資金・技術移転・能力向上に関する情報 先進国のみ義務、その他の支援提供国は推奨
(e) 必要とされる/受領した資金・技術移転・能力向上に関する支援の情報 途上国のみ推奨

(注)ここで言う先進国/途上国はdeveloped country/developing countryであり、気候変動枠組条約の下で定義づけられていたAnnex I Party/Non-Annex I Party(附属書I国/非附属書I国)とは異なり、具体的な国名を明示していないのがポイントとなる。

最初の透明性報告書の提出期限は遅くとも2024年12月末とされている。なお、透明性報告書の根幹をなす国家インベントリ報告書は、この一部としても、あるいは独立した報告書としてもよいことになっている。また、条約の下の義務を満たすための年次インベントリ報告(すなわち先進国による従来からの報告)においてもパリ協定の下でのルールを使用することになった。これに伴い、従来の形での詳細な先進国のインベントリ審査は隔年での実施となる。

インベントリの方法論の点では、すべての国が「国家温室効果ガスインベントリのための2006年IPCCガイドライン」(https://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/2006gl/)を用いることを義務づけられた。本ガイドラインは最新のものではあるものの、IPCCでの採択からはすでに10年超を経ているもので、これがようやくすべての国に適用されることになる。なお、途上国は今まで1996年改訂IPCCガイドライン等の適用のみが義務であったので、大きな前進となる。

また、IPCC第5次評価報告書の地球温暖化係数(Global Warming Potential: GWP)の100年値を用いることが決まった。(但し、追加的に他の係数の使用も可)これは現行では先進国はIPCC第4次評価報告書、途上国は第2次評価報告書の値の適用が義務であるため、先進国にとってもやや大きな変更となる。

さらに、CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6、NF3の7ガスの報告が求められることになった。但し、途上国であり、かつ対応能力がまだ不足している場合には、CO2、CH4、N2Oの3ガス、および残り4ガスのうちNDCに含まれるガスもしくは市場メカニズム等の活動に含まれるガスもしくは過去報告したことのあるガスだけでもよい、という柔軟性条項が付記された。これは、先進国、途上国とも当面は大きな変更にはならないと思われる。

また、インベントリ提出年の前々年の数値の報告が求められることになった。但し、これも3年前の数値報告も認める柔軟性条項が付記された。先進国にとっては前々年の報告は現行通りだが、途上国にとって現行は4年前の数値報告が義務であり、それさえ守れていない国が多いため、大きな前進になる。

こうした柔軟性条項が付されることによって、基本的に、先進国・途上国共通の実施ルールとなった。これがパリ協定による大きな変更点である。なお、柔軟性に関しては、議論に多くの時間が割かれ、わざわざ個別のセクションを設けてその考え方をガイドラインの冒頭に記載している。具体的には、それぞれの途上国が、どのガイドラインの規定について柔軟性条項を活用するのか、それはどのような能力的制約によるものなのか、またどのようなスケジュールで改善を予定しているのかを説明することになっている。また、審査では、柔軟性条項の活用に関する各国の自己決定そのものや、柔軟性条項の活用なしに当該規定の要求を満たしうるか否かは問えないとされた。

このように、共通ルールとはいえ、随所に異なる取り扱いとなっている箇所があるが、先進国と途上国ではスタート地点が異なるため、致し方のない部分はある。原則として、共通であると言える形に持っていくことは米国などにとっては非常に重要な点だったようである。交渉終盤まで先進国・途上国の責任の程度を差別化する二分論を掲げる途上国がいたことを考えると大きな成果だ。徐々に先進国・途上国の差が狭まることが期待される。

技術的専門家審査(Technical Expert Review)は、現行の先進国のインベントリ・隔年報告書の審査と似ているが、ガイドラインの関連箇所の冒頭に、審査チームがやってはならないことリストが設けられているのが特徴的である。具体的には、政治的な判断を下してはならないこと、審査対象国のNDCや国内行動、提供した支援そのものが十分か否か、また先に述べたように柔軟性条項の活用に関する意思決定そのものを問うてはいけないとされている。

また、審査の後には、進捗に関する促進的多国間検討(Facilitative, Multilateral Consideration of Progress)が実施される。これもカンクン合意(COP16)で決まっていた透明性確保のための仕組みの下で隔年報告書、隔年更新報告書に対して行われている多国間評価(Multilateral Assessment: MA)や促進的意見の共有(Facilitative Sharing of Views: FSV)に類似している。当該検討で取り扱う情報は、表1に記載したもののうち、(c) 適応を除く、(a) インベントリ、(b) NDC進捗、(d) 提供した支援、(e) 受領した支援である。

2. 第3回多国間評価(MA)、第6回促進的意見の共有(FSV)

今次会合では、また、12月3日の午前、7日の午後に、EU、カナダ、エストニア、ラトビア、リトアニア、フランス、ドイツ、チェコ、ハンガリー、スロバキア、オランダの計11カ国に対してMAが実施された。また、12月3日の午後、7日の午前に、アルゼンチン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、中国、ヨルダン、アンドラ、レバノン、モンゴル、ナミビア、トーゴ、チュニジアの計10カ国に対してFSVが実施された。政府代表団員でなくとも参加できる会合の割には、始まった頃に比べると傍聴者が少なくなった印象は否めないが、相変わらず興味深いやり取りが行われている。

ここでは初めてFSVを受けた中国への質問内容を紹介したい。インドからは、インベントリにおいて不確実性が高いと説明されているセクター(土地利用、土地利用変化及び林業、廃棄物、農業)の理由、排出量取引のパイロット事業実施で得られた教訓(EU・ニュージーランドも同様)、第12次5カ年計画期間中の緩和のドライバーについて、同5カ年計画における省エネ施策の削減ポテンシャルの総量、炭素強度と排出量総量の管理の具体的な実施方法、が問われた。豪州・EUは今後のインベントリ改善における優先順位づけ等について質問した。米国は、省レベルで実施されているパイロット事業の経験の共有を求め、省ごとに能力のバラつきが見られるのか、どういったニーズがあるのか、また、植林・緑化プログラムの進捗状況やコベネフィットが見られるかを問うた。韓国は、排出量取引制度の前提となる、事業所ごとのインベントリづくりについて質問した。マレーシアからは、国・地方・企業レベルでの算定・報告・検証活動実施の経験の共有を求める質問があった。ニュージーランドからは、全般的にどういった能力向上のニーズ・国際支援の要望があるかという問いがあった。日本からは、インベントリの国内体制について質問した。上記は、より詳細な情報の提供を求めるものであったが、スイスからはやや踏み込んだ質問が投げかけられた。それは、中国は、エネルギーセクターのうち、燃料の燃焼サブセクターの排出量を2通りの方法で算定している(一つは報告用、もう一つは確認用)にもかかわらず、それらの値の比較分析作業の結果に関する説明が報告書では省略されているが、この比較分析結果の差分はスイスのエネルギーセクター全体の数値よりも大きいため、再検討のうえ報告するようにして欲しいというものであった。ちなみに、本件への回答はなかった。

中国へのFSVは、プレゼン30分、質疑応答30分で、回答が終了しなかったため、ウェブでの追加回答を行うこととなった。今後のパリ協定下の促進的多国間検討も、MAやFSVと同様の場となるのか注目したい。

3. 専門家協議グループ(CGE)

その他、筆者らが担当していた議題に非附属書I国の国別報告書に関する専門家協議グループ(Consultative Group of Experts: CGE)への付託事項のレビューというものがあった。CGEは既存の透明性確保のための仕組みの下で報告書の作成などを支援する組織である。パリ協定の下での透明性報告書の導入の負荷を和らげるためにこのグループの長期間の活動継続を求める途上国と、ニーズを理解しつつも、短期の延長しか認めたくない先進国とで綱引きとなったが、最終的には8年間の長期延長となった。

4. 最後に

実施ルールは概ね決まったが、運用面では細かな精査と解釈が必要な部分が多々残っている。これから各国において決定文書の分析と検討が行われ、他国の動きを横目に見つつ自国にとって不便のない解釈をしていくことになるだろう。大枠でのスケジュールを考えつつ、足元での国内作業が間に合うか否かといったことも考慮する必要がある。途上国の場合は、国内体制や資金繰りも考慮していくことになるだろう。また、詳細ルールのさらなる詳細で検討先送りになった事項もあるためSBSTAなどでの作業が待っている。

せっかくの実施ルールも主要アクターがパリ協定に参加していないと実効性が削がれるが、2017年6月1日にパリ協定の離脱を表明していた米国は、筆者らの参加していた議題では今回もとくに大きな態度の変化は見られず、むしろ先頭に立って途上国に厳しい要求を行っていた印象である。ただ、IPCCの1.5°C特別報告書に関しては、SBSTA閉会会合において報告書に留意(take note)し、IPCCの専門家の努力を歓迎(welcome)する内容のSBSTA議長の文言案について、小島しょ国連合が報告書を歓迎する文言への変更提案を行ったことに関し米国は断固反対するなど、大方針に関しては一貫した立場をとっている。なお、サウジアラビア、クウェート、ロシアも同様の立場をとって紛糾したため、SBSTAでは結論文書の採択に至らず決裂している。次回のチリでのCOP25を含め、トランプ政権中はずっと同じ風景のままになるのか気になるところである。

脚注

  • タラノアとは前回COP23の議長国フィジーの表現で、包摂的・参加型・透明な対話プロセスを意味する。パリ協定の目標達成に資する世界の優良事例の経験共有などが行われた。

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