CGERリポート

CGER’S SUPERCOMPUTER MONOGRAPH REPORT Vol.18

Development of Process-based NICE Model and Simulation of Ecosystem Dynamics in the Catchment of East Asia (Part III)
統合型流域環境管理モデル(NICEモデル)の開発及び東アジア地域の流域生態系のシミュレーション(Part III)

NAKAYAMA T.

地球規模での人為活動に伴う水資源を含む環境資源の劣化に対して、生態系機能を定量的に評価・予測し、持続的発展のための科学的根拠に基づいた政策提言を行うことは非常に重要である。特に、東アジア地域は急激な経済成長の一方で環境劣化も著しく、多様かつ複雑な水問題を内包しているという特徴を有する(図1)。

本モノグラフ(Part III)はVol.11(Part I)及びVol.14(Part II)の後続版である。都市域での様々な人間活動に伴う環境汚染は水循環アンバランス・ヒートアイランド・水質汚染・生態系劣化など複合的な要素を呈してきている。現地観測及び衛星データ解析との統合による3次元グリッド型の統合型流域管理NICE(National Integrated Catchment-based Eco-hydrology)モデル(図2)の開発及び流域生態系のシミュレーションは、このような複合的な環境劣化問題の解決に加えて流域の定量的評価のためにも非常に重要である。

本モノグラフでは、統合型NICEモデルの日本及び中国の都市域への適用事例として、中国華北平原における水資源の過剰利用に伴う水循環劣化の解明(図3)、中国の都市域における経済成長に伴う流域生態系劣化の影響評価(図4)、更には関東首都圏における水資源の有効活用によるヒートアイランド低減効果の予測(図5)等について紹介している。

水資源は人間活動に不可欠なものでありその過剰利用は水循環を含む流域の生態系劣化を引き起こすことになりかねないが、その有効活用は環境共生型社会構築に向けた複合的な環境汚染に対するWin-Win型解決を図るために効果的である。

図1 水・熱・物質循環に基づく生態系影響評価
図2 執筆者が中心になって開発してきた統合型流域環境管理NICE(National Integrated Catchment-based Eco-hydrology)モデルの概念図。水・熱収支、物質輸送、植生増殖プロセスをインタラクティブに解くシステムになっている
図3 過剰汲み上げにより年々低下する地下水位(華北平原)。複雑な水循環システムを考慮したNICEモデルを適用することによって、過去半世紀における地下水位の急激な低下の様子が空間的に明らかになるとともに作物生産量・水循環・水資源の利用可能性間の定量的な評価が可能になった
図4 大連市における水需要増加とBiliu川流域の環境劣化の関係。環境容量の計算値及びNDVI間での統計学的方法に基づくデカップリング指標は大連市における深刻な水ストレスを示すとともに、ダム建設に伴う環境劣化とともにそのストレスは増加することが明らかになった
図5 都市域の健全な水・熱環境再生に向けた予測計算(川崎市)。人為活動による水資源の過剰利用・規制や治水・利水のための様々なインフラ構築によってアンバランスになった水循環(地下水位の異常低下に伴う地盤沈下エリアと頻繁に冠水するエリアの混在など)及びヒートアイランドに伴う熱汚染に対して、地下水を含む水資源を有効活用することは健全な水循環再生及びヒートアイランド低減のために効果的であることが示された