CGERリポート

CGER’S SUPERCOMPUTER MONOGRAPH REPORT Vol.19

Numerical Simulations of Turbulence Structure and Scalar Transfer across the Air-Water Interfaces
気液界面での乱流構造とスカラ輸送に関する数値シミュレーション

KOMORI S.

大気・海洋間の海水面に相当する気液界面近傍での乱流構造、および、その気液界面を通しての熱および物質の輸送機構を明らかにすることは、グローバルなスケールでの炭素収支や熱収支を正確に見積もるうえで、また、台風や集中豪雨等の局所的な気象変化を正確に予測するうえで重要である。

このモノグラフは大気・海洋相互作用、つまり、気液界面を通しての運動量、熱および物質の輸送機構を地球環境研究センターのスーパーコンピュータを用いて明らかにした一連の基礎研究の成果を纏めたものである。特に、気液界面輸送には界面上を吹く風の剪断力に加えて、うねり、降雨、砕波による飛散液滴や巻き込み気泡などが影響を及ぼすため、これらの因子の影響についても数値計算および室内実験を用いて考察を行っている。

第1章は気液界面上に気体のせん断力が働くことにより形成される風波乱流場の直接数値計算(DNS)の結果を扱っており、図1に第二不変量の分布に見られる組織的な乱流渦が気液界面下に形成され、この縦渦が図2のスカラーフラックスに見られるようにスカラー輸送を支配することを示している。また、風速が増加するとこの縦渦に砕波に伴う乱流渦が重畳することによりパッチ状の渦が形成され、この渦によりスカラー輸送が著しく促進されることが第2章で示されている。この知見と風波水槽を用いた室内実験とから吹走距離に依存しない物質移動係数の一様風速に対する相関式が提案され、大気・海洋間のCO2の年間交換量が見積もられている。

図1 気液界面下の液流側の渦構造(第2不変量の分布)
図2 気液界面でのスカラーフラックス

第3章では様々な形状を持つ波状壁面上の気流に対してDNSを適用することにより波状壁面上に働く抗力を評価し、風波と同じ方向に進行するうねりが気液界面でのスカラー輸送を抑制する方向に働くという風波水槽での実験結果を説明している。

第4章では第5章で扱う気流中に置かれた液滴内外の液流および気流に対するDNSの結果による液滴と周囲大気とのCO2の交換量の評価に加えて、気液界面に衝突落下する液滴によるCO2輸送量の室内実験による評価を併用することにより、降雨が大気・海洋間のCO2輸送に及ぼす効果を明らかにしている(図3)。

図3 2001年における a) 降雨によるCO2輸送量、b) 降雨によるCO2吸収量、c) 風波によるCO2交換量

第5〜6章では砕波時の気流中への飛散液滴および液流中への巻き込み気泡がスカラー輸送に及ぼす影響を評価するため、一様剪断気流中に置かれた液滴内外の流れ(図4)、および、一様剪断液流中に置かれた気泡内外の流れにDNSを適用することにより、液滴と気泡に働く抗力と揚力を評価している。これらの結果と風波水槽を用いた室内実験とから風速20m/s以下の領域では砕波による巻き込み気泡や飛散液滴のスカラー輸送に及ぼす影響は小さいが、それ以上の高風速下では影響が無視できなくなることが最近の研究で明らかにされている。

図4 液滴内外の気流と液流の流速分布

最後の第7章ではグローバルな熱収支の評価で重要となる雲の影響を評価するためDNSを用いて対流雲中の放射特性に及ぼす液滴粒子の乱流クラスタリング(図5)の影響を明らかにしている。

図5 一様乱流中での液滴粒子のクラスタリング