2011年12月号 [Vol.22 No.9] 通巻第253号 201112_253001

iLEAPS(統合陸域生態–大気プロセス研究計画):第三回会議報告

地球環境研究センター 主席研究員室 特別研究員 安立美奈子

1. はじめに

統合陸域生態–大気プロセス研究計画(Integrated Land Ecosystem–Atmosphere Processes Study: iLEAPS)は、地球システムの大気–陸域境界で起きている諸過程の理解の促進を目的とした国際研究計画であり、第2期地球圏–生物圏国際協同研究計画(International Geosphere–Biosphere Program: IGBP)の大気–陸域間を担うコアプロジェクトとして2004年に設立された。iLEAPSの大きな目的は、大気–陸域間のエネルギーおよび物質の交換やこれらの変動に関連する物理化学的、および生物学的な諸過程について理解を深めることであり、他の国際研究計画やプロジェクトとも連携しつつ研究活動を行っている。第一回会議は2006年にアメリカで、第二回会議は2009年にオーストラリアで行われた。そして、第三回の国際会議が2011年9月18日から23日の日程でドイツのガルミッシュ・パルテンキルヘンで行われた。筆者はこの会議に初めて参加する機会を得たので、会議の内容や感じたことを報告する。

photo. 会議場

ガルミッシュ・パルテンキルヘンの会議場

2. 幅広い分野間の連携

口頭発表では15のセッションで計67、ポスター発表では4つのテーマで140もの発表が行われた。これらの発表で扱われた分野は非常に幅広く、大気中の熱エネルギーや水循環といった一般的な気象学におけるものから、温室効果ガス(CO2, CH4, N2O)、窒素酸化物(NOx)、オゾン、植物からの揮発性有機化合物(Biogenic Volatile Organic Compounds: BVOC)、エアロゾルなどの数多くの物質を対象としていた。また、研究対象とする空間的広がりもさまざまで、実験室における植物体の反応や土壌中での物質の流れから、森林や農地といった特定の生態系、ヨーロッパ全域やアメリカ全土、熱帯域や半乾燥地域などの広範囲の地域を対象に、どのようなメカニズムで大気と陸域間を物質が動いているかについての研究成果が発表された。

photo. 口頭発表

会議での口頭発表の様子(写真提供:iLEAPS実行委員)

当然のことながら、追う物質や対象となる空間的範囲が異なれば、物質を測定する手法や解析手法も多種多様となり、衛星リモートセンシングや航空機、気球やタワーフラックスによる観測、シミュレーションモデルの紹介や数種類のモデルによる結果を比較した報告などがあった。また、「炭素循環と窒素循環」「オゾンと植物からの揮発性有機化合物」「オゾンと窒素循環」など、複数の物質の関係についても深く議論されていた。例えば、成層圏のオゾンは地球に降り注ぐ紫外線量を緩和するために重要であるが、地上のオゾンは植物の葉を変色させるなどの有害な影響を与え、その結果、植物の防御反応としてBVOCが生成される例が報告されていた。大気中におけるBVOCの分解過程で生成される化合物は、エアロゾルの生成に大きな役割をもつと言われている。このように大気中の物質は、その発生や分解により他の物質量に影響する可能性もある。筆者は森林生態系の炭素循環を主に扱っているが、「木を見て森を見ず」とならないよう、他の物質との関わりについても意識していかなければならないと、改めて考える良い機会となった。

このような広範な学問分野の連携には、まずお互いの基礎知識を理解し合うことが大きな一歩である。特に口頭発表では他の分野の人にも理解できるように一般的な知識についても意識して述べられており、筆者にとって馴染みのなかった物質についても理解しやすい内容であった。また、重要な環境問題の一つである、今後の気候変化に対する生態系応答の予測や、人為的な土地利用形態の変化が物質循環に及ぼす影響などについて議論された。例えば、前出の3つの温室効果ガスを考えても、それぞれの発生メカニズムが異なるため、生態系や土地利用形態によって着目するガスの種類も異なってくる。地球環境問題に対する解決策を見いだすためにも、各分野または各国における研究組織の連携やデータベース構築の重要性が強調されていた。

筆者はポスターセッションに参加して、東南アジアの2つの熱帯林において、土壌の物理的特性の違いが土壌水分や土壌炭素動態にどのように影響するのかについて、モデルを使ってシミュレーションした結果を報告し、他のモデルを扱っている人からアドバイスを頂くことができた。ポスター会場はやや狭かったが、多くの人が熱心に楽しそうに議論している姿が印象的だった。

photo. ポスターセッション

ポスターセッションの風景(中央は発表中の筆者)

3. 若手の育成

iLEAPSでは若手育成にも力を入れているようで、過去にはサマースクールや測定手法などをトレーニングするコースなどが開催されていた。この会議の前にも、2日間に亘って大学院生や博士号を取得して間もない若手研究者を対象としたワークショップが開催されたので筆者も参加した。このワークショップでは、学際的な研究をするためには何が必要か、他分野の研究者と連携して研究を行うためにはどんな点に注意すべきか、また研究を効率良く行うための時間配分をどうすべきかなど、これから研究を行う上で考えていかねばならないことなどが主なテーマとなっていた。ベテラン研究者やプロの人材教育指導者による講演があり、その後、参加者が10人ほどのグループに分かれて議論する時間が設けられた。研究の内容ではなく、研究に取り組んでいく姿勢についての教育は日本ではほとんど行われていないように思った。ワークショップの内容自体は、筆者がこれまで議論・考察をしてきた内容であったので、もう若手ではないのだなと実感したのだが、このような教育・哲学を大学院にいるうちに受けられればと思った。また、iLEAPS会議の最後には、功労者に対してプレゼントの贈呈が行われ、ほとんどの功労者にはドイツらしい1リットルのビールジョッキがプレゼントされていたが、最優秀ポスター賞の受賞者には英国科学誌「Nature」の1年分の購読権が贈られた。会議で発表された内容にも多くの刺激を受けたが、このように若手研究者を鼓舞して育てていくことの意識の高さに対しても考えさせられた会議でもあった。

photo. 若手研究者ワークショップ

若手研究者ワークショップにおける参加者の議論風景

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