2015年6月号 [Vol.26 No.3] 通巻第295号 201506_295009
酒井広平講師による「検定試験問題を解いてみよう」シリーズ 18 温室効果ガスインベントリと京都メカニズム(その2) —3R・低炭素社会検定より—
3R・低炭素社会検定は、持続可能な社会の実現のため、3Rや低炭素社会に関する知識を活かして、実践行動を行う人を育てることを目的としています。【3R・低炭素社会検定 低炭素社会分野試験問題解説集「はしがき」より】
検定試験問題から出題します。
問51温室効果ガスの説明として、最も不適切なものはどれか?
中級レベル
正答率 61%
- ①CO2は化石燃料が燃焼する際に発生する
- ②CH4は酸素が少ない状態で微生物活動により生成される
- ③N2Oは微生物による生物化学的反応と工業プロセスなどの化学的反応の両方により発生する
- ④HFCは分解しやすい性質を利用し、様々な工業プロセスで使用されている
- ヒント
- 代替フロン類は人工的に作られた物質で、燃えにくく、他の物質と反応しにくく、分解しにくい安定的な物質です。
- 答えと解説
-
答え: ④
HFC、PFC、SF6などのFガスと呼ばれる物質は人工的に作られた安定的な物質です。燃えにくく、他の物質と反応しにくく、分解しにくい物質であり(よって ④ が不適切)、その性質を活かして、半導体などの洗浄剤、電気設備の絶縁ガス、冷蔵庫やエアコンの冷媒などとして利用されています。
CH4は酸素が少ない状態で微生物活動により生成されるガスであり、主要な排出源は水田(稲作)、消化管内発酵(牛のげっぷなど)、廃棄物の埋立などです。
N2Oは微生物による生物化学的反応(農地への窒素肥料の施用など)と工業プロセスなどの化学的反応(アジピン酸の製造、燃料の燃焼など)の両方により発生します。
- *正答率は第6回3R・低炭素社会検定受験者のものです
問52地球温暖化対策の推進に関する法律では、温室効果ガスとして京都議定書対象ガスを指定しているが、平成25年度の法律の改正で新たに1つの温室効果ガスが追加された。追加されたものとして、最も適切なものはどれか?
中級レベル
正答率 64%
- ①メタン
- ②六ふっ化硫黄
- ③二酸化炭素
- ④三ふっ化窒素
- ヒント
- 温室効果ガスインベントリでも計算がはじまりました。排出量は7種類中で最も少ないです。
- 答えと解説
-
答え: ④
これまで京都議定書の第一約束期間は、温室効果ガスとしてCO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)、N2O(一酸化二窒素(亜酸化窒素))、HFCs(ハイドロフルオロカーボン)、PFCs(パーフルオロカーボン)、SF6(六ふっ化硫黄)の6種類のガスが対象になっていました。これら6種類のガスに加え、平成25年度の法律の改正で新たに、三ふっ化窒素(NF3)が追加されました。2013年度以降の排出量を算定する際にこのNF3も計算の対象になります。
NF3が温室効果ガスに追加されるほか、地球温暖化係数(GWP)が変更(IPCC第二次評価報告書の100年間の影響値からIPCC第四次評価報告書の100年間の影響値に変更、下表参照)となります。
温室効果ガス 地球温暖化係数(GWP) 第一約束期間 *1 第二約束期間 *2 CO2 1 1 CH4 21 25 N2O 310 298 HFCs 1,300など 1,430など PFCs 6,500など 7,390など SF6 23,900 22,800 NF3 (対象外) 17,200 - *1: IPCC第二次評価報告書の100年間の影響値
- *2: IPCC第四次評価報告書の100年間の影響値
- *正答率は第6回3R・低炭素社会検定受験者のものです
問53エネルギー起源CO2の直接排出量と電気熱配分後の排出量(間接排出量)の説明として、最も不適切なものはどれか?
中級レベル
正答率 66%
- ①直接排出量と電気熱配分後の排出量の総量は異なる
- ②直接排出量では発電所で発電時に発生したCO2はそのまま発電所の排出とみなされる
- ③電気熱配分後の排出量では電気や熱の生産に伴う排出を消費に応じて最終消費部門に配分している
- ④電気熱配分後の排出量では主にエネルギー転換部門の排出量が家庭、産業、業務、運輸といった各部門に振り分けられる
- ヒント
- 発電に伴う排出量をどこに計上するかがポイントです。また、日本は海外との電気の輸出入がないことが特徴です。
- 答えと解説
-
答え: ①
直接排出量とは、電力や熱の生産に伴う排出を、生産・供給事業者(エネルギー転換部門)に、工場の自家用発電等は産業部門に計上した場合の排出量です。そのため、直接排出量では発電所で発電時に発生したCO2はそのまま発電所の排出とみなします。
電気熱配分後の排出量(間接排出量)とは、電力や熱の生産に伴う排出を、それらの消費に応じて最終消費部門に配分した場合の排出量です。電気熱配分後の排出量では主にエネルギー転換部門の電力生産に伴う排出量が家庭、産業、業務、運輸といった各部門に振り分けられています。国内の公表資料ではこの電気熱配分後の排出量で表現されていることが多くなっています。
なお、日本国内では海外との電力や熱の需給がないこともあり、直接排出量と電気熱配分後の排出量の総量は一致します。
- *正答率は第6回3R・低炭素社会検定受験者のものです
問54冷蔵庫やエアコンの冷媒用途からのHFCs排出量は近年増加している。その増加理由の説明として、最も適切なものはどれか?
初級レベル
正答率 87%
- ①ルームエアコンの国内出荷台数の大幅増加による
- ②オゾン破壊物質であるHCFCからの冷媒の代替による
- ③水銀化合物からの冷媒の代替による
- ④自動車保有台数の大幅増加による
- ヒント
- モントリオール議定書が関係しています。なお、2005年から2013年の排出量増加の主要因になりました。
- 答えと解説
-
答え: ②
問題に記述されているように、日本において、冷蔵庫やエアコン等の冷媒関係からのハイドロフルオロカーボン(HFC)の排出量は増加傾向にあります。この理由はオゾン破壊物質であるハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)からの代替によるものです。HCFCはモントリオール議定書で規制されている物質であり、これに代わり冷媒としてオゾンを破壊しないHFCが利用されるようになりました。
HFCの排出は製造時、使用時、廃棄時に分けられますが、冷媒用途に関しては、特に使用時の排出が増加しています。すなわち、私たちの生活の中で冷媒として利用されているHFCが増えており、冷媒として使用されているHFCが徐々に大気中に漏れ出すことによる排出量が多くを占めていることになります。車のエアコンの効きが悪くなるというのはHFCなどの冷媒がエアコンの外へ漏れ出しているためです。
なお、ルームエアコンの国内出荷台数や自動車保有台数が近年になって大幅増加しているということはありません。
追加的視点冷媒用途のHFCの排出量増加は日本のみに限った話ではなく、国際的にも増加しています。さらに、今後も増加することが予測されているため、HFCの漏れの対策やHFCに代わる代替物質への転換が重要となっています。
- *正答率は第5回3R・低炭素社会検定受験者のものです
- 出典:3R・低炭素社会検定(http://www.3r-teitanso.jp)低炭素社会分野試験問題解説集
温室効果ガスインベントリと京都メカニズムについては、「わが国の2013年度(平成25年度)の温室効果ガス排出量について 〜京都議定書の第二約束期間における最初の排出量の報告〜」でも紹介しています。