2016年4月号 [Vol.27 No.1] 通巻第304号 201604_304006

データ処理運用システム(G2DPS)の開発が進むGOSAT-2プロジェクト

松永恒雄さん
環境計測研究センター 環境情報解析研究室長
地球環境研究センター GOSAT-2プロジェクトチームリーダー
  • 地球環境研究センターニュース編集局

本日は、主にこの1年間の国環研GOSAT-2プロジェクトの進捗をご紹介します(2015年1月までのGOSAT-2プロジェクトについては、「2018年1月の打ち上げを目指すGOSAT-2」地球環境研究センターニュース2015年3月号をご参照下さい)。

国立環境研究所(以下、国環研)では2013年にGOSAT-2プロジェクトが開始されました。GOSAT-2の打ち上げは、5年程の準備期間の後の2018年1月に予定されています。GOSAT-2プロジェクトにおける国環研の最大のミッションは、GOSAT-2データのレベル2以上の高次プロダクト(二酸化炭素やメタンの濃度や吸収排出量等)の定常処理です。G2DPSはそのために必要なデータ処理運用システムで、国環研はG2DPSのシステム開発(システム上で動作するソフトウェアの設計、製作、試験)、整備(ソフトウェアを動かすための専用の計算機の調達やソフトウェアの組込)、運用を行います。同時にG2DPSを設置するための建屋の建築も行います。建屋については昨年末に竣工しました。また環境省と協力して、GOSAT-2データを用いた研究を進めるためのスーパーコンピュータの選定も行いました。このスーパーコンピュータは3月末には地球温暖化研究棟に設置される予定です。さらにデータの検証に関して、フィリピンに新たにGOSAT-2用検証観測サイトを設置するための準備を進めています。フィリピンに設置する観測装置は、現在、国環研で調整中ですが、2016年度には現地に運んで観測を開始したいと思っています。

GOSAT-2のデータ処理を行うシステムであるG2DPSは、データの受信・管理・公開等を行う基幹部と受信した個々のデータを処理して高次プロダクトを作成する処理部があり、現在、その設計が進められています。GOSAT-2運用開始後はJAXAから送られてくるデータを次々と処理して研究者や一般の皆様に公開していくのですが、その入力から出力までを半自動でつなぐデータ処理運用システムがG2DPSです。GOSAT-2プロジェクトメンバーのかなりの労力はこれに割かれています。

なおGOSAT-2ではカメラ系を強化して、より正確な大気汚染の状況やエアロゾルの分布の把握に取り組む予定であり、現在そのためのアルゴリズムやシステムの開発も進めています。その一例をご紹介します。2015年10月16日と19日の北京を含む中国東側の様子を捉えたGOSAT画像に対し、雲を隠す処理をすると大気汚染がひどい場所が浮び上がります。さらにこの結果に対し、東京大学で作られたアルゴリズムを適用することにより、エアロゾルの光学的厚さ(エアロゾル粒子によって大気がどの程度濁っているかを示す量)のマップやエアロゾルの光学的厚さをPM2.5濃度に変換したマップを作成することも行っています。PM2.5濃度に換算するときには地上観測データが必要となりますが、われわれだけでは必要なデータを集められないので、学会等の場で共同研究パートナーを募っています。現在、フィリピン、シンガポール、ベトナム、インドネシアと交渉を進めています。

figure

2016年度には、国環研内に研究事業連携部門ができ、GOSATを含む衛星事業もその一部になる予定です。本部門における衛星事業の目的は、(1) 全球炭素循環に関する科学的理解を深め、将来の予測の高精度化に対応すること、(2) 衛星を用いた排出インベントリや排出削減活動の検証に関する技術を開発し、環境省の地球温暖化関連施策に貢献することです。具体的には、先ほど説明したG2DPS関連業務に加え、2009年に打ち上げられ、現在後期運用期間に入っているGOSATの運用とそのデータの最終処理、GOSAT-3以降の衛星観測に関する検討を行うことも含まれています。

GOSAT・GOSAT-2は環境省、JAXA、国環研の共同プロジェクトですが、そのほかに、気象庁、検証に関する協力機関、国内の大学等の有識者やプロジェクト関係者で構成されるサイエンスチーム、研究公募の研究者、アメリカのOCO-2チームと連携しながらプロジェクトが進められています。また、環境省が推進するJCMプロジェクト[注]の対象国とも事業実施の効果の検証に関する共同研究を進める予定です。

GOSAT-2の開発、運用、さらにGOSAT-3の準備については、衛星関係の「憲法」ともいえる「宇宙基本計画」のなかにも書かれていますので、われわれも身の引き締まる思いです。

脚注

  • 民間企業等による優れた低炭素設備等の導入を促進し、途上国における温室効果ガスを削減するとともに、二国間クレジット制度(JCM)を通してわが国の温室効果ガス削減目標の達成に資することを目的として、環境省が実施する事業。

略語一覧

  • 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(Greenhouse gases Observing SATellite: GOSAT)
  • GOSAT-2データ処理運用システム (GOSAT-2 Data Processing System: G2DPS)
  • 宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency: JAXA)
  • 二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism: JCM)
*第95回地球温暖化プログラム・地球環境研究センター合同セミナー(2016年1月14日)より

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP