2016年7月号 [Vol.27 No.4] 通巻第307号 201607_307009

【最近の研究成果】 陸域生態系のCO2交換における季節振幅は拡大傾向にある 複数モデルのシミュレーション結果に基づく解析

  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室 主任研究員 伊藤昭彦

陸域生態系における光合成と呼吸には、特に中高緯度において明瞭な季節変化が見られ、それが大気中CO2濃度の季節変化に反映されている。最近の観測データより、大気中CO2濃度の1年間での最高値と最低値の差(季節振幅)が過去約50年の間に拡大してきたことが示されており、その原因が注目されている。

本論文では、複数の生態系モデルによるシミュレーション結果に基づいて、陸域CO2交換の季節振幅を詳細に調べた。マルチスケールのモデル相互比較プロジェクト(MsTMIP[注])に参加した15モデルの結果を用い、1901年から2010年の期間について光合成(GPP)・呼吸(RE)・正味交換(NEP)の月別データを解析した。その結果、大多数のモデルは20世紀後半に正味交換において季節振幅が拡大する傾向を再現していることがわかった(図)。光合成と呼吸の季節振幅はそれぞれ拡大していたが、北半球の夏季における光合成増加傾向がより大きいことが正味交換の季節的な振幅拡大につながっていた。このような陸域生態系の挙動は、大気中のCO2濃度に見られる季節振幅の拡大傾向の原因になりうると考えられる。モデルの感度実験の結果から、このような陸域の季節振幅拡大には、気候条件の変化や土地利用変化だけでなく、大気CO2濃度の長期的な上昇に伴う植生の光合成への施肥効果が強く影響していることが分かった。本研究の成果は、グローバルなCO2循環の理解を精緻化させ、陸域モデルの信頼性の検証に役立つと期待される。

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陸域生態系のCO2交換における季節振幅(Seasonal-Cycle Amplitude: SCA)の変化。MsTMIPに参加した15モデルの平均(灰色の帯で示された期間の平均をゼロとした相対値)。左 (a, c, e) 月別CO2フラックスに基づく解析、右 (b, d, f) 年間の積算フラックスに基づく解析。(a, b) 植生の光合成を示す総一次生産(GPP)、(c, d) 生態系からのCO2放出を示す生態系呼吸(RE)、(e, f) 正味のCO2交換を示す純生態系生産(NEP)。異なる色の線は感度実験のため設定条件を変えた場合の結果を示す。SG1:気候条件のみ変化させた場合、SG2:気候 + 土地利用条件を変化させた場合、SG3:気候 + 土地利用 + CO2条件を変化させた場合、BG1:気候 + 土地利用 + CO2 + 窒素沈着条件を変化させた場合 [クリックで拡大]

脚注

  • MsTMIP (Multi-scale Terrestrial Model Intercomparison Project) は、米国が主導する陸域生態系の炭素循環モデルに関する相互比較プロジェクトであり、世界の主要なモデル研究グループが多数参加している。共通の設定条件でモデル計算を行い、陸域の炭素収支におけるシミュレーション結果を様々な側面から解析している。

本研究の論文情報

Decadal trends in the seasonal-cycle amplitude of terrestrial CO2 exchange resulting from the ensemble of terrestrial biosphere models
著者: Ito A., Inatomi M., Huntzinger D. N., Schwalm C., Michalak A. M., Cook R., King A. W., Mao J., Wei Y., Post W. M., Wang W., Arain M. A., Huang M., Lei H., Tian H., Lu C., Yang J., Tao B., Jain A., Poulter B., Peng S., Ciais P., Fisher J. B., Parazoo N., Schaefer K., Peng C., Zeng N., Zhao F.
掲載誌: Tellus B 2016, 68: 28968. DOI:10.3402/tellusb.v68.28968.

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