2016年9月号 [Vol.27 No.6] 通巻第309号 201609_309004

社会とともに環境課題に取り組むために —ステークホルダー対話会合の実施報告—

  • 社会対話・協働推進オフィス 科学コミュニケーター 岩崎茜

1. はじめに

国立国環研究所(以下、国環研)の活動に関わっていたり興味を持って下さる様々な「ステークホルダー」の方々と対話を行う会合が、社会対話・協働推進オフィス(以下、対話オフィス)の主催で6月24日(金)に行われました。国環研の公開シンポジウム(東京)に合わせて開かれたもので、ステークホルダーの方々には研究発表を聞いていただいたのち、研究活動や環境問題について、研究者らとの意見交換に参加していただきました。

お招きしたステークホルダーは次の方々です。

  • 嵐田亮氏(株式会社ユーグレナ研究開発部バイオ燃料開発課長)
  • 枝廣淳子氏(東京都市大学環境学部教授、幸せ経済社会研究所所長)
  • 小杉隆氏(NPO法人国際環境政策研究所理事長)
  • 辻村希望氏(岩波書店『科学』編集部・自然科学書籍編集部)
  • 則武祐二氏(株式会社リコー経済社会研究所主席研究員)

本稿では、ステークホルダーの皆様から頂いたご意見や、議論を通して見えてきた課題について、一部を整理して報告します。

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写真15名のステークホルダー(写真奥の横並び)と国環研が意見交換を行った

※ 今回は、「国環研の研究活動の利用者、協力者、関係者、興味を持ってくださる方々」をステークホルダーと定義しました。

※※ 公開シンポジウムの発表内容はこちらのサイトでご覧いただけます。http://www.nies.go.jp/event/sympo/2016/program.html

2. 対話会合の目的

対話オフィスは、社会との双方向的な対話や協働を推進することを目的に、本年度より新たに国環研に設置されました。活動方針の一つに、新たな対話機会の創出として、社会の様々な立場の方々と意見交換を行うことが挙げられています。単なる情報発信にとどまらず、社会との双方向のコミュニケーションを通して、多様な視点や発想から国環研が学び、得られた知見を研究活動に活かしていくこととともに、社会との相互信頼関係を醸成することを目指しています。

今回の対話会合には、企業やメディア、NPOなど社会の様々な主体を代表して5名をお招きしました。いずれもお仕事を通して環境研究や環境問題に関心の深い方ばかりで、公開シンポジウムでの発表内容に関する専門的な指摘や、国環研にこれから期待する研究など、多くの有益な意見が交わされました。

会合では対話オフィスの江守正多代表がモデレーターをつとめ、国環研から理事長や理事のほかシンポジウムの発表者など約15人が参加しました。

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写真2ステークホルダーからの意見に応じる住理事長(中央右)

3. 公開シンポジウムはどうあるべきか

対話会合では、平日にもかかわらず公開シンポジウムに500人規模の聴衆を集めたことに評価の声があったものの、国環研としてどういう人たちに来てほしいと考えているのか、また実際にどのような聴衆が来ているのかという視点から、まず公開シンポジウムのあり方に関する質問がありました。

国環研を代表して住明正理事長が以下のように答えました。

:社会のdecision making(意思決定)にかかわるような人に来ていただきたいというのが基本です。公開シンポジウムを平日に開催しているのもその意図があり、会社や学校の行事として来ていただきたい。ところが、学生さんが、この時間帯に授業として来られるのか、という問題もあります。

より多くの参加者やもっと若い層を集めるには適切な広報も必要であり、動画サイトなどインターネットを活用した宣伝を考えるべきではないかという意見もありました。

壇上に立った発表者からも、シンポジウムのあり方に対する声が聞かれました。

三枝信子(地球環境研究センター):今回は、国環研が過去5年間、このような研究をやりましたと言いたいシンポジウムになっていると思いました。シンポジウムでは、こちらから何を発信して、どのような人に聞いてもらい、どうフィードバックを受けるのかが重要です。たとえば、どんなことを知りたい人がいるのかを国環研側が察知して、それに向けて構成していく方が面白かったのではないかと思います。

もともと今回のシンポジウムは、昨年度までの5年間(第三期中期計画)の研究成果を報告することが目的となっており、地球温暖化から生物多様性、福島原発事故に伴う問題など、国環研内の様々な重要課題を幅広く扱いました。それゆえに、「研究成果発表会」という意味合いを少なからず帯びていたと言えます。今後は、テーマの絞り方や、双方向性の取り入れ方など、公開シンポジウムのあり方自体を検討していく必要があることが見えてきました。

個々の発表については、単なる研究発表にとどまらず、研究者の個人的な感情が織り込まれると心により響く、という感想が岩波書店の辻村氏らから寄せられました。

辻村氏:もっと面白さですとか、本音に関する部分をフランクにお伝えいただくと、聴衆としては心に響くものがあるのではないかと思いました。シンポジウムでは、あまり概念的なことばかり紹介されるよりも、聴衆としては多少難しくても、もう少し具体的な方が面白いだろうなと思いました。バランスは難しいと思いますが。

一方で発表者からは、多くの聴衆を前に個人の思いを伝えることの難しさが語られました。

大原利眞(福島支部):福島に絡むような動向を説明するということになると、躊躇すべきことが多々あり、どこまで本音を言っていいのか。個人の思いと組織の思いと環境省の思いと、色々な思いが微妙に異なる、あるいは大きく異なるということが多々あり、これをシンポジウムみたいな場でどういう形で説明していけばいいのかというのは、すごく難しいと思っています。

松橋啓介(社会環境システム研究センター):大きなシンポジウムで話をするときには、自分の個人的な感覚についての話をしていても、国環研の答えとしての言質を取られるのではないかという恐れを感じてしまいます。また、ビデオでずっと残るのだと考えると、発言に気をつけなければならないということもあって、ステージ上で考えをまとめて上手に答えるためにはトレーニングが必要だと思いました。

研究者の個人的な思いや回答が、国環研の意向だと取られる可能性もあり、大勢を前にして個人の考えを伝えるのは相応の経験や覚悟が必要だということが分かりました。

4. 環境とビジネス

シンポジウム実行委員長の向井人史・地球環境センター長からは、年を追うごとにシンポジウムの参加者が徐々に減ってきており、ひと昔に比べると環境への社会の関心度が低下しているのではないかという印象が語られました。その要因の一つとして、企業が収益を上げることばかり考えるあまり余裕がなくなり、環境問題に意識を持ちにくくなっている風潮があると住理事長は指摘しました。

実際、リコー社の則武氏によれば、環境に関するシンポジウムで現役の環境部署の人を見かける機会が少なくなっているそうです。

則武氏:企業の環境部門がレベルダウンしている一つの理由として私が感じるのは、CSR(Corporate Social Responsibilityの略。「企業の社会的責任」と訳される)部門の中に環境が入ってしまい、企業としては環境問題が社会貢献の一つとして、体裁がとれるようにやっていればいいというスタンスになってしまったことです。実際に、CSRという観点でいくと、お金もかけられないし、人もそこまで入れられません。

則武氏は経済社会研究所という企業内研究所において、経営層に対して内部から環境問題について発信をする立場です。最近では、環境問題など社会における課題の解決に関わっていくことがビジネスチャンスになるということを提案してきているといいますし、実際に昨年末にパリ協定が合意されたのはビジネス界が動いたことが大きな要因とされています。しかし、脱炭素をビジネス機会ととらえた海外企業からはCEO(最高経営責任者)がCOP21にこぞって参加していたのに対して、日本のビジネス界の反応が薄かったことも、則武氏は問題として指摘しました。

環境とビジネスという観点から、藻の一種であるミドリムシを利用して環境問題への貢献を目指しているのがベンチャー企業のユーグレナ社です。研究員の嵐田氏は、ミドリムシから油を搾ってジェット燃料を作る研究に7年間携わってきました。しかし、実用化に向けてハードルも多く、現段階では環境の課題解決に大きな貢献ができていないというジレンマがあるそうです。

嵐田氏:将来的にCO2の排出量削減などを目指して研究開発を進めていますが、既存の技術の組み合わせによる試算では、バイオ燃料を化石燃料と置き換えることによるCO2排出削減量より、バイオ燃料を作る過程で排出したCO2の量の方が大きくなってしまいます。CO2排出削減ができたとしても、膨大な量のバイオ燃料を製造しなければ温室効果ガス削減への貢献はまだまだ難しいと考えています。将来的に「当社は地球環境の改善に貢献しています」とさらに言えるようにと、私たちは研究を進めております。

嵐田氏からは、2050年までに温室効果ガスを80%削減するという国の目標に対して、どんな技術が有効なのか、最新技術はどうなっているのか、もっと具体的な話を公開シンポジウムで聞きたかったという要望もありました。

環境への意識の薄れは出版界も同様。岩波書店の辻村氏からは、環境関係の本は「“やばい” くらいに面白い」ものでないと売れ行きはなかなか厳しいのではないかというシビアな見通しも伝えられました。

会合では、なぜ日本では、政府レベルも企業レベルも市民レベルも、これだけ環境問題への取り組みが進んでいないのか、という研究も国環研はした方がいいのではないかという提案も出ていました。

5. 社会との連携や対話に向けて

元衆議院議員で50年以上にわたり政治家として環境政策に取り組んできた小杉氏は、地球温暖化問題について、温室効果ガスの削減のためには社会の連携が必要だと指摘しました。

小杉氏:国際会議ではよく、トヨタのプリウスを例に出して、環境と経済というのは決して矛盾しないと言うのです。そういうふうに社会全体を持っていかないとなかなか動かないと思うのです。政(政治)、官(官公庁)、経(経済界)、そして皆さんのような学(研究)、市民NPOやNGO、これらがみんな一体にならないと目標は達成できません。それぞれに限界があるわけですが、それを補うような輪を作る。そのつなぎ役をはたすのが、今日のような場だと思います。

連携ということに関連して、発表した研究者から、地域の個別の問題と国や世界レベルの目標との間に大きなギャップがあり、その橋渡しをするのが難しいという意見もありました。

角谷拓(生物・生態系環境研究センター):生物多様性の分野には個別の問題がたくさんあって、結局地元の市民団体やNGOが頑張って、何とか実現しようとするのが大事です。けれども、そういった問題をたとえば愛知目標のような国際目標につなげていくには大きなギャップがあって。そこを橋渡しできたら理想的なのですが。

生物多様性に限らず、たとえば気候変動にも、個々の取り組みと全体の目標とのギャップという問題は存在します。個人レベルの行動が社会全体を動かすような力につながっていかない、という問題もまた同様です。

田崎智宏(資源循環・廃棄物研究センター):いままでの環境教育では、問題の情報を与えて、個人レベルの行動を促すというところが強調されていて、それを集団の力にしていくという教育はあまりされていない。個人の行動をいかに集団の力にして蓄えていくのか、ということが対話でやろうとしていることの一つなんだろうと思います。

対話や協働の重要性は多くの研究者に共通に認識されているものの、専門分野や研究コミュニティーの垣根を越えて、いかに社会と対話をしていくかというのは、実際にはまだ難しい課題でもあります。

鈴木規之(環境リスク・健康研究センター):市民との対話は大事であると思っているのですが、私どもが話をすると皆さん、難しいとおっしゃるんです。一方で私たち自身がある程度上手に説明を行い、他方で市民の方にも近づいてきてもらわないと分からないのではないかと思うので、その接点を作れないかということを私は常に思っているところがあります。市民の方々の思い、感じ方を、私たちの研究の方法にどうやって結びつけるかということを考えていきたいと思います。

6. 環境問題の “死の谷”

小杉氏からは、研究データが海外で多く引用されていることを引き合いに、研究所のこれまでの活動に評価を頂きました。これに対して原澤英夫理事が次のようにコメントしました。

原澤:国際的にも、色々なデータは国環研オリジナルで結構出しています。しかし、データを発信するだけで精一杯なところがありまして、それを使ってどうするかというのは、たぶん次の実践とか実証とか、そういうところの工夫が必要になってくると思います。

枝廣氏からは、よい研究があることに加えて、科学的な知見や提案をもってどのように社会を変える力にしていくのか、研究者の役割について問題提起がありました。

枝廣氏:科学から政策につなげるというところにすごく大きなギャップがある気がしています。早く手を打った方がいいとわかっているのに政策にならないというギャップ。もう一つは、政策になってもそれがなかなか実践されていないというところ。科学から政策、政策から実践という間に二つの “死の谷” があるのではないか。それをどう乗り越えるかということも、おそらく国環研の研究課題ではないかと思っています。

枝廣氏は有機農業を例に出し、海外では広まっているのに対して、日本では個々の取り組みはあるものの、実践が進まない現状を指摘。国が働きかけをしても、法律(有機農業の推進に関する法律)を作っても、実践レベルではなかなか普及しないという、その原因がどこにあるのか疑問を呈していました。

小杉氏は、医療分野でも基礎研究から実用化までに遅れが生じる日本の現状を紹介したうえで、国環研の基礎的な研究が社会に反映されるよう、すなわち先述の “死の谷” をなくす努力をするためにはどうしたらいいのか、今回の対話会合をその第一歩として今後も引き続き取り組んでほしいと期待を寄せました。

7. おわりに

ステークホルダーの方々との対話によって、国環研が取り組むべき研究や果たすべき役割について、多くの示唆を得ることができました。

最後に、モデレーターの江守が会合を振り返ってまとめました。

江守:社会の色々な価値とか政治的なポジションとか、そういうものから我々の研究が切り離されて、客観的に科学だけしていればいい、ということではなくなってきている。そのことは国環研の多くの研究者の中に考えとして認識されはじめているのではないかと思います。社会の価値と向き合う国環研、ということをこれから考える活動を始めていきたいと思いました。

研究成果をもって、誰とどのように手を携え、社会をどう変えていこうとするのか。社会に開かれた研究活動を進めていくためには、様々な主体の声を聞き、社会が抱える課題を多角的にとらえ、それらを研究に反映させていく継続的な取り組みが重要です。対話オフィスが立ち上がったことを機に今後そうした活動を進めていくための、大事な一歩といえる対話会合になりました。

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地球環境研究センター ニュース編集局
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