2016年10月号 [Vol.27 No.7] 通巻第310号 201610_310004

夏の大公開「環境博士が君を待っている!」を開催しました

  • 地球環境研究センター 交流推進係(国立環境研究所一般公開実行委員)広兼克憲

2016年7月23日(土)、夏休み最初の土曜日に、恒例の国立環境研究所「夏の大公開」を開催しました。例年と違い、まだ梅雨明けしていなかったため雨も心配されましたが、見学にはちょうど良い涼しく雨のない1日に恵まれ、研究所全体の入場者は過去最高の5,250名を記録しました。地球環境研究センターがある地球温暖化研究棟にも多くの方々で賑わいました。

地球環境研究センターは地球温暖化対策に関するパネルディスカッション、宇宙(人工衛星)・空(航空機)・海(船舶)・地上(ステーション、フラックス)観測、スーパーコンピュータによる計算、温室効果ガス排出インベントリ、2種類の研究現場を体験する実験フィールドツアー、海洋酸性化を模した実験体験、さらには環境サイエンスカフェ、3種類の自転車発電、ぱらぱらマンガ・ぱたぱたえほんコーナーと11種類の企画を用意し、53名のスタッフを動員して対応しました。

主な出展内容は以下の通りです。

1. パネルディスカッション「徹底討論 地球温暖化対策—低炭素社会を目指す—」

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シリーズ7回目を迎えた、来場者の皆さんと意見交換しつつ進めるパネルディスカッション、今回は、今年策定された政府の地球温暖化対策計画をテーマとしました。環境省からその担当者、毎日新聞からその報道に携わった記者の方を、さらに前回同様、茗渓学園から高校2年生をゲストパネリストとしてお招きしました(写真1)。詳細は、「温室効果ガス、どうやって減らしていきますか? —夏の大公開『低炭素社会を目指す』パネルディスカッション実施報告—」をご参照ください。

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写真1この問題の第一人者であるパネリストが集結、江守モデレータが会場に問いかけます

2. 潜入! 実験フィールドツアー「森林と太陽—様々な二酸化炭素観測方法」

地球温暖化研究棟では、公開エリア以外の施設(実験室・データ処理室等)を当日申し込み制で特別に公開するラボツアーを毎年行っています。今年は、太陽光を使って二酸化炭素を観測する屋外の大型コンテナ内に設置した高分解能FTSとポータブルFTSの大小2種類の観測装置、森林の中に設置した土壌からの二酸化炭素の放出を測定するための自動開閉式チャンバーをそれぞれ説明しました。午前と午後で計4回行いましたが、全回満員の人気イベントとなりました。屋外の大型コンテナは今年中にフィリピンに移設して観測が開始されますので日本では今回のツアーが見納めとなります。普段見られない研究装置を間近に見ることができたことは、参加者にとって貴重な経験になったのではないでしょうか(写真2, 3)。

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写真2, 3森林内に設置された土壌からの二酸化炭素放出を測る装置(写真内の透明なボックス)の前で説明する研究者(上)、屋外コンテナ内で太陽の光から温室効果ガスを測定する原理について話す研究者(下)

3. 地球環境モニタリング「空から測る」「海で測る」「宇宙から測る」

地球温暖化の現象解明には、環境中の温室効果ガスの観測が不可欠です。限られた研究者と予算の中で地球全体の温室効果ガスの状況を把握することは非常に困難なのが現実です。そこで研究者たちは様々な工夫によって研究を効率的かつ効果的に進めています。その一つが民間航空機による大気観測プロジェクト「CONTRAIL」です。民間航空機に搭載している測定機器の実物を展示し、どのような仕組みで世界各地での大気観測を実現しているのかをわかりやすく説明しました(写真4)。

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写真4どのようにして航空機で空気を採取するのか、協力していただいている航空会社の赤いハッピを着て説明する研究者

また、海が二酸化炭素を吸収したり放出したりすることや、二酸化炭素が海に吸収されると海水が酸性化することを楽しく知っていただくために、体験型の実験を行いました。実験は、液体の酸性・アルカリ性を調べる溶液(BTB溶液)を混ぜた海水入りの小瓶に呼気や外の空気を入れて振り混ぜた時の色の変化を観察するというものです。海水が自分の息の中に含まれる二酸化炭素を吸収して青色(アルカリ性)から黄色(酸性)に変わったり、部屋の空気を入れて振り混ぜるとまた青色に戻ったりする様子に、皆さん驚かれていました(写真5)。この実験セットは実演後希望する方に配布しており、持ち帰って何度でも繰り返し実験できますので、ご自宅で皆さんを驚かすこともできます。

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写真5二酸化炭素が海水に吸収されることで溶液の色が変化する様子に子供から大人まで多くの来場者が関心を寄せていました

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海水実験の説明書

「宇宙から測る」では、今年で観測開始から7年目を迎えた温室効果ガス観測衛星「いぶき」の展示を行い、新たな展示も加えて多くの来場者をお迎えしました。例年人気の直径約80cmの球面ディスプレイの他、今回はその2.5倍の直径約200cmの球面スクリーンに衛星観測データを投影する「ダジックアース」上映タイムを設け、「いぶき」が観測したデータを観客にわかりやすく伝えました(写真6)。また、クイズラリー「GOSATクエスト」も実施し、二酸化炭素分子やメタン分子の模型が隠された箱に手を入れてどの分子かを当てるクイズでは、おそるおそる箱に手を入れる来場者が印象的でした。また、「いぶき」に親しみを持っていただくため、スタッフは人工衛星に取り付けられた太陽電池パドルを模したカチューシャを付けていました。来場者の中にはこのカチューシャを借りて記念撮影される方もいらっしゃいました。

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写真6球面スクリーンに「いぶき」が観測した2009年から2012年の二酸化炭素濃度の推移を投影するダジックアース。研究者が詳しく解説しました

植物や土壌の影響による二酸化炭素濃度の変化を見る実験に関する展示もありました。実際に観測に用いる自動開閉チャンバーシステムを運転し、土壌から発生した二酸化炭素がチャンバー内にたまっていく際の濃度変化を、大画面スクリーンで見ていただきました。一方で、植物苗を入れたチャンバーに植物が好むピンク色のLEDランプを照射して、光合成によってチャンバー内の二酸化炭素が減少していく様子も観察していただきました(写真7)。また、実際の観測に用いられるロボットアームのような3次元超音波風向風速計と二酸化炭素分析計を展示し、森林の上空の空気と二酸化炭素の動きを詳細に測り、森林の二酸化炭素のやりとりを詳しく観測することを説明しました。

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写真7植物が光合成しやすいピンク色の光を当てた植物による実験の内容を説明しています。美しい色の光に大人も子どもも興味津々

4. 地球温暖化とオゾン層破壊の解説

数値シミュレーションによる気候変動予測チームでは、Flashを使ったオゾン層クイズと温暖化クイズ、「5分で解説します。温暖化編」「5分で解説します。オゾン層編」の展示を行いました。

このクイズはネコのイラストがかわいい「おこさま編」とひねりのきいた問題が並んだ「おとな編」があり、順番待ちができるほどの人気でした。「5分で解説します」は温暖化とオゾン層の最新の科学的知見に関して、パワーポイントを使って、5分で解説しました(写真8)。自由研究で温暖化問題の解決をテーマに選んだという神奈川県の高校生2人組も、知りたかったことが理解できたと大満足でした。

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写真8オゾン層について、最新の科学的知見を研究者が5分でわかりやすく解説しました

5. ぱらぱらマンガとぱたぱたえほん

小さなお子さんでも楽しめる「ぱらぱらマンガ」と「ぱたぱたえほん」を作る部屋を設けました(写真9)。両面印刷で2度楽しめる新作の「ぱらぱらマンガ(気温編、降水編、海氷編)」は、地球温暖化を防ぐ努力をした場合(表面)とあまり対策をしなかった場合(裏面)に、将来、気温や降水、海氷がどう変化するかを比較することができます。

また、新企画の「ぱたぱたえほん」は、日差しが強くて暑い日にお出かけするときに、どんな服装やもちものが熱中症予防や紫外線対策として効果的かを考えながらコーディネートできます。

当日は、親子で会話しながら工作している光景も見られ、楽しみながら環境問題について考えるきっかけになったのではないかと思います。

今回の企画は大変好評だったようで、用意した約30席が常時ほとんど埋まるほどの盛況でした。

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写真9スタッフがぱらぱらマンガとぱたぱたえほんの作り方について丁寧に説明しました

6. 自転車de発電

自転車をこぐエネルギーを電気のエネルギーに変えて、家電製品を動かすことで、エネルギー消費量について体感してもらうこの企画は、年齢(小・中・高・一般)と性別でクラス分けした参加者の発電量ランキングを出せるようにリニューアルするなど、毎年強化されています。そして、今年は、せっかく発電した電気のエネルギーを形を変えて体内に取り入れてみようということで、ブレンダーを使って冷たいスムージーをつくる新企画を導入しました。ジューススタンドのような新感覚の自転車発電は超人気で、皆オリジナルのスムージーを家族で美味しくシェアし、絵日記の宿題の一ページを飾ることができる体験をしてもらえました(写真9)。電気は自宅ではスイッチ一つでつけられるので実感がありませんが、発電器と同じことを自分でするとなると、電気を作り出すのが如何に大変か身にしみます。

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写真9家族にもスムージーを飲んでもらえるよう、がんばって自転車をこぐ参加者

今回初企画の環境サイエンスカフェの報告は、「研究者と気軽に語ろう —夏の大公開で『環境サイエンスカフェ』を開きました—」をご覧ください。

夏の大公開では、職員総出で皆様を楽しくお迎えできるよう、毎年工夫を凝らした企画を用意しています。TXつくば駅より、産業技術総合研究所と共同無料循環バスも運行される(今年は10分間隔)等、アクセスも良くなっていますので、是非一度足をお運びください。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

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