2016年11月号 [Vol.27 No.8] 通巻第311号 201611_311005

最近の研究成果 将来の気候変動が北半球高緯度域の陸域生態系炭素収支に与える影響:ISI-MIPデータを用いた分析

  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室 主任研究員 伊藤昭彦
  • 国立環境研究所 野田響仁科一哉

本論文では、気候変動影響モデル相互比較プロジェクト(ISI-MIP[注])で実施されたシミュレーション出力データを用いて、北半球高緯度域の陸域生態系における将来の気候変動影響を調べた。北半球高緯度域は、世界の中でも地球温暖化による温度上昇とそれに伴う影響が顕著な地域として注目されている。この研究では8種類の生態系モデルによる、純一次生産力、植生バイオマス、土壌有機炭素の変化を調べた。ISI-MIPでは複数の気候シナリオを用いた評価が行われたが、温室効果ガス排出が少ないシナリオ(RCP2.6)でも、植生には30%以上のバイオマス変化など大きな影響が引き起こされる可能性が高いことが示唆された。土壌炭素は比較的長い時間スケールを持ち、現在の生態系モデルでの予測には不確実性が大きいが、温室効果ガス排出が多いシナリオ(RCP8.5)では北米の北極海沿岸(図上部のカナダ・ハドソン湾からアラスカにかけて)などで植生バイオマスの50%以上の増加といった大きな変化が生じる可能性が高いことが示された。このような研究結果は、将来の気候変動予測の高精度化を促し、高緯度域の生態系における適応を検討する際にも有用と考えられる。

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複数モデルシミュレーション結果による北半球高緯度の陸域生態系への気候変動影響の出現パターン。複数の気候モデルによる予測シナリオと生態系モデルの組合せによる31通りの計算の一致度合いとして示す。左:温室効果ガス排出が少ないRCP2.6シナリオ、右:温室効果ガス排出が多いRCP8.5シナリオ。上段:純一次生産の変化(∆NPP)、中段:植生バイオマスの変化(∆CVeg)、下段:土壌炭素の変化(∆CSoil)。赤い部分は多くのシミュレーションで変化(現在比10、30、50%より大きい変化)が生じることが予測された領域で、青い部分はほとんど変化が生じなかった領域。中間色の部分はシミュレーションによって結果が分かれた不確定性が大きい領域を指す

脚注

本研究の論文情報

Impacts of future climate change on the carbon budget of northern high-latitude terrestrial ecosystems: an analysis using ISI-MIP data
著者: Ito A., Nishina K., Noda H. M.
掲載誌: Polar Science (2016) 10, 346–355, doi: 10.1016/j.polar.2015.11.002.

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