2017年11月号 [Vol.28 No.8] 通巻第323号 201711_323002

大気中の温室効果ガス濃度の値を世に出している人たちの集まり

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 高度技能専門員 野村渉平

第19回二酸化炭素・温室効果ガス等の計測技術に関する国際会議(19th WMO/IAEA Meeting on Carbon Dioxide, Greenhouse Gases & Related Measurement Techniques, GGMT-2017)が2017年8月27日から31日までスイスのデューベンドルフ(Dübendorf)にあるEMPA(Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology)で行なわれました。

この会議は、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度をハワイのマウナロア山と南極で精緻に連続観測したC. D. Keeling博士が、1975年にアメリカのスクリプス海洋研究所で開催したCO2の測定技術についての会議が発端となり、その後2年に一度開催され、現在に至っています。

今回の会議では東南アジアやオセアニア諸国からも新たに参加者が加わり、多くの国で温室効果ガスの観測が実施されていることを実感しました。

ここで行われた47件の口頭発表と70件に及ぶポスター発表では、温室効果ガスの観測に関連する最新の報告がなされ、様々な議論が行われました(写真1)。例えば、温室効果ガス観測の根幹を支える測定精度や標準ガスについては、アメリカ海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA)が1960年代から全球規模で実施しているフラスコサンプリング(調査サイトの大気を専用のボトルに毎週採取して、アメリカのコロラド州にあるNOAAの分析室に搬送し、ボトル内の温室効果ガス濃度を測定)において、大気が採取される瞬間の風向や風速の違いにより生じる採取された大気の質のばらつきや測定誤差などが整理され、目指す測定精度に到達するための課題が示されました。またそのプログラムで測定されたCO2濃度について、濃度を求める際に使用していた式の係数のわずかな変更およびCO2濃度測定時に生じるCO2の損失量の改訂を行い、1996–2015年のCO2濃度の値を修正したことが報告されました(例えば400.00ppmは400.17ppmに修正)。さらに観測された大気中ガス成分の濃度を決定する際に用いる標準ガスの濃度がボンベ内で経年変化している実態が報告され(主に一酸化炭素(CO))、その変化を小さくするための標準ガスの作成方法等が紹介されました。続いて、CO2のδ13Cを測定している複数の機関が精度良くCO2のδ13Cを測定できていること、そして各機関のCO2のδ13Cの値の差が示され、CO2やメタン(CH4)濃度と同様に、CO2のδ13Cも精度管理が整っていることが報告されました。またAirCore(上空数kmの地点から下降する過程で大気をコイル状に巻かれたチューブ内に採取する装置)で採取された微量の大気を用いて14CO2を測定した試験等も報告され、温室効果ガスのモニタリングが多角的に行われている現状を知りました。

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写真1ボルネオ島で観測された温室効果ガスの結果を報告する筆者

次に各機関が行っている温室効果ガス観測の現状が紹介されました。先ずヨーロッパの各機関が集合して作られた組織により行われている温室効果ガスの観測事業(地上での温室効果ガスの観測(ICOS-RI)と、民間航空機に観測機器を搭載して実施されている上空の温室効果ガス観測(IAGOS))について紹介され、ヨーロッパにおいて着実に温室効果ガス観測の整備が進んでいることが報告されました。その他にアメリカのスクリプス研究所(写真2)などが行っている温室効果ガスの観測が報告されました。また新たに観測が開始された地点(ブラジル、フィジー、インド、香港、インドネシア、マレーシア、キルギス)も多数報告されました。ブラジルの観測では、乾季における降水量の低下に伴いアマゾンの森林において2014年以降、一年を通じてCO2吸収から放出になっていることが報告され、参加者の注目を集めました。さらに都市内の複数地点で大気中の温室効果ガス濃度の観測を行い、得られた観測値とモデルを組み合わせて都市から排出される温室効果ガスを推定する「Mega-city部門」では、前回の会議より多数の観測事例(アメリカのインディアナポリス、ワシントン、ロサンゼルス、日本の東京(スカイツリー)、インドネシアのジャカルタ)が報告されました。

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写真2スクリプス研究所の観測を報告するRalph Keeling博士

本会議には国立環境研究所から9名が参加しました。そこで我々が行っている日本北アメリカ間、日本オーストラリアニュージーランド間、日本東南アジア間を航行する貨物船を用いた航路上の温室効果ガス濃度の観測で得られた値の精度確認、および酸素濃度の観測結果を報告しました。他に2010年から開始したボルネオ島での温室効果ガス観測の結果、2015年から開始したインドネシア・ジャカルタ近郊での温室効果ガスおよび14CO2の観測結果、2016年から開始した東京スカイツリーでの温室効果ガス観測の結果、さらに我々がCO2濃度観測に用いている標準ガスの同位体効果について報告しました。

今回の会議からEmerging Techniques(新たな技術)部門が新設され、Cavity Ring-Down Laser Spectrometer(CRDS[注])などの新たな機器を用いた温室効果ガス測定値が、従来の測定法より精度が良いことや、安価なCO2濃度測定機器を開発して都市内に複数設置し都市のCO2排出源の詳細を明らかにする研究が紹介されました。会議の最後に2年後のGGMT-2019の開催地が韓国の済州島に決定したことが発表されました。

トップ・オブ・ヨーロッパ

地球環境研究センター 炭素循環研究室 高度技能専門員 遅野井祐美

GGMT-2017が開かれたスイスには大気観測で名高いユングフラウヨッホ高地研究所があります。標高3580m、ヨーロッパで最も高い場所にある研究施設です。私たちが大気観測を行っている富士山特別地域気象観測所(標高3776m)とほぼ同じ高さですが、富士山とは違って施設まで鉄道で行くことができます。

今回のGGMT-2017に合わせてこの研究所の見学ツアーが開かれたので、私たちも列車に乗って山を登り、施設を見せてもらいました。施設内の研究機器の中には1931年の創設当初から使われているものもあり、長い歴史とたくさんの研究者の足跡を見ることができました。さらに、研究者用の宿泊設備はまるでホテルのように素晴らしく整備されていて、ここでならさぞ良い研究ができるだろう、と羨望のため息をもらしてしまいました。

この日は9月だというのに雪が降っていて外は何も見えませんでしたが、晴れていれば観光用の展望台から美しいアルプスの山々を望むことができるそうです。スイスへご旅行の際にはぜひ足を運んでみてください。

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晴れた日にはこのような絶景がひろがります。左上に見えるのが施設の観測ドーム

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氷点下、吹雪の中で集合写真撮影。一年中寒いですが晴天が多いのは5月と9月だそうです

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