2018年4月号 [Vol.29 No.1] 通巻第328号 201804_328005

愛媛大学での講義録「地球温暖化とその緩和策・適応策」

  • 地球環境研究センター 交流推進係

2018年1月19日、愛媛大学工学部において、地球環境研究センター主幹の広兼克憲が、非常勤講師として、地球温暖化に関する基本的な知識と対策の現状について講義を行いました。地球環境研究センターのデータを使って大学1年生に直接講義をすることはあまりなかったので、その時の様子を皆さまにご紹介します。

1. 地球温暖化を科学的に理解

(1) 地球温暖化とは

学生さんたちはすでに講座の中で地球温暖化について学習しているそうですが、まずは太陽と地球の関係を示しつつ今一度温暖化について簡単に説明しました。「温室効果ガスを含む大気は身近な例えをするなら地球を寒さから守る服(肌着)のような機能をもっており、現在は適度な保温効果がある(もともとの地球はとても寒い)が、厚着する(温室効果ガス増加)と地球の肌の温度(地表面温度)は高くなってしまう」と解説しました。

そして温室効果の「効果」の部分をより具体的に示すため「もし、温室効果ガスがまったくなかったら地球表面温度は今よりおよそ何°C低くなるか」という4択(3°C、13°C、33°C、53°C)でのクイズを出したところ、ほぼ全員が「33°C」と正解しました。このように高い正解率はこれまで見たことがありませんでした。

(2) 温室効果ガスの観測

国立環境研究所(以下、国環研)で進めている温室効果ガスの観測について紹介しました。国環研では落石岬(北海道)と波照間島(沖縄県)にある地球環境モニタリングス テーションで二酸化炭素(CO2)濃度を毎日観測しています。CO2濃度は一年のうちでは、春先の4〜5月頃に一番高く、夏場の植物の光合成による吸収で8月〜9月に一番低くなります。落石岬の季節変動が波照間島より大きいのは、波照間島と同じ緯度帯での植物の光合成の影響の相対的な大きさ(波照間緯度帯では相対的に海が大きな割合を占めること)と季節性(落石岬より冬と夏の気温差が小さい)のためであることをグラフを示しつつ説明しました。

また、国環研では、北海道天塩、北海道苫小牧、富士北麓の3箇所で、植物(成長過程の異なる森林)が、それぞれどれだけCO2を吸収しているか観測しています。天塩は針葉樹と広葉樹の混交林です。2003年に一定区画を伐採し、その後植林しました。植えた木のCO2吸収量を測ったところ、植林直後は排出量が吸収量を上回っていたのですが、10年後には吸収量のほうが多くなりました。苫小牧では2004年に北海道に上陸した台風によりカラマツ林の9割が倒れてしまいました。その後の観測により、倒木を放置したままの状態では、天塩のように植林した場合よりも正味の吸収がすぐには増加しないことがわかることを説明しました。富士北麓の樹齢55年のカラマツ林はまだ成長を続けており、一定のCO2を吸収し続けている観測結果が出ていることも示しました。

このほか、JAL(日本航空株式会社)などと協力し、国際線旅客機に国環研が共同開発した測定器を搭載してもらって世界中の空でCO2濃度を測っています。現在JALが保有するボーイング777型旅客機のなかで、10機が飛行中に上空の温室効果ガスを測定できるようになっています。これまでの観測により、北半球と南半球の季節変動の違い(南半球より北半球のほうが大きい)や、高度10kmのCO2濃度の分布が明らかとなりました。

環境省、国環研、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で推進しているGOSATプロジェクトでは、人工衛星によって宇宙からCO2やメタンの濃度を観測しています。GOSATは地上約666kmの高度を飛行して、CO2濃度を1%の精度で測っています。

(3) 地球温暖化の影響

国環研では、富山県立山の室堂山荘に定点カメラを設置して、山岳生態系に現れる温暖化の影響を2009年から見ています。学生さんには2009年から2016年までの1年のうちの同時期の山の写真を見比べてもらいました。現時点での写真比較では年ごとの自然変動と温暖化傾向との区別がつかない状況ですが、今後長期の観測を行うことによって実際に影響が現れたかどうかがわかるようになることも納得いただけたようです。

2. 温室効果ガス排出量と世界の地球温暖化対策(緩和策・適応策)

気候変動対策については、京都議定書とパリ協定という国際的な取り決めについて説明しました。

1997年に採択された京都議定書は、2008年〜2012年の第一約束期間に、主として先進国に課された温室効果ガス削減義務です。日本は1990年を基準に6%減らすことが目標でした。第一約束期間に先進国等が求められた削減量の平均は5%ですが、この程度の削減では地球温暖化は止まりません。2015年に採択され、2016年に発効したパリ協定は、京都議定書と比較すると排出削減目標のレベルが違います。パリ協定では、産業革命前からの平均気温上昇を2°C未満に抑え(さらに1.5°Cを目指す)、今世紀後半には人為起源の温室効果ガス排出を実質ゼロにすることが合意されました。

実は、日本は京都議定書の第一約束期間で基準年を上回る排出量を出していますが、6%削減の目標を達成できました。これはなぜでしょう。実は、森林による吸収増加と、京都メカニズムと呼ばれる共同実施や排出量取引による排出量削減を含めたからです。京都議定書達成と同じレベルでは現在の目標は到底達成できません。現在のパリ協定のもと、日本はもっと積極的な削減努力が必要と説明しました。

2014年の世界の温室効果ガス排出量は、1位が中国、2位アメリカ、インド、ロシアと続き、日本は世界第5位の排出大国です。では1位の中国だけが削減すればいいのかというと、そう単純ではありません。たとえば、私たちが着ている服は中国製のものであったりしますが、この場合には日本で消費しているのに中国が温室効果ガスを排出しているわけです。他国の取り組みも必要ですが、日本は自ら模範となる削減を実施する必要があると解説しました。

地球温暖化対策には「緩和」と「適応」の2種類があります。温暖化の原因であるCO2を減らすことは緩和策です。しかし、もうすでに地球温暖化の影響は現れていますから、変わっていく気候に適応(堤防を上げるなど)していく必要があります。これからの地球温暖化対策には緩和と適応の両方が必要です。

パリ協定を踏まえ、日本政府は地球温暖化対策計画を2016年5月に閣議決定しました。地球温暖化対策計画では2013年度(東日本大震災後、原発が止まり、CO2排出量が高い年)を基準として、2030年度に26%削減するという目標になっていますが、削減目標は一律ではなく、家庭部門で39.3%、業務その他部門で39.8%です。長期的には2050年に80%削減、2100年にはゼロかマイナスにしなければ地球温暖化の影響は避けられません。では、どうやって減らすのでしょうか。具体的な対策の例としては、2030年度までに、業務その他部門でLEDなどの高効率照明をストックで100%にすることを掲げています。家庭部門ではゼロエミッション住宅の推進、燃料電池の530万台導入などを進めていかなければなりません。26%削減目標のために積み上げたエネルギーミックスでは、2030年度までに、再生可能エネルギーの割合を全体の22〜24%、原子力も20〜22%としなければならないとされています。2030年度目標を達成できてもその20年後の2050年までには80%削減しなければなりませんから、残りの約50%をどう削減するかということを今から真剣に考えていく必要があります。そして、この目標を達成するためには、これまでの対策の延長線ではなく現在の社会の仕組みを変えるような大きな転換が必要になるでしょうと解説しました。

最後に、若い人たちにはこれからも地球温暖化について関心をもっていただき、わからないことはそのままにせずに調べていただきたいと国環研からのメッセージを伝えました。

コラム海水とCO2の関係を実験で理解

海はCO2を吸収するのでしょうか? 実験で確かめました。

石炭や石油を使うとCO2が出ます。排出されたCO2の半分はそのまま空気中にとどまり、残りの半分は陸上の植物と海の水に吸収されます。本当に海がCO2を吸収するのか実験しました。

実験は、液体の酸性・アルカリ性を調べる溶液(BTB溶液)を混ぜた海水入りの小瓶に呼気を入れて、振り混ぜた時の色の変化を観察するというものです。海水は弱アルカリ性(青色)ですが、小瓶に吐息(大気中の50倍の濃度である2%のCO2が含まれる)を吹きかけ、びんを振ると酸性(黄色)に変わりました。今度は呼気を追い出して部屋の空気と入れ替えて振り混ぜると、また元に近い青色に戻ります。色が変わると学生の間から歓声が上がっていました。この実験により、CO2が増えると海が酸性に近づくことを理解できたと思います。

講義の後、地球温暖化問題に関する意識についてのアンケートにご協力いただき、88人から回答をいただきました。

世代をまたぐ問題でもある地球温暖化に関連して「気候正義(climate justice、地球環境豆知識参照)という言葉を知っているか」という難しい問いも設けましたが、知っていると答えたのは一人だけでした。

「パリ協定では今世紀末までに世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げていますが、実現は可能と思うか」という問いには、9人が思う、55人は思わない、21人はわからないとの回答でした。可能と思った理由については、技術の進歩を期待しているという回答が多く、可能と思わない理由としては、すべての国、すべての人が取り組んではいないからという意見がありました。わからないと答えた人は、現時点で見込みが立っていない、これからの人類の意識次第だからという理由を挙げていました。

パリ協定の目標を達成するために必要なことを複数回答で聞いたところ、制度の創設(法整備等)が41人、研究技術開発(科学の発展)が58人、ライフスタイルの変更が38人でした。すべて大事だが抑えるための制度と科学の発展を両立させ、個々人に認識させるべきというコメントを書いてくれた学生もいました。

環境問題に対して日本が果たすべき役割については、途上国への技術提供や温室効果ガスの排出量を削減し、世界の手本になるべきという意見がありました。物質的な満足より精神的な満足を得たいという価値観の変化と持続可能な社会との関係について自由に記述してもらったところ、こういう考え方(精神的満足を得たい)が増えれば持続可能な社会になりやすいというコメントがありました。一方、人の意識を変えることは難しいという意見もありました。アンケート結果から、地球温暖化について多様な意見があるものの、しっかりした意見をもっている学生が多いことに驚かされました。

地球温暖化を起こしたのは産業革命後からわれわれにかけての世代ですが、実際に影響を受けるのは将来世代になる可能性が高いので、私たちはこれからも若い人に地球温暖化問題を伝えていきたいと思います。

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