2018年11月号 [Vol.29 No.8] 通巻第335号 201811_335007

最近の研究成果 東アジアにおける土壌表面からの一酸化二窒素(N2O)放出とその過去の変化:モデルに基づく評価

  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室長 伊藤昭彦

一酸化二窒素(N2O)は、人為起源の温室効果ガスのうち二酸化炭素・メタンなどに次いで地球温暖化に大きく寄与する(全長寿命温室効果ガスの約6%分)ものであり、さらに近年では成層圏オゾン破壊の原因物質として注目を集めている。グローバルなN2O収支の中で、自然植生や農地における土壌からの放出は最大のソースと考えられている。しかし、その放出速度の空間分布は非常に不均質性が高く時間的な変動も大きいため、広域評価は困難であった。N2O放出は窒素循環の一部をなしており、正しく放出量を評価するためには窒素のインプットからアウトプットに至る主要過程を全て押さえる必要があることも、広域評価を難しくする一因であった。人口が多く経済活動が盛んな東アジア地域は、窒素肥料使用の増大から考えてN2O放出が増加している要注目の領域と考えられる。本研究では、陸域生態系の炭素・窒素・水循環を統合的にシミュレートするモデル(VISIT: Vegetation Integrative SImulator for Trace gases)を用いて、東アジア地域における土壌からのN2O放出量を評価した。モデル計算の期間は1901〜2016年、緯度経度格子の空間分解能は0.5度(約50km)とした。過去の気象条件、土地利用、肥料・堆肥投入、大気沈着を入力とし、自然植生と農耕地について窒素循環プロセスを解くことでN2O放出量を求めた。その結果、2000年代における東アジア全域からの土壌N2O放出量は平均して2.03Tg N2O yr−1と推定され、その約3分の2は農耕地からであった。日本、中国、韓国の農耕地は明らかに大きなN2O放出源となっていた。計算開始時の総放出量は0.6Tg N2O yr−1に過ぎなかったため、計算期間中に放出量は3倍以上に増加したことになる。入力条件を個別に固定する感度実験を行った結果、過去のN2O放出の大部分は農耕地への窒素肥料・堆肥投入量の増加が原因と推定された。陸域に入る窒素量のうちN2Oとして大気に放出される量の割合、つまり放出係数を求めたところ1.38%と推定された。グローバルな収支においても東アジアからの放出寄与は大きく、この地域のN2O放出および窒素動態を把握することは、温暖化対策の実施や環境汚染の防止などにおいて有意義な知見になると考えられる。

東アジア地域においてモデル推定された自然起源および農業起源のN2O放出とその合計

本研究の論文情報

Emissions of nitrous oxide (N2O) from soil surfaces and their historical changes in East Asia: a model-based assessment
著者: Ito A., Nishina K., Ishijima K., Hashimoto S., Inatomi M.
掲載誌: Progress in Earth and Planetary Science, 5:55, DOI: 10.1186/s40645-018-0215-4.

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