2019年3月号 [Vol.29 No.12] 通巻第339号 201903_339007

最近の研究成果 2009年11月の南米南端におけるオゾン量低下イベントに関する解析

  • 地球環境研究センター 気候モデリング・解析研究室長 秋吉英治

2009年11月に南米南端部において、約3週間にわたるオゾン量の低下が続いた。南米では初夏にあたり、紫外線への影響が懸念された。この現象は、9月〜10月にかけて最盛期を迎えるオゾンホールの場となっている南極渦が、季節の進行に伴って11月になって不安定になり、南米方面へ変形・移動し、南米上空にとどまりながら崩壊を始めたことが原因である。それでは、どのようなメカニズムによってこの南極渦の南米方面への変形・移動が起こったのであろうか? また、同様な現象は過去にも起こっていたのであろうか? この2つの疑問を明らかにするため、1979年〜2015年の37年間のERA-Interim再解析気象データの解析を行った。その結果、極渦崩壊が起こり始める11月に、対流圏でブロッキング[1]と呼ばれる現象が起こった時に対流圏から成層圏への波動伝搬が強化され、ブロッキングが起こった領域の東の成層圏に南極渦が伸張あるいは移動し、南極周辺の中高緯度域のオゾン量を低下させる場合が多いことがわかった(図に2009年11月のケースについて示す)。また、11月における同様なブロッキングと南極渦の大規模な伸張・移動との関係は、2009年の他にも5回程度あり、そのうち3回(1994年、1997年、2011年)は南米付近で見られた。しかしながらこれらの年のオゾン量低下の持続期間は2009年ほど長くはなかった。以上の結果は、11月のブロッキングパターンの診断を行うことで、南極渦が崩壊するときの移動・変形の方向(経度)をある程度予想できることを意味し、それはオゾンホール空気塊のその地域への襲来とそれによってもたらされる紫外線増加の予測に役立つ。極渦崩壊時のような大気の変化が激しい時期は数値モデルを用いた予測の精度が落ちる場合があり、そのような場合に本研究は、対流圏の気象場を診断することで予測のための追加情報を提供し予測の精度を上げることができる可能性を示唆している。オゾンホールによる紫外線の脅威にさらされている南米南部の人々に本研究の成果が役立つことを願っている。本研究は地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)[2]の2012年度から2017年度に行われた課題「南米における大気環境リスク管理システムの開発」[2](代表:水野亮 名古屋大学)の一環として行われた。

2009年11月9日の中部対流圏500hPa気圧面の南半球におけるジオポテンシャルハイトの緯度-経度分布(上段)、2つの温位面(中部成層圏675Kと下部成層圏475K)における南極周辺の渦位分布(中段右)、南緯50–60°の波活動フラックス(下段図の矢印)。中段左図は、2009年11月の南緯30–65°の緯度範囲において500hPa気圧面上でジオポテンシャルハイトの分布にブロッキングパターンが表れた日と経度を黒塗りで示している。上段の図で南米大陸南部の西側に波頭のような構造が見え、これがブロッキングと診断されている(中段左図の赤丸で示された部分)。この時ブロッキングが起こった経度の対流圏から南米大陸上空の成層圏へ波動フラックスが増加し(下段図)、成層圏(図で100hPaより上の高度)でのジオポテンシャルハイトの東西偏差が大きくなり(水色とピンクはそれぞれ、ジオポテンシャルハイトの経度平均からの負偏差、正偏差を表す)、これが、極渦の南米大陸方面への移動と対応している(中段右図の白実線によって囲まれた青または紫で示される部分が極渦)。極渦の中は低温のため、ジオポテンシャルハイトが低くなっており、これが下段図の水色の部分の発達と対応している

脚注

  1. 偏西風などの大規模な風の南北の流れの蛇行が大きくなって、その状態が長期間続き低気圧あるいは高気圧が移動せず停滞する現象。このとき、中・高緯度帯にブロッキング高気圧が形成される。
  2. 杉田考史「南米南端域での成層圏オゾンの比較〜地上からのオゾン観測の空白域に寄与するリオ・ガジェゴス〜」地球環境研究センターニュース2018年2月号の脚注5および6を参照してください。

本研究の論文情報

Analysis of the ozone reduction event over the southern tip of South America in November 2009
著者: Akiyoshi, H., Kadowaki, M., Nakamura, H., Sugita, T., Hirooka, T., Harada, Y., Mizuno, A.
掲載誌: Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 123, 12,523–12,542. https://doi.org/10.1029/2017JD028096

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